イベント 『若松孝二 初期傑作選』DVD-BOX(紀伊国屋書店)発売記念 「映画/音楽をめぐる対話」若松孝二(映画監督)×ジム・オルーク(音楽家)』

10) 『若松孝二 初期傑作選』DVD-BOX(紀伊国屋書店)発売記念 「映画/音楽をめぐる対話」若松孝二(映画監督)×ジム・オルーク(音楽家)」 (青山ブックセンター本店内・カルチャーサロン青山) 

時効なし。 若松孝二 初期傑作選 DVD-BOX 若松孝二 初期傑作選 DVD-BOX 2 若松孝二 初期傑作選 DVD-BOX 3 若松孝二 初期傑作選 DVD-BOX 4

若松孝二 初期傑作選DVD-BOX 1〜4の発売を記念して、若松孝二監督と、若松映画を熱狂的に支持する音楽家ジム・オルークさんによるトークショーを開催いたします。
若松孝二
1936年生まれ、映画監督。主な作品に『胎児が密猟する時』(66年)、『犯された白衣』(67年)、『処女ゲバゲバ』(68年)、 『ゆけゆけ二度目の処女』(69年)、『天使の恍惚』(72年)、『水のないプール』(81年)、『我に撃つ用意あり』(91年)、 『17歳の風景』(05年)など。次回作に、『実録・連合赤軍』を構想中。
ジム・オルーク
1969年生まれ、音楽家。主な作品に『ダンパー』(89年)、『バッド・タイミング』(97年)、『ユリイカ』(99年)、『インシ グニフィカンス』(01年)、『みずのないうみ』(05年)など。最新作に、坂田明との共作『およばれ/tetrodotoxin』 、『かな しい/expLosion』
若松孝二初期傑作選』
Vol.1『新宿マッド』『性賊/セックスジャック』『天使の恍惚』
Vol.2『狂走情死考』『処女ゲバゲバ』『裸の銃弾』
Vol.3『ゆけゆけ二度目の処女』『現代好色伝/テロルの季節』『理由なき暴行』
Vol.4『壁の中の秘事』『胎児が密猟する時』『犯された白衣』
各15,120円(税込)
 


 なんか、余りにもマメに若松関連のイベントに行き過ぎて、全く新味がなくなってきた今日この頃。
 今回は、紀伊国屋からのDVDが一通り出たのでそれを記念して、若松とジム・オルークとの対話という形で。この二人もまたそう珍しい並びでは今やすっかりなくなってしまった。普通に夜中に新宿歩いているからな。

   司会は例によって最近ロンゲから短髪にした平沢剛と、通訳に先日の若松シンポで確か「若松映画におけるアクチュアリティと(ポスト)68年思想」を発表していた方。
 若松孝二が喋る内容は9割聞いたことのあるハナシばかりなので良いとして、ジム・オルークが自身の若松映画との出会いや、どのように魅了されていったのかを語るのは興味深かった。
 又、ジム・オルークが今回発売されたDVDから好きな作品をダイジェスト編集した15分ほどのものが上映された。初めは「ゆけゆけ二度目の処女」の終盤、続いて「性賊 SEXJACK」の河原での天誅をめぐる対話シーン、「裸の銃弾」のあの鶏を丸かぶりする食事シーン、「壁の中の秘事」の覗きショットからマスターベーションを表現したオーヴァーラップを巧みに使用したシーンからシャワー室での交わりへ。「胎児が密漁する時」の激しい調教シーンと恍惚な表情を浮かべる山谷初男の顔のアップへ。ラストは「天使の恍惚」の開巻の『ここは静かな最前線』を唄う横山リエを見せる。
 といった内容で、別に凝った編集が施されているわけではないが、ジム・オルークの選択したカットはやはり若松映画の最も美しいショットばかりで、編集としては音の這わせ方も良かったし、殊に「壁の中の秘事」のシャワーシーンから山谷初男のバストサイズの画をOLさせて、まるでシャワー室に山谷初男が現れるかのような見せ方はとても良かった。

