映画 「第三次世界大戦 四十一時間の恐怖」「怪猫トルコ風呂」「おんな極悪帖」

molmot2006-09-05

奇蹟の職人技 素晴らしき特撮世界  (ラピュタ阿佐ヶ谷

 ラピュタの特集、『奇蹟の職人技 素晴らしき特撮世界』は知っていたが、ラインナップを見ても、まあ殆ど観ているものばかりで、唯一、以前高槻松竹にかかった時に見逃した未ソフト化の「夜叉ヶ池」だけは観ようかと思っていたが、予定が合わず見逃した。一応個人的に推進している『篠田正浩全部観たら1本ぐらい面白い映画作ってるかも』鑑賞運動の一環として行きたかっただけに残念だったが、それよりも、shimizu4310さんが“見たい!!”と書かれていた作品の方に驚いた。「第三次世界大戦 四十一時間の恐怖」という作品で、ラインナップから完全に見落としていた。と言うよりもこの作品、全く知らない。昔、一通り東宝特撮を見尽くした後に在庫豊富なレンタル店に入って「幻の大怪獣 アゴン」のビデオを見つけた時並に驚いた。この方面はほぼ観尽したと思っていたなかで未知の作品が現れた驚き。

206)「第三次世界大戦 四十一時間の恐怖」 (ラピュタ阿佐ヶ谷) ☆☆☆★★

1960年 日本 第二東映 カラー スコープ 77分
監督/日高繁明     脚本/甲斐久尊     出演/梅宮辰夫 三田佳子 加藤嘉 故里やよい 藤島範文

 
 第二東映の1960年製作の作品なので、まあ東映が、しかも第二東映だから陳腐なものに違いないので漫然と眺めるだけになるだろうと思いつつ観始めたら、これが面白い。最近の日本列島があくまで沈没しかけるだけの映画などより遥かに面白い。
 映画会社のカラーというのを痛感するのはこういった作品を観た時だが、散々観て来た東宝とは全く違うテイストに驚いた。
 タイトルから想起するような派手な特撮や見せ場のある作品ではない。「大怪獣東京に現わる」よりは豪華な、ぐらいに考えておくと良い。
 

 開巻からの、学校での平和学習風景から男子学生三人と女子学生一人の組み合わせで話し合う様など、東映製作の教育映画もどきで、或いは未見ながらずっと観たい第二東映の「十五少年漂流記」みたいな(後で本当に少年達は漂流するのだが)系列の作品になるのかと思いきや、視点は広がり、市井の人々の生活を丹念に描いていく。
 梅宮辰夫の新聞記者と看護婦の三田佳子は、梅宮が結婚を何度も申し込んでいるものの看護婦の仕事を続けていきたい三田は返事をはぐらかし続けている。前述の学生の一人の家庭は、父の加藤嘉と姉の三人暮らしで、父は堅実に働いて貯蓄し、娘を嫁に出す日が迫っているのを楽しみにしている。女子学生の父は会社経営者で裕福な家庭である。また、酒場で流しをしている男は妻が病弱で困窮の日々送っている。
 といった割合定石的な人々の日常生活と、緊迫していく世界情勢とが描かれていくわけだが、あくまで市井の人々の家庭を通じた視点からのみで形成しているのが良い。つまりは政治家や研究者といった物語レベルを左右できる存在が本作には居ない。起こってしまったことは享受するしかない人々を描いているのが良かった。
 朝鮮戦争の再発的危機の勃発という生々しさから国連の戦争回避への模索といった流れを、本作は徹底してラジオから聞かせていく。1960年なのでどの家でもというわけではないにしても或る程度はテレビが、と思わなくもないが、「小林信彦60年代日記」読んでもわかるが、未だ1960年ならそうテレビの所有数は少ないか‥ゴルフ場、酒場、街頭で、ラジオから流れる声によって民衆は焦り、パニックを起こし、逃げていく。
 本作で凄いのは逃げ惑う人々の描写で、パーマネントセットを持っていた時代の強みもあるのだろうが、エキストラの異様な数と一方向に向かって進むのではなく、縦横無尽に逃げ惑っているのが良い。殊にカメラが交差点に横移動から入ってクレーンで上に上がり俯瞰でその光景を見せるショットなど実に良い。
 又、加藤嘉が女子学生家族の乗った車にひき逃げされて死亡に至るやるきれなさなどパニック時の暴徒化が描きこまれていて良かった。東宝ではなかなか主要人物が平田明彦にひき逃げされたりしない。
 以下ネタバレ含む。
 そしてソ連からの最後通告の後、東京に水爆が投下されるのだが、国会議事堂などがパーンと爆発したりするだけなので、陳腐なものだが、アングルは正面からでややあおり気味程度のサイズで、「インデペンデンス・デイ」がホワイトハウス爆破シーンで下からあおりすぎていたことを思うと、これぐらいが理想かなというサイズだった。これに円谷特撮が加われば東宝の一連の作品とは異なる特異な作品になったのではないかという気もするが、映画はそう都合よく進まない。
 死の灰が降り、皆死んでいって僅かに残った国(アルゼンチンが仕切ってる!)によって世界の再建を図ろうという呼びかけで映画は終わる。
 登場人物達は死を持って終わっていくなんとも救いようのない作品だが、それだけに妙な生々しさと東宝作品のような爽やかさに時折ケッと思う身としては、この作品はとても好きだ。
 

