読了 『映画が目にしみる』

24)『映画が目にしみる』小林信彦  (文藝春秋) ☆☆☆★★★

映画が目にしみる

 三段組なので読みにくいとか、前書きも後書きもない不親切さや、DVDガイド的要素が強いにも係わらず索引がないとか、小林信彦にしては、ひどく雑な作りの本で、何より『コラム〜』シリーズの最新刊がこのような扱いをされていることには憤りを覚えたが、読み始めると、そういった問題もとりあえず置いて読み耽ってしまう。まあ、半分ほどのネタは既に『週刊文春』の連載で書かれているものと重複しているので目新しさはなく、そう面白くもないとか、ニコール・キッドマンに入れ込み過ぎだとか(その割には『ドッグヴィル』には触れていない。ま、<ゲージュツ映画>は嫌いとは80年代から言っていたが)、家の側にシネコンがないという意味でならまだしも、あんな新宿・渋谷に出るのに便利なところに住んでいて、映画を観るのに不便だ不便だと言うのは通用しまへんでとか、メジャー公開、単館公開のブッキングへの見識が古いとか、まあ、諸々あるのだが、やはりバランスの取れたヒトで、現在の映画の在り様をよく見ている。

 映画の本が相変わらずよく出ているという話題で、どういった本が出ているのかと言うと、<大ざっぱにいえば、独断と〈聞き書き〉の二つである>と断言する。<独断というのは、なるべくB級C級の映画や監督をとりあげて、最上級の評価をあたえる。知らない名前ばかりだから、読者がびっくりするという仕組みである。><〈ききがき〉は、AやBといった故人の監督のスタッフに話をきいて、一冊の本を作ることである。これは、かつては意味のある仕事だったが、いまや、メカニックに、無数に作られる。>と纏めているが、正にそうである。これはそのまま批評に対しても通じる。ただ、小林信彦を知らないヒトが本書だけを読めば、ようは秘宝系方面は嫌いなんだと思われかねない記述が多いが、60年代頭に『映画評論』誌上で、新東宝や日活アクションの、<B級C級の映画や監督をとりあげて、最上級の評価をあたえる>ということをやったり、共謀してベストテンに『紅の拳銃』をブチ込んだりしていたのは、他ならぬ小林信彦と言うか中原弓彦なのだから、ヒトのことは言えまいと思うのだが、ま、そこは小林信彦のバランスと言うもので、実際はそっち方面も大好きなのだろうが、それだけというのも困るということなのだろう。本書の中には、『地平線がぎらぎらっ』〈公開時絶賛したのは小林信彦のみだった由〉、『女ガンマン 皆殺しのメロディ』を嬉々として取り上げる姿もあるのだから。

 『鉄板少女アカネ』を掘北目当てで見る74歳の小林信彦の凄みなど、往年に比べれば枯れてはいても、まだ見事なエンターテインメント時評の書き手として存在していると思わずにはいられない。