映画 「ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男」「獣人雪男」「九十九本目の生娘」「ユナイテッド93」

molmot2006-09-15

213)「ブライアン・ジョーンズ ストーンズから消えた男」〔STONED〕 (シネクイント) ☆☆☆

2005年 イギリス カラー ビスタ 103分
監督/スティーヴン・ウーリー     脚本/ニール・パーヴィス ロバート・ウェイド     出演/レオ・グレゴリー パディ・コンシダイン デヴィッド・モリッシー ベン・ウィショー ツヴァ・ノヴォトニー


 監督のスティーヴン・ウーリーはこれがデビュー作だが、製作者として「クライング・ゲーム」「バック・ビート」、最近では「プルートで朝食を」などに携わっており、二ール・ジョーダンや音楽モノには強いという印象を受ける。それだけに、ブライアン・ジョーンズを題材に持ってきて監督してもそう違和感はない。
 個人的には、ストーンズも聴いてはいるが、ブートレグの深遠にまで手を出してしまって一時は帰って来れなくなったビートルズ派なので、ブライアン・ジョーンズの死よりも、ブライアン・エプスタインの死の方が重要なのだが、それはまた別のハナシ。
 謎の多いブライアン・ジョーンズ死の真相に到る数ヶ月の自宅の描写と、フラッシュバックでストーンズが売れて行き、やがてブライアンがメンバーから脱退に到るまでが描かれる。
 回想パートのフィルムの汚し方や映像の派手さなど、やりすぎにならない程度に装飾されていて、ストーンズの歩みの一端が観ることができるので観ていて飽きない。
 現在のパートでは女やドラッグに溺れるブライアンと、出入りの業者であるフランクとの関係、そして結末に到るまでが描かれるが、ここはやはり弱い。比較しては悪いがガス・ヴァン・サントの「ラストデイズ」とは真逆で、本来ブライアンとフランクの関係性に集約されていくものが、肝心の箇所になると他の人物や回想に逃げて装飾された映像とストーンズを聴かせて誤魔化しているように思えてならなかった。この作品は「太陽がいっぱい」などと同じく、かけ離れた存在としてのもう一人の自分への殺意と、精神的ホモセクシャル要素に満ちている筈なのに、全くそういった二人の間に繊細な描写がなく、中心に大きな穴の開いた映画を観ているようだった。周辺に塗りこめられた装飾箇所が巧く作用して退屈な凡作には見えないようになってはいるが。
 以下ネタバレ含む。
 一介の住み込みの業者に過ぎなかったフランクが、金を持ち女を大量に見せびらかすブライアンへ嫉妬と羨望を秘めた視線を向けながらそれがやがて自身がブライアンと同一化しようとし、それが破れた時に殺意へと変わっていく最も面白い箇所が、そのまま流されてしまうので勿体無いと思った。汚いポロシャツだった男が、薄いピンクのシャツをある時期から着始めて、髪を伸ばし始める。妻に切らないのと問われても返事しない。まあ、これ見よがしにやられたら下品なので、何気なくそういった描写が入ってくる方が好ましいとは言え、彼の変化が外観を僅かに変えていく過程がもっと観たかった。そして最も崇高なラブシーンである筈のプールにブライアンを沈めるシーンでのフランクの心情も伝わっては来なかった。ま、やはりこういった作品になるとブライアンよりも犯人である側へ心情を仮託してしまうので、そこの描写が薄いと文句を言ったところで、作ってる側からブライアンが主役なんだから犯人はソコソコの描写で結構と言われてしまえばそれまでだが、巧くすれば「ラストデイズ」とは真逆の装飾性に満ちた中で、鮮烈なラブストーリーになったのにと思うと残念だ。


妄執、異形の人々  (シネマヴェーラ渋谷
214)「獣人雪男」 (シネマヴェーラ渋谷) ☆☆☆★★

1955年 日本 東宝 モノクロ スタンダード 95分
監督/本多猪四郎     脚本/村田武雄     出演/宝田明 河内桃子 笠原健司 中村伸郎 小杉義男

 言わずと知れた「獣人雪男」だが、以前イリーガルなモノを頂いて観たことがあったが、フィルムでは未見だったので劇場で。
 別にこれぐらいでソフト化を封印しなくてもという思いが強い作品だが、まあ、未開放部落で出てくる村人はみんな奇形系なので、世間的には差し障るわな、と思いはするが。
 作品としては初見時同様の思いで、過大評価しようとは思わない。いかんせん「キングコング」の亜流的描写が多い上に、中盤で宝田明が雪男に助けられて以降は、終盤まで描写が飛んでしまい、一攫千金を狙う連中と雪男の描写が中心となってしまうのでドラマの拮抗として不満が残る。又、この悪役連中のあまりにも過剰な悪役っぷりに笑ってしまうが、本作3ヶ月前に公開された「ゴジラの逆襲」と比較しても明確に大人向けのドラマから子供向けの見世物へと作者側の意識も変化しているのではないか。「モスラ」や「キングコング対ゴジラ」で御馴染みの“見世物にする為に連れ帰る”というパターンに嵌る悪役の過剰さの原型として見てみると興味深い。ただ、この過剰さはカラーで東宝スコープだからこそ成立していると思っていた(或いは観慣れていたと言うべきか)ので、モノクロ・スタンダードでやられると違和感を感じた。
  