   それにしてもジム・オルークの若松への肩入れはただ事ではなく、更には「ゆけゆけ二度目の処女」で主演していた小桜ミミにかなり思い入れがあるらしく、彼女に会いたいと言うのだが、若松は素人みたいな子だったから今どこにいるのかわからないし、あれから35年以上たってるんだから凄いババアになってるから止めなさいと言ってるのに、と言って笑わせていたが、確かに小桜ミミって現在簡単に見れる資料では1969年に3本の作品に出演しただけで消えている。その内1本は「初夜の条件」という大杉虎監督作品なので、大杉虎=若松孝二の変名なので、実に若松映画に2本出演していることになる。もう1本は「壺さがし」という渡辺護の監督作品で、この2本は現在観ることができていない。こういった女優達の儚さを感じさせるが、ただ若松によれば、横山リエは連れて行ったとのことだ。因みに横山リエは最近ブログを始めたので、自分のアンテナに入れてあるから興味のある方はご覧になると良いかと。

 「実録・連合赤軍」に関しては、例によって若松が『突入せよ!「あさま山荘」事件』への悪口をひとしきり喋るという毎度の展開。今回はジム・オルークを囲んで喋るというような雰囲気のせいか、又客も少ない静かな場だったせいか、より口をすべらせ、佐々淳行原田眞人への悪口の後、役所広司もあれ以来嫌いになったとか、白い服着せて息子だけ目立たせて使ってる等々口調に喋っていた。と言うより、どうもアンタ資料として最近やたら観返したんだろというぐらい細部を突っ込み倒していた。
 まあ、ノンビリした淡々と喋る場で、これはこれで心地良かった。若い頃の寺山修司のハナシや、野坂昭如の家に行くと米俵が5俵置いてあっていつ戦争が始まっても良い様に備蓄してたというようなハナシをしながら。
 尚、「実録・連合赤軍」のインは10月末で来年2月アップ予定で、夏ごろ完成して秋から再来年あたりで公開を予定しているが、未だ配給は決まっていないとのこと。例のカンパは4,5百万集まったそうだ。但し映画屋と運動やってる連中は一切出そうともしないとのこと。USENかそれに類するような会社がネット上映&DVDで1億出資を言ってきたが断って、千駄ヶ谷の事務所兼自宅とシネマスコーレを担保にして製作費に当てるそうだ。又、山荘内部も若松所有の別荘をぶっ壊しながら撮るそうで、この作品は若松孝二の集大成的作品になるんだろうと思う。

 「実録・連合赤軍」の脚本を誰が担当するかについては、この場で若松も言わない(若松孝二は基本的に脚本家が監督より評価されるのを嫌う。その為、若松作品では大和屋なども使用していた往年の大谷義明からその後の出口出に到るまで、常時匿名性によって脚本家の作家性の不要な評価を封じている)し、質問の際にも誰も聞かないから終わり間際にしゃーないから確認的に、足立正生なのかと聞いたら、意外な答えが返ってきた。「十三人連続暴行魔」に監督主演し、その後「時効なし」の編集などで知られる掛川正幸が脚本を担当するのだという。3年程前までは、あさま山荘事件の映画化企画「榛名山」の脚本は足立正生で、第一稿が上がったと言われていたので当然足立正生が「実録・連合赤軍」の脚本を書くものとばかり思っていた。しかし、昨年の新宿FESTでも少し妙に思ったがやはり足立脚本ではないとのことで残念だ。実際、足立自身も帰国後若松用に書いた脚本3本がボツになったと明かし、往年の関係性との違いをやや不信感も交えつつ語っていたが、足立が帰ってくれば直ぐに若松とのコンビが復活して、大量の作品を作るんだというこちらの思い込みは、彼等が実際は常時会っていたとは言え、やはりそこに25年の絶対的な歳月と夫々の人生が加わって、そう易々と共同作業が再開できるものではないというのは理解できるが、やはり残念に思う。
 若松の言では、足立にはプロットを書かせたが、やはり思い入れがありすぎるので若松の思うものとは違ったから、ということらしいが、「17歳の風景」以降、プロの脚本家はいらないという視点が広がっているようで、それが若松作品にとって良い方向に向かっているとは、「17歳の風景」を観る限りでは思えなかったので、果たしてどうだろうか。いくら足立や大和屋と組んだ作品で脚本を改変しまくっているとは言え、そこにはやはり堅実に完成された脚本があったからこそ、若松が少々いじろうとも、作品の根幹が根深い分、時には傑作になったりしていたのではないかと思う。
 とは言え、「十三人連続暴行魔」の掛川正幸なのだから、そう悲観することもないように思うので、「実録・連合赤軍」には期待したい。役者は全て無名俳優を起用して山岳アジトも実際に作らせて、それを撮影する方式を取りたいとのこと。

