第19回東京国際映画祭は市川崑映画祭である


 第19回東京国際映画祭の上映作品が発表されたが、例によって2、3ヶ月先に公開される作品を必死でチケットを取る必要もなく、ただの有料試写会でしかないので、よほど他人より先に観ることに喜びを感じるヒト以外はラインナップの大半が魅力的に映らないのではないかと思うが、こういう場を活かして観るべきは公開が随分先か予定が立っていない作品、そして特集上映の類で、殊に今回は市川崑映画祭の様相を呈している。クロージングで上映される「犬神家の一族」や、特別招待作品部門の「ユメ十夜」(参加監督:実相寺昭雄市川崑清水崇/清水厚/豊島圭介松尾スズキ天野喜孝&河原真明/山下敦弘西川美和/山口雄大)で、実に新作2本が一気に観れるが、これはまあ、年末から来年にかけて観れるので焦る必要はない。むしろ重要なのは『市川崑傑作選』という特集上映で、上映作品は下記の如くなる。


上映は全作Bunkamura ル・シネマ2

ビルマの竪琴 (1956年版)』 10/21 10:45 - 12:41(開場10:25)
『炎上』 10/21 13:20 - 14:59(開場13:00)
『おとうと』  10/21 15:40 - 17:18(開場15:20)
黒い十人の女』 10/21 18:50 - 20:33(開場18:30)

細雪』 10/22 10:45 - 13:05(開場10:25)
悪魔の手毬唄』 10/22 13:45 - 16:09(開場13:25)
『股旅』 10/22 16:50 - 18:26(開場16:30)

雪之丞変化』 10/23 12:45 - 14:39(開場12:25)
『愛人』 10/23 15:20 - 16:47(開場15:00)

『私は二歳』 10/24 11:00 - 12:28(開場10:40)
『幸福』 10/24 14:00 - 15:46(開場13:40)

『プーサン』 10/25 11:00 - 12:38(開場10:40)

『三百六十五夜 (総集編)』 10/27 10:45 - 12:44(開場10:25)
『足にさわった女』 10/27 13:25 - 14:49(開場13:05)
吾輩は猫である』 10/27 15:30 - 17:26(開場15:10)

http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/tributescreening.php?mcat=%e5%b8%82%e5%b7%9d%e5%b4%91%e5%82%91%e4%bd%9c%e9%81%b8


