映画 「黒い十人の女」「マタンゴ」

molmot2006-09-22

妄執、異形の人々  (シネマヴェーラ渋谷

 毎日映画観てケッコーな暮らしで、と嫌味を言われることがあるが、ちっともケッコーではなく、1ヶ月にやんなきゃイケナイことは決まっているものの、今はそれに割く時間を割合自由に調整できるというだけのハナシで、結局寝れない日が続くというだけの映像末端業にありがちな酷い日々だが、今回のシネマヴェーラ渋谷の特集には参った。当初の予定では何とか時間を空けて夕方に滑りこんで厳選した1本だけを合間にサッと観て帰るということを何度か繰り返すしかないと思っていたら予定がズレて延々待機状態になったので、ここぞと今の内に日参していたら、すっかり習慣づいてしまって、今日など「黒い十人の女」はリヴァイヴァル上映時に劇場で観て、その後ビデオもDVDも購入して何度も観ているし、「マタンゴ」もビデオで観ているにも係わらず、シネマヴェーラに通って2本立てを観るということが余程心地良かったと見えて、本来今日からは延々1週間で半月分の仕事しなきゃいかんのに、取り込み中を良いことに、行かなくて良いのにまたシネマヴェーラに向かってしまう。「黒い十人の女」はフィルムで観返したいとか「マタンゴ」はフィルムで観てないからとか言い訳しながら。流石に気不味く思いつつも場内が暗くなると直ぐに忘れてスクリーンを茫然と眺めていた。

225)「黒い十人の女」 (シネマヴェーラ渋谷) ☆☆☆★★

1961年 日本 大映東京 モノクロ スコープ 103分
監督/市川崑     脚本/和田夏十     出演/船越英二 岸恵子 山本富士子 宮城まり子 中村玉緒 岸田今日子 森山加代子  伊丹一三伊丹十三) ハナ肇クレージー・キャッツ
黒い十人の女 [DVD]
 リヴァイバル公開はテアトル梅田で観たが、東京ではシネセゾン渋谷で97年秋に上映されたと記憶するが、大阪では待ちに待たされ翌年2月の上映だったと記憶する。確かナナゲイで「私家版」を観てからテアトルで本作を観た筈だ。公開に合わせて京都みなみ会館では「あの手この手」「愛人」「東京オリンピック」「穴」の一挙上映があり、1日がかりで観ていた記憶やら、Pizzicate Five Presentsだけあって凝ったパンフなど、市川崑の旧作が殊関西ではなかなか観られない時期だっただけに授業も放り出して京都にや高槻に日参していた。
 ただ、「黒い十人の女」はヒットしてしまったせいで、随分端で観るハメになり、シネスコだけに辛かった。絶対真ん中に座ってる奴より市川崑に愛情があるぞなどとクダラナイことを思って不条理な怒りを覚えたのも、まあ市川崑だからだろう。
 2年に一度くらいは何かの拍子で観返すことの多い作品ではあるが、今回はシネマヴェーラが空いていたせいもあって、ようやくど真ん中で堪能できた。やはりシネスコ、黒を基調とした作品だけに、ビデオやDVD(マスターは同一)では駄目で、フィルムで観ないと魅力は半減してしまう。
 作品としては軽いものなので、取り立てて傑作と騒ぐようなものではなく、市川崑の光と影の技巧と、ソフィスティケイテッドされた凝りに凝った画面構成を楽しく眺めることができる佳作だと思うが、船越英二のドライな存在感と、岸恵子山本富士子中村玉緒の美しさに観入り、クレージー・キャッツの登場に喜んでいるだけで(テレビではありえないローアングルからのあおりで、天井のバトンも入れ込んだアングルが素晴らしい)、あっという間に終わってしまう。
 これだけ技巧を凝らせば、それがハナについたり過剰さで作品のバランスが傾きかねないが、全くそんなことは起きない。拳銃を着物の裾にしまいこんでそれが扉に当たり、ゴトリと音をたてる瞬間の凄さや編制室の騒然とした雰囲気を望遠と広角を使い分けることで効果をあげているし、1カットずつ思いのタケを綴りたくなるような魅力に満ちている。
 初見時よりはテレビ創世記の関連書を読んだせいか、諸々興味深く感じる箇所も増え、井原高忠とかもこんなんだったのだろうかと思う。

226)「マタンゴ」 (シネマヴェーラ渋谷) ☆☆☆★★

1963年 日本 東宝 カラー スコープ 89分
監督/本多猪四郎     脚本/木村武     出演/久保明 水野久美 小泉博 佐原健二 土屋嘉男 天本英世
マタンゴ [DVD]