『キネマ旬報 2007年1月下旬号』『ダ・ヴィンチ 2007年2月号』『STUDIO VOICE VOL.374』

1)『キネマ旬報 2007年1月下旬号』 (キネマ旬報社)  
2)『ダ・ヴィンチ 2007年2月号』 (メディアファクトリー)  
3)『STUDIO VOICE VOL.374』 (INFASパブリケーションズ)  

キネマ旬報 2007年 1/15号 [雑誌] ダヴィンチ 2007/02月号 STUDIO VOICE (スタジオ・ボイス) 2007年 02月号 [雑誌]
 全部惰性でしか買っていない雑誌ばかりだが、ボイスは面白かった。『「80’sカルチャー」総括!』と題した特集で、このあいだの早過ぎた90年代特集が不徹底だった分、こちらは本気度が高い。やはり、90年代を総括するには後10年待たなければならないようだ。ま、単純に90年代をそう力を入れて総括する編集者も書き手も、世代的にそう中心には居ないということも大きいのだろうが、個人的に大嫌いな80年代を、こういう形で切り取るとやはり面白いなとは思う。
 ただ、映画の項目で、角川映画について栗原裕一郎が書いているのだが、実に門外漢らしさ満点のいいかげんなもので、『天と地と』が1992年製作と書いていたり(正しくは1990年)、大コケしたと書いてあるが、実際の劇場は閑古鳥が鳴いていたとは言え、数字上は大ヒット作なのだから、大コケと書いてあることには抵抗があるし、それを言い出せばそれ以前の角川映画の数字もいいかげんなものだ。<『REX』(93年)公開中に春樹がコカインで逮捕され、角川映画は事実上終止符を打った。>というのも確かにそうだが、係争中の『時をかける少女』のセルフリメイクを経て、『男たちの大和 YAMATO』は、佐藤純弥を起用したり、『蒼き狼〜地果て海尽きるまで』で澤井信一郎が起用され、更に『椿三十郎』で森田芳光、『用心棒』で崔洋一など、正に角川映画がここに継続しているとしか言い様がないという状況が生まれつつあるのだから、そう簡単に<終止符>などと軽々しく口にしてくれるなという思いがある。それに比べて隣で手塚眞について書いている井口昇の愛情と批判を交えた素晴らしい短文には、情報量の濃密さからして良くて、最新作の『ブラックキス』にまで言及してあって、対照的である。井口昇は、同じ特集内で、切通理作と80年代の映画状況を語っているが、角川映画への愛情溢れる言葉とそのバランス感覚、過剰な擁護ではなく引いた視点からの冷静な分析が良くて、角川映画の項目は、門外漢の栗原裕一郎などではなく、井口昇に是非書いてほしかった。
 


 足立正生インタビューや、今年改めて書き手としての場を大きく変容させていくであろう松江哲明による『刺青』批評なども注目。