映画 『悶絶 ほとばしる愛欲』『欲情教師 狂い抜き』『夕陽に赤い俺の顔』『おとし穴』

285)『悶絶 ほとばしる愛欲』  (上野オークラ) ☆☆

2006年 日本 国映・新東宝映画・Vパラダイス  カラー ビスタ 分
監督/榎本敏郎    脚本/佐藤稔    出演/吉岡睦雄 麻田真夕 水原香菜恵 下元史朗 華沢レモン 伊藤猛 川瀬陽太 伊藤清美 佐野和宏


 <第3回ピンク映画シナリオ募集>準入選作『ニコミホッピー』の映画化で、今年の『シナリオ』誌の6月号と12月号に夫々入選稿と撮影稿が掲載されているので、読み比べることができる。まだ、やっていないが。
 前回の受賞作2本は共に質の高い作品として映画化され、殊に『ヒモのひろし』(成人館公開題:SEXマシン 卑猥な季節/DVD題:卑猥)は佳作だったので、今回はどうかと期待していた。新宿国際で見逃したので、上野でと思っていたが、ちょっと都合が付きそうにないので諦めかけていたが、幸い最終日に滑り込むことができた。
 吉岡睦雄と今は居ない麻田真夕を主に、そこに水原香菜恵が絡んできて、その横には伊藤猛も居るとは言え、下元史朗と華沢レモンなどは、群像がそのまま置いてあるだけという感じなので、関係性が薄く、肝心のかつて同棲していた麻田真夕を探して郷里を訪ねる吉岡睦雄の行動もよくわからない。原題の『ニコミホッピー』は馬の名前で、アタマとケツで居酒屋でレースを見るというシーンがあるが、巧く作劇中に馬が入っているとも思えず、ちょっと脚本を読んで確認したい。開巻間もなくの居酒屋、中盤の水原香菜恵の店、終盤の浅草の伊藤清美の居酒屋と、やたらとカウンター周りの描写が続くので、ちょっと他の見せ方を入れて欲しかった。
  何もしない吉岡睦雄というのは、それはそれで面白くなりうるとは思うが、最後に遂に取った行動は、レース終わりに居酒屋のTVをリモコンで高校野球に変えるということだった。でも他の客が怒って伊藤清美に直ぐに戻されてしまうのだが。
 点がポツポツとあちこちにあるままに終わってしまった印象。

286)『欲情教師 狂い抜き』【旧題:教え子と教師 いたずら秘め恥じめ】  (上野オークラ) ☆☆★

2003年 日本 杉の子プロダクション カラー ビスタ  分
監督/杉浦昭嘉    脚本/杉浦昭嘉    出演/水樹桜 林由美香 風間今日子 小林達雄 国沢実


 時間が余ったのでもう1本観るかと、予備知識無くぼーっと観ていたら開巻早々林由美香が登場してきたので喜ぶ。 
 小林達雄が同居する息子夫婦を盗聴しているという設定で、林由美香はその妻役。高校教師だった小林の元へ、元教え子の水樹桜がやって来てセックス指南を請うという内容だが、脇ながら、林由美香がやはり際立って魅力を発している。殊に夫の風俗通いを問い詰めるシークエンスでのコメディエンヌぶりは素晴らしいし、腹立ち紛れに偶々来た電気工の国沢実とやってるのを夫に見つかり、夫が電気工を追って外に飛び出し、飛び掛ろうとするも交わされて逃げられた後へ、林由美香が追いかけて来て、向こうに立っている姿をボケ気味に捉えたロングショットなんかゾクリとする。それは言い方が少し悪いが幽霊のような雰囲気が漂うし、林由美香がロングショットに耐えうる女優であり、立ち姿が際立つ女優であることを考えても、やはり画面の奥にポツンとボケ気味に輪郭がわかるぐらいで立っているだけで凄いと思える女優だと改めて思う。と言っても演出で、そう意識的にそういうショットを入れているとは思えず、もう少し観ていたいという思いを持っていたものの、直ぐ次のショットへ行ってしまったので、撮影の功労ではないかと思う。エンドクレジットで撮影者の名前を見て合点がいった。撮影したのは、今年、『LOFT』で中谷美紀を風景から際立たせた芦澤明子


新文芸坐6周年記念 和田誠が「もう一度観たいのになかなかチャンスがない」と言っている日本映画
287)『夕陽に赤い俺の顔』  (新文芸坐) ☆☆☆

1961年 日本 松竹大船 カラー 松竹グランドスコープ 分
監督/篠田正浩    脚本/寺山修司    出演/川津祐介 岩下志麻 炎加世子 渡辺文雄 小坂一也

 


トークショー ゲスト:白井佳夫(映画評論家)、ホスト:和田誠

 特に上映作品だけでなく、映画にまるわる雑談をダラダラと。和田誠のテーマに沿って話すより、こんな雑談の方が面白いんだよね、の言葉通り、正にこの方が面白い。
 高倉健の『乱』出演オファーを断りに黒澤邸へ行くハナシや、野上照代が三船を『乱』で担ぎ出すべく根回しして了解を取り付けるも、黒澤は了承しなかったという有名なハナシを別サイドから語っていて面白かった。
 ま、白井佳夫って大嫌いだったのだが。一時期このオッサンの書くもの全てに“カラーワイド”という言葉がほぼ確実に入ってくるので、カラーワイド白井と蔑称をつけていたのだが、大体シネスコもビスタも全てカラーワイドの一言で一纏めにして何を言うかと思ったら、全く大したことは言わないので、このオッサンのオデコの黒子を引っ張って千切ってやるから、血が噴出して死んだらええねんとまで高校の頃は思っていたが‥何でそこまで嫌っていたのか元凶は不明。まあ、今となっては下世話なハナシを延々としているところとか嫌いじゃないけど。

288)『おとし穴』  (新文芸坐) ☆☆☆☆

1962年 日本 勅使河原プロダクション モノクロ スタンダード 分
監督/勅使河原宏    脚本/安部公房    出演/井川比佐志 宮原カズオ 大宮貫一 田中邦衛 矢野宣 佐々木すみ江 観世栄夫 佐藤慶
勅使河原宏の世界 DVDコレクション

 
 やはり、安部公房×勅使河原宏は凄い。どんなに金持ちの道楽と言われようが、才能が迸っているのだから仕方ない。
 不条理劇をこれ見よがしにせずに、実直にカットを積み重ねていくので観ていて心地良い。
 開巻のバイクの光も凄いし、田中邦衛の白い男の気味悪さは、田中邦衛ですら沈黙に耐える恐ろしい男になりうることに感動する。
 幽霊表現としても現在の類型的描写より遥かに素晴らしい。殊に幽体離脱を『ウルトラマン』がハヤタの遺体に乗り移るような飛び込んでいく動きを逆回転させているのが凄く良い。