映画(TV/VIDEO/LD/DVD)「八つ墓村」

57)「八つ墓村」 (DVD) ☆☆☆★★

1977年 日本 松竹 カラー スコープ  151分 
監督/野村芳太郎   脚本/橋本忍    出演/萩原健一 小川真由美 山崎努 山本陽子  山谷初男 渥美清
八つ墓村 [DVD]
 片岡千恵蔵金田一による「八ツ墓村」(ネガが現存せずとの噂あり)に続く二度目の映画化となった作品。
 大体2年単位で観返しているので、かれこれ初見から15、6年たつが、テレビ放送録画、ビデオ、LD、DVDと記録媒体を変えつつ10回近く観ているだろうか。で、そんなに面白いのかと言われれば、観ればわかるように大味な失敗作である。だが、愛着のある失敗作と言うか、スケール感や大作感に満ちた作品になっているし、随所に捨て難い魅力がある。
 最大の魅力は、言うまでもなく山崎努による村人32人殺しのシークエンスで、「新日本暴行暗黒史 復讐鬼」、本作、「丑三つの村」「八つ墓村」(市川崑版)で繰り返し描かれてきた32人殺しの中でも最も突出した出来なのが本作で、野村芳太郎が巨匠にあるまじきやりすぎ感溢れる大量殺戮をやってくれていて、このシークエンスだけは、もう50回近く観ているのではないかと思うが見飽きない。LDはちゃんと山崎努が桜吹雪をバックにハイスピードで手前に走ってくるロングのカットから始まるチャプターにしてあって、わかっている作りなのだが、DVDはその少し前の芝居も含んでしまっているので、わかってないなあ、と。この映画を何度も観る奴は大量殺戮こそを観たいのに。寝ている赤ちゃんの腹に刀を突き刺して絶命させたり、ババアを井戸に放り込んで尚且つ猟銃を井戸の奥深くに焦点を定めて撃ち殺すところとか、松竹のメジャー大作にあるまじきやりすぎ感溢れていて素晴らしい。
 作品としては、ATGの「本陣殺人時間」(中尾彬金田一なので、登場と同時にオマエが殺したんやろと思ってしまう)同様、現在に時制を動かしてしまった段階で失敗なのだが、最大の失敗は本当に怪奇映画にしてしまった点で、落ち武者を村人が襲撃するシークエンスで、夏木勲の生首が雷雨の最中目を開くという演出に端的に現れているが、あくまで底辺に祟りめいた雰囲気を散りばめながらそれを利用した連続殺人事件がそれが本当に‥となってしまっているのは問題だ。
 又、「砂の器2」に強引に当て嵌めようとする思惑も裏目に出ていて、それを横溝正史でやろうとするのは大きな間違いなのに、この作品は企画も撮影も「犬神家の一族」よりも早く始まっていながら公開は犬神の翌年というタイミングの悪さもあって(興行的には当時量産された一連の金田一シリーズの中でも最高収益をあげて大ヒットとなっている)、市川崑が作り出したフォーマットとは無縁の旧来の日本映画の大作のフォーマットで作られているのが不運だった。しかし、その分これまで映像化された金田一ものの中で、最も大作感溢れるものになっており、ミステリーは大きな予算で豪華なキャストで作らなければならないという法則は守られているので、駄目だ駄目だと言いつつ何度観返しても見飽きない原因になっているのかもしれない。
 32人殺し以外にもう一つの魅力が“暴徒と化す村人”で、「八つ墓村」はこの描写が最重要なのに、案外テレビ版含めて重要視されていないのが残念で、野村芳太郎だけは山谷初男を筆頭に立たせて、暴徒と化す村人を僅かながらも描いてくれているので見応えがある。
 渥美清金田一は、諸々言うヒトはいるが、自分は嫌いじゃない。やはり演技の幅があるので成立している。ただ、公開時は登場すると劇場では笑い声が挙がっていたと言うし、自分が初見の時も未だ「男はつらいよ」シリーズは依然製作している時期だったので、違和感を感じたようにも思う。しかし、謎解き部分でも口跡が良いから説得力があるし、飄々とした雰囲気も出ていて、巡礼シーン(半分ぐらいスタンドインだが)も良い。終盤の諏訪弁護士事務所で小ネタ的に渥美がお茶で咽るシーンは、水野晴郎シベ超のシリーズ中でパクり、オーディオコメンタリーで堂々と「八つ墓村」から頂きましたと語っていたが、これは早々に真似て面白くなるものではないので、アメリカン・ポリスにはできていなかったが。
 失敗作ながら、妙な愛着があって文句言いつつ嫌いにはなれない作品だ。