 尚、足立正生の「幽閉者 テロリスト」は来年1月第2週にユーロスペースで公開とのこと。と言うことは、来年1月13日公開か?先日の若松シンポでは未だ観ていないとのことだったが、その後観たようで、若松自身は、まあまあ、ね‥という出来に思ったらしいが、たぶんコノヒトはパンフに書けと言われても「17歳の風景」のパンフみたいにはならなくて、良いように書いてしまうんじゃないかと思う。
 平沢剛によれば、具体的動きは語られなかったものの、今後も若松作品のDVDリリースを続けたい意向らしいので期待したい。殊にこれまでビデオリリースされていたり、上映の機会のあった作品だけでもDVD化を望みたい。「赤い犯行」「鉛の墓標」「乾いた肌」「歪んだ関係」「血は太陽よりも赤い」「日本暴行暗黒史 異常者の血」「性の放浪」「腹貸し女」「金瓶梅」「新日本暴行暗黒史 復讐鬼」「現代性犯罪暗黒篇 ある通り魔の告白」「性輪廻 死にたい女」「秘花」「性家族」などがそれに当たるが、これら全てが傑作ではないにしても、「血は太陽よりも赤い」「日本暴行暗黒史 異常者の血」「金瓶梅」「新日本暴行暗黒史 復讐鬼」「現代性犯罪暗黒篇 ある通り魔の告白」といった作品だけでも広く観られることで、若松孝二の新たな再評価を誘発できると思う。


■追記
 今回のイベントで告知がされたわけではないが、今月末に若松孝二の特集上映が1日行われるので、書いておく。

ボラステ・シネサロンvol.15 「映画監督 若松孝二 そのボランタリズムの軌跡」
日 時:2006年9月29日(金)

14:00開場
14:30「天使の恍惚」上映
16:20「われに撃つ用意あり」上映
18:30講演開始
20:00「17歳の風景」上映

「上映作品を変更することがあります。ご了承ください。」

会場:武蔵野公会堂パープルホール(JR・井の頭線吉祥寺駅南口徒歩3分)

入場料: 一般1,500円 18歳以下1,000円(当日200円増)
http://www.vstation.gr.jp/movies/mo_060929.html


 まあ、自分は全て観てるので遠慮するが、未見の方は若松孝二の代表作&最新作が1日で観られるし、若松孝二のハナシも聞けるので良いかと。尚、ちゃんとフィルム上映するのかどうかは念のため確認した方が良いと思う。
 最近は新文芸坐のようところでさえ、ちゃんと断ってはいるもののベルイマンオールナイトとかDVD上映だと言うし、嫌な時代になったものだと思う。フィルム作品でフィルムが現存しているならという前提の上で、いくら上映権が切れていようが、フィルム上映しないならオールナイト値段を半額にでもした方が良いのではないか。同額というのは納得できない。
 コチラの上映はたぶんフィルムじゃないかという気がするが、行かれる方でどちらでも良いという方以外は確認を取ったほうが良い。と言いつつ、「17歳の風景」はビデオ撮影でフィルムレコーディングしてあるので、フィルム上映万歳というわけではないところが現在の映画環境の難しいところだが‥