映画 「グエムル 漢江の怪物」

molmot2006-09-11

212)「グエムル 漢江の怪物」〔THE HOST〕 (Tジョイ大泉) ☆☆☆★★★

2006年 韓国 Chungeorahm Film カラー ビスタ 120分
監督/ポン・ジュノ     脚本/ポン・ジュノ ハ・ジョンウォン パク・チョルヒョン     出演/ソン・ガンホ ピョン・ヒボン パク・ヘイル ペ・ドゥナ コ・アソン

 
 何度か涙が出た。移動ショットに泣いたことは何度かあるが、やはりポン・ジュノの移動は特別だった。
 観る前に例の「WXIII 機動警察パトレイバー」のハナシを耳にしていたが、まあ、「WXIII 機動警察パトレイバー」というのは酷い凡作で、アニメ特有の馬鹿デカくて高いパンフまで帰りに買わされて腹が立った記憶が鮮烈で、怪獣造形以外の部分は似ているとも思わなかったし、あの愚作とこの秀作を比較などしたらポン・ジュノに失礼だ。
 韓国の怪獣映画といえば「怪獣大決戦ヤンガリー」しか観たことがないが、これも梅田ガーデンシネマかシネリーブル梅田で観た筈だが客席はガラガラだし、映画も愚作の極みだし、何故か日本公開版だけ大槻ケンヂの特撮が主題歌を唄っていて、ひたすらヤンガリーと絶叫してるやつだった。そー言えば、この頃からかつて80年代までは日本公開版だけ日本の唄と差し換える映画があってね、と半ば伝説的に聞かされていた悪弊が平気で復活して、かなり多くの作品で行われるようになってきたように思う。 
 この作品を観始めると即座に想起したのは「WXIII 機動警察パトレイバー」などではなく、「暗殺者の家」だ。作品の骨格は同じと言って良い。ペ・ドゥナは母親ではないが子供の母親的存在で、開巻間もなくアーチェリー競技のシーンがあり、最後の瞬間でタイミングをミスり銅メダルに終わる。「暗殺者の家」では開巻間もなく母親がクレーン射撃競技に参加しているものの、最後の瞬間で娘が声を出したせいでミスる。
 そして何より共に家族に溺愛される娘がさらわれ、警察などがアテにできない為に家族が危険を冒しながら娘を救出しようとする。
 以下ネタバレ含む
 終盤では、「暗殺者の家」では母親は射撃の腕を生かして危機の迫る娘を助けるのに一役買う。一方本作ではペ・ドゥナはアーチェリーの腕を生かして火を灯油を浴びた怪物めがけて放つ。
 更に敢えて言えば、「暗殺者の家」にも、ピータ・ローレという人間とは思えない“怪物”が登場する。
 と言って、盗作といったものではなく、誘拐サスペンス映画のフォーマットを底辺に敷きつつ、その犯人を怪獣にしてしまったのが素晴らしい。
 別々に進んで行くしかないとしか日本では思えないジャンルが合わさり、ジャンルの混迷が起きることなく秀作に昇華されているにはひたすら驚く。
 50メートルでもたいがいだったのに、やがて80メートル、100メートルと巨大化が進むと同時に本編との遊離を顕著にさせたゴジラを事例に出すまでもなく、やはり本作の10メートル程度の怪獣こそが、本編と拮抗しうる可能性があるのだと改めて感じた。押井守は90年代に入ってから「鉄人28号」リメイク企画を進めていたが、その中で電柱と同じくらいの高さが持つ可能性の大きさを語っていたし、金子修介も10〜20メートルの大きさの怪獣映画を作りたいと語っていた。本作を観れば、いかにこのスケールが世界観を作り上げる上で有効かつ恐怖が観客に届くかが理解できる。
 祖父、父、娘を出し切ると、開巻からそれほど間を置かずに川に怪物を出現させるが、ここからの初めての大暴れシーンは素晴らしい。河口の側道の向こうに怪獣が上陸しかかっていて猛然とこちらに突進して来る恐怖。それにどんどんヒトを跳ね飛ばし、食ってしまう。これだけのデカさで大量虐殺をやってくれると爽快だが、「ガメラ3 邪神覚醒」における渋谷壊滅シーンが日本の怪獣映画の虐殺シーンの限界だと考えると、ここまでやれるのが羨ましい。
 合同葬儀のシークエンスで、家族が揃うと全員泣き崩れるが、その際に真俯瞰のショットで見せるのには感嘆した。もんどりうつ家族を真俯瞰で見ると滑稽だが、ここに代表される本作の極端な緩急の付け方は、しくじればとんでもない失敗になるだろうが、全て成功させてしまったのが凄い。
 猛獣ハンターと家族が化すのが、もう映画だなと思って、無邪気にこれから起こるであろうことを思うと嬉しくて仕方なかったが、河原の草むらで父と息子が怪物を追って銃を携えつつ疾走するショットなど、例によって涙腺を多いに刺激され、コケて視界から消えるのに震える。父親の後方に怪物が迫るカットでのハイスピードの使い方にもまた泣きそうになる。本作はハイスピードをかなり多用しているが、全く無駄な使い方をしていない。「ジュブナイル」のローソンから出て来るのが何でハイスピードで撮る必要があるのか、などと腹を立てるような使用意図不明な箇所などない。
 因みにやや銀残し気味な現像になっていたが、CG多用ということもあって、フィルムなのかビデオなのかと思って観ていたが、パンフの撮影現場スチールを見ると35mmだった。
 細かいディテイルを見ていくとケッコーいいかげんなのだが、演出の馬力で引っ張ってしまっているので、さほど気にならない。
 ただ、終盤で例のモノの散布によって一度倒れた怪物が起き上がるショットがなかったので、次の瞬間にはもう起き上がっていたので、少し首を傾げたが。
 CGの出来もほぼ良いし、怪獣映画史には上位に刻まれる秀作だ。