妄執、異形の人々  (シネマヴェーラ渋谷

 刺激的ラインナップを並べてくれるシネマヴェーラ渋谷は、果たして本当にいつまでもこんな素晴らしい作品を見せていてくれるのかと心配になるぐらいだが、自分はオープン以来「玉割り人ゆき」「変態家族 兄貴の嫁さん」「キャバレー日記」「徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑」しか未だ観ていないが、今回は何度も通うことになるだろうという作品が並んでいて嬉しい。
 又、コチラによれば、荒井美三雄の『処女の刺青』を上映したいというハナシも出たようで、「(秘)女子大寮」「女子大生失踪事件 熟れた匂い」、更にはついでに深尾道典の「女医の愛欲日記」、脚本担当作「史上最大のヒモ 濡れた砂丘」も併せて上映してほしいなと思う。ココらの作品がずっと観れないままだ。幸い今回は深尾道典の「好色源平絵巻」が上映されるのだが。荒井美三雄、深尾道典再発見の機運が高まって欲しいと思う。


207)「怪猫トルコ風呂」 (シネマヴェーラ渋谷) ☆☆☆★★

1975年 日本 東映東京 カラー スコープ 81分
監督/山口和彦     脚本/掛札昌裕 中島信昭     出演/谷ナオミ 大原美佐 室田日出男 殿山泰司 真山知子 東てる美

 タイトルの自主規制で消えた映画は数多いが、トルコという呼称をタイトルに掲げたせいで抹殺されている作品は多い。と言ってトルコ関連映画を全て観たいというわけではないが、どうしても観たい作品は何本かある。中学生の時に小林信彦の「コラムは踊る」を読んでいたら関本郁夫の 「札幌・横浜・名古屋・雄琴・博多 トルコ渡り鳥」を見逃していて未だに捕まえられないと書いてあったのでタイトルを覚え、以降観る機会を待っていたが未だに未見のままだ。他にも「セックスドキュメント トルコの女王」、山口和彦の「色情トルコ日記」、村山新治の「(秘)トルコ風呂」、梅沢薫 の「女子大生出張トルコ」などは、ずーっと観たいと思っている。それだけに、今回ニュープリントで「怪猫トルコ風呂」を観る事が出来るようになったということは、前述の作品等も観ることができる可能性が高まるのではないかと思う。
 「怪猫トルコ風呂」もいつからタイトルを覚えたのかと思うと、どうやら「映画千夜一夜」で山田宏一淀川長治相手に「怪猫トルコ風呂」のハナシをしていたので、そこで初めて覚えたのではないかと思う。
 ただ、何も幻の大傑作とまでは言われていなかった作品なので、それはもう山口和彦だから、傑作じゃないにしても、そこそこ破綻させつつ観れるものにはなっているだろうと思うぐらいで、過剰に期待せず観たが、プログラムピクチャーの佳作として、十分楽しめた。
 