215)「九十九本目の生娘」 (シネマヴェーラ渋谷) 不完全鑑賞につき評点なし

1959年 日本 新東宝 モノクロ スコープ 83分
監督/曲谷守平     脚本/高久進 藤島二郎     出演/菅原文太 中村虎彦 矢代京子 沼田曜一 松浦浪路

216)「ユナイテッド93」〔UNITED 93〕 (Tジョイ大泉) ☆☆☆★★

2006年 アメリカ・イギリス カラー スコープ 111分
監督/ポール・グリーングラス     脚本/ポール・グリーングラス     出演/コーリイ・ジョンソン デニー・ディロン タラ・ヒューゴ サイモン・ポーランド デヴィッド・ラッシュ

 パニック映画好きで、エアポートシリーズに愛着があれば、現在におけるエアポートシリーズの在り方として観る分には面白い。日航機事故もこんな感じで、もう駄目かもしれんねと機長が言いつつ、ドーンと行こうやと言ったら、本当にドーンと行ってしまった映像にしてほしいな、などと思う。
 低予算の小品なので、シネコンのデカイ劇場で観るのが相応しいのかどうかとは思うが、誰もが言ってるから言いたくはないものの、不要にカメラを振り過ぎていることにアザトサを感じたり、ドキュメンタリータッチでもセミドキュメンタリーでもない、ただ再現映像でコーティングされたフィクションがあるだけと感じたが、それは欠点ではなく見世物映画としては十分魅力を放っている。
 WTCに一機目が突っ込むまでは、状況の提示のみに依存した描写にやや退屈しかけていたが、やはり御馴染みのアノ映像からは一気に引き込まれた。殊に、ユナイテッド93内の描写などより、管制室内でのモニターに映し出された追突映像への皆のリアクションが素晴らしい。映画はやはり起こった事象へのリアクションに支えられていると改めて思った。怪獣映画で怪獣に対して、リアクションの取れない俳優は、怪獣映画を途端にチープなものに変えてしまう。「獣人雪男」を観ても、やはり河内桃子がいかにソレに対して適確なリアクションを取れているかを改めて感じさせたように、その場にありもしないモノを見て半笑いでやられると、たかが着ぐるみを撮ってるだけの映画になってしまう。
 一機目に続く二機目に至っては世界中がそうであるように、茫然と見詰めている中へもう一機が飛来してきて突っ込んでくるという恐ろしい映像の始まりから終わりまでを目撃してしまうが、作品中の管制室においても同様で、ソレに対する驚愕のリアクションを丁寧に拾っているので、観ていても込み上げてくるものがあった。だから、このまま倒壊シーンを見て彼らがどういう反応を見せるのか見たかった。
 後半のユナイテッド93内の描写は、終わり方がちょっと悲惨な「エアポート’06」、あるいは「エアポート’01」の方が相応しいのか「エアポート93」が良いのか知らないが、そんなもんだと思ってフィクションと割り切ってしまえば、テロリスト側への偏った描写をこういった作りの作品の中へ入れてくることの違和感も、実際の被害者への冒涜ではないのかと思えるようなアメリカ政府の広報映画みたいな視点への違和感も含めて、それが「ユナイテッド93」という作品なんだと思うしかなく、鉢巻を締めるわかりやすいテロリスト描写もパニック映画として観ている分には有りだし、後部に客の有志が集まり逆襲に転じようとする会話も魅力だ。本当は、最後に元パイロットのチャールトン・ヘストンが登場して強行着陸させてくれると良かったのだが、そうも行かない。
 機体が勢いよく降下していく描写も客を演じるリアクションによって恐怖感が増している。ただ、ラストに森で焼け焦げた機体のニュース映像を使用しなかったのは何故だろうか。ラストカットが地表に迫るというカットだけでは不満だった。
 これまた誰もが言うことなので繰り返したくはないが、各管制室を日本語字幕のみでしつこく見せるのには、画面を不要な文字で汚す犯罪的行為だと思えた。そのクセ、ロールの断り書きは訳さないし、これは他でもそうなのか知らないが、ユニヴァーサル提供だからと言って、いくら毎度のこととは言え一番最後にユニヴァーサル・スタジオジャパンの軽薄な宣伝文が出るのには、呆れた。
 作品としては問題もかかえつつ一級の見世物映画になっていたので、楽しめた。