ビルマの竪琴 [DVD] 炎上 [DVD] おとうと [DVD] 黒い十人の女 [DVD] 細雪 [DVD] 悪魔の手毬唄 [DVD] 股旅 [DVD] 雪之丞変化 [DVD] 私は二歳 [DVD] 吾輩は猫である [VHS]
 全作品観るべき作品ばかりだが、ソフト化されている作品であってもスクリーンで観ておくべき作品としては「炎上」「おとうと」「黒い十人の女」「悪魔の手毬唄」などは特にそうだと思う。
 今回のラインナップの中には、ソフト化されていない作品も混じっている。又ビデオ時代初期にソフト化されたものの現在では入手困難な「三百六十五夜」も含めて言えば、「愛人」「プーサン」「足にさわった女」はCSではお目にかかる機会もあるとは言え、今回の上映で見ておくにこしたことはない。しかも3本共夫々別の魅力に満ちた傑作ばかりで、特に個人的には「愛人」が凄い傑作だと思う。ソフィスティケイテッドされた史上最高にお洒落な作品になっている。日本映画でこんな作品が作れたんだということに驚く。「プーサン」の徹底した風刺や「足にさわった女」の凄さはもう観て感じるしかない。
 この中で最高にレア且つ、単にレアだけではなく市川崑の五指に入る大傑作にも係わらず、現在ソフト化もテレビ放送も、フィルムセンター以外では殆ど上映される機会がない超弩級のレア大傑作がある。「幸福」がそれに当たる。2年前にフィルムセンターでようやく観ることができたが、これがもうとんでもない傑作で、ひたすら感動した。1981年製作の水谷豊主演の現代劇で刑事モノである。権利関係の問題で封印されているらしいが、こんな素晴らしい作品が公開以来殆ど人目に触れず眠っているのはとんでもないハナシで、今回もこんな凄い作品を平日の昼間に上映するという見識のなさで、他の作品はビデオなりDVD、CS、劇場なりで観る機会があるので、忙しい方はパスしていただいて結構だから、「幸福」だけは、少々無理してでも観ていただきたい。この機会を逃すと今度いつ観れるかわかったものではないし、それだけのことをする価値のある作品である。水谷豊で刑事モノという公開時ですら「熱中時代-刑事篇」で人気のあった頃だから、既にTVの垢にまみれていたのに、見事に市川崑の映画の中の人物になり、斬新な刑事モノになっている。市川崑の系譜的に言えば初期の上原謙のような茫洋とした演技を見せてくれる。しかも金田一方面が好きな方に言っておけば、加藤武が主任役で登場し、金田一シリーズ同様の黒のスーツ姿であるばかりでなく、あろことか作品のテイストが全く違うにも係わらず雰囲気を読まずにアレをやってしまっているので、「天河伝説殺人事件」同様、シリーズ外での加藤武のアレを見る絶好の機会である。
 もう一本、評価が低く現在からはあまり触れられる機会が少ない「吾輩は猫である」も必見である。これはビデオのみが出ているが、公開時も市川崑にしては‥的な失敗作のような扱いを受けているが、それは明らかに間違いであり、素晴らしい傑作だ。明治時代の文科系男子(オッサン達だが)の怠惰な日々を心地よく観ることができる。「間宮兄弟」を観て面白いと思ったなら、「吾輩は猫である」も確実に楽しめる。又、「犬神家の一族」の直前の作品だけに撮影、照明、編集の方法論が全く同じで、本作を経て金田一シリーズであの方法論が花開いたことがわかる。


 それから、 特集上映では『今村昌平追悼特集』というのもあるが、これは全作上映されるが新文芸坐でも先日やったばかりなのでパスして良いかと言うと、2本超レア作が混じっている。


『あほう』 
Staff/監督:今村昌平  脚本:我妻正義  撮影:田畑哲治
Cast/日野利彦 京谷道子 木村 隆
Story /“あほう”と呼ばれ馬鹿にされる兄と、そんな兄を想いながらも、ヒモの男から離れられない妹。
短時間の作品ながら、完成されたストーリーと演出に十分な見応えを感じる。
横浜放送映画専門学校(現在の日本映画学校)の第1回実習作品。

Credit 1975年製作/モノクロ/13min./16mm/日本語  フィルム提供:日本映画学校
Schedule 10/24 12:50 - 13:40(開場12:30)
Bunkamura ル・シネマ1



『凍りついた炎』
Staff/監督:今村昌平  脚本:田村浩太郎/清水信行  撮影:幸田守雄
Cast/ 山本龍二 猪俣光世 渡辺とく子
Story/理容店を営む新婚夫婦。外泊を繰り返す夫には、妻は知らない秘密があった。
横浜放送専門学校(現在の日本映画学校)第三期研究科の実習作品であるが、歌舞伎町でのラストシーンや、出演者の熱演ぶりはもはや実習の域を越えている。


Credit 1980年製作/カラー/37min./16mm/日本語  フィルム提供:日本映画学校
Schedule 10/24 12:50 - 13:40(開場12:30)
Bunkamura ル・シネマ1

http://www.tiff-jp.net/ja/lineup/tributescreening.php?mcat=%e4%bb%8a%e6%9d%91%e6%98%8c%e5%b9%b3%e8%bf%bd%e6%82%bc%e7%89%b9%e9%9b%86


 この2本は昨年夏に川崎市市民ミュージアムでも上映されたので、観に行くつもりが叶わなかったので、今回は何とか観る事ができれば良いのだが、こーゆー作品に限って平日の真昼間にやってる。
 ソフト化もされていないし、上映される機会も極端に少ないので、幻の今村昌平監督作品を2本観る絶好の機会である。