 ポーの「黒猫」をしっかり取り入れて、それをトルコ風呂でやってのける怪談と猥雑さの混合はとても良い。
 開巻は昭和33年3月赤線最後の日。ファーストシーンの吉原のロングだけで、おっと思わせるほど良い。
 ここの置屋、主人が殿山泰司という段階で嬉しいが、赤線終焉後はトルコ風呂へ鞍替えを画策する主人に、谷ナオミのみ辞めて室田日出男と一緒になろうとする。周りからの嫉妬を集めながら辞めて行く谷を見送るのは主人の娘の東てる美だけだった。ここで東が片足に器具を嵌めたビッコ引きなのが良い。
 室田との二人の生活が始まり、谷は妹を呼び寄せたいと頼む。そこへ男達が乱入し、室田を袋たたきにする。50万を持ち逃げしたのだと言う。二人の生活のために金をくすめたと知った谷は、再び殿山のトルコ風呂で働くようになる。しかし、それは室田が谷に貢がせるために仕込んだものだった。田舎から妹が上京してくるも、室田は直ぐに手を出してしまう。一方、室田が更に百万の穴を出したため、谷は3年間住み込みで働くことになってしまう。ところが谷には室田の子供ができた為、それを知らせるべく部屋に帰ると妹が泣き、この男と別れろと言う。室田は正体を現し、傍若に振舞うが、谷はナイフで室田に襲い掛かる。ここで、ポンと天井からの真俯瞰になるところが堂に入っていて、映画らしさに溢れていて感動した。助監督澤井信一郎のマキノ仕込みの流れも見え隠れしつつ、本作の素晴らしいのは撮影所システムの機能が十二分に働いているから、ライティング一つとっても実に良いし、ショットも乱れない。丹念に切り返して、時にはポンと俯瞰にしても乱れないのがやはり凄い。
 妹は飛び出して行き、逆襲に転じた室田によって拘束された谷は、トルコ風呂の庭で真山知子トルコ嬢らに緊縛された中、折檻される。殊に室田が腹ボテの谷の腹や股間を重点的にボコボコにする、やりすぎ感溢れる描写が充実していた。「徳川女刑罰絵巻 牛裂きの刑」で幼女の目に焼きゴテを当ててメクラにするシーンとか、やはり避けるのではなくこういった描写は丹念にするべきだと思わせられる。
 死に絶えた谷は倉庫の壁にコンクリート詰めにされて数ヶ月が過ぎた。夜半の道を妹が黒のレザーコートで現れるロングショットが良い。彼女はトルコで働きたいと言い、室田はうろたえる。しかし、直ぐにトップの稼ぎ頭となる妹へのやっかみが他のトルコ嬢から寄せられ、リンチされそうになるが突如黒猫がトルコ嬢の顔に深い引っ掻き傷を負わせ助かる。その猫は、姉が飼っていた黒猫だった。
 室田は真山知子と共謀してトルコを乗っ取るべく計画を進めていたが、二人の情事が殿山に見つかる。室田が特徴的なのは、一度殴られるなりしたら次の瞬間にはブチ切れて殺しにかかる獰猛さで、殿山にビール瓶で思い切り殴りかかる。瓶が割れ、殿山の頭には破片が残ったまま血にまみれており、そのまま倒れていくのが良い。
 殿山の死体を隠してからの描写には観るべき箇所がたくさんある。大原美佐が外から室内を覗き込む際に、顔を半分覗かせつつ移動して顔半分で形を変えながら見ているショットや、コトが起きる時の不穏感を見事に見せる演出のタメが良い。殊に地下室で黒猫が飛び掛る際に室田が鉈でクビチョンパするのが素晴らしい。ポトンと落ちる黒猫の生首。
 以下ネタバレ含む。
 黒猫が死ぬと、谷が詰め込まれていた壁を壊して化け猫として登場すると失笑が起きたが、まあ、確かにチープなもので、風呂から飛び出したりとギャグに近い描写になっているが、ここまでの展開は乱れない堅実なショットの積み重ねで世界観を築いてきているので、少々の破綻は気にならない。むしろ、爽快感溢れる復讐劇となって心地良く見ていられる。
 ラストが火災によってトルコが焼け落ちるのも良い。
 尚、出番は少ないものの、山城新伍のチョメチョメトルコ講座的な大原美佐にトルコテクを教え込みながら69の体勢でチョメチョメしてる新伍の汚れっぷりも笑えて良いし、客で登場大泉滉も好演。
 決して大した映画ではないが、得がたい魅力に満ちた佳作だった。

208)「おんな極悪帖」 (シネマヴェーラ渋谷) ☆☆☆★

1970年 日本 大映京都 カラー スコープ 84分
監督/池広一夫     脚本/星川清司     出演/安田道代 田村正和 小山明子 佐藤慶 岸田森 小松方正

 こちらも初見。
 谷崎潤一郎の「恐怖時代」を原作にした作品で、岸田森の狂気演技が素晴らしい。
 キチガイの馬鹿笑いは、先日「異常性愛記録 ハレンチ」の若杉英二で嫌と言うほど堪能させていただいたが、ま、あれは規格外の何かの脅迫を受けているとしか思えないような演技だったから置くとして、やはり岸田森の狂気というのは良い。目に狂気を宿る芝居ができるだけに見ていて嬉しくなる。
 個人的には、小山明子が一方の襖を開けると佐藤慶が、帰った後に別の襖から小松方正が入ってくるという、どっち向いても創造社系(佐藤慶は創造社所属ではなく、現在はフリーだが当時はナベプロ系列に所属)かい!という面白さがあったりするのだが、田村正和も「無理心中・日本の夏」で大島作品に出演しているので、妙な因縁を感じなくもないが、まあ、これは当時の大映京都撮影所所長の鈴木晰也が大島シンパで「儀式」で格安でスタジオを貸したりと関係が深いところと関連があるのかもしれない。
 個人的にはさほど世間で言われている程この作品には魅力を感じず、低調な流れが続く作品でアップも多いし、時として奇抜なアングルもあるとは言え、どうにもそう魅力的とは感じなかった。岸田森の狂気演技も割合常識的に品良く収まっていくせいだろうか。
 ただ、終盤のどんでん返しは目を瞠るものがあり、そこで評価が上がった。