『幽閉者たち』

molmot2007-01-11

3)『幽閉者たち』 (ロフトプラスワン) ☆☆☆★

2006年 日本 カラー スタンダード  83分
監督/土屋豊    出演/足立正生


 土屋豊が『幽閉者』のメイキング(上映前に土屋豊と共に壇上に立った足立正生は、撮影前からカメラを回していたんだからメイキングではないと主張)を撮るというのは、昨年の撮影時から伝わっていたが、『新しい神様』も『PEEP "TV" SHOW』もあまり評価していない自分にとっては、期待と不安が半々というところだった。
 本編を観る前にメイキングを観るのは好まないが仕方ない。
 結論的には、これまで観た土屋豊の作品の中では最も面白かった。ただ、竹藤佳世の『67歳の風景 若松孝二は何を見たのか』同様、若松孝二の、足立正生の撮影現場風景を眺めることができる物珍しさに惹かれている部分が大きい。
 作品の構成は、土屋豊の運転する車で足立正生を撮影現場まで、または自宅まで送り届ける車中での二人の対話を全篇に渡ってベースに敷き、その中で撮影風景のインサート、出演者のインタビューがインサートされるものになっていて、メイキングとしては明快な作りで実に見易い。
 これまで完成した作品と文章、現場のスチールによって想像するしかなかった撮影現場で演出する足立を見ることが出来たということに尽きる作品だが、演出している一端を見る限り、正攻法で基本に則った、恰も撮影所システムから育った監督のように淀みなく進んで行っている風に見て取れた。若松とは対照的に、現場で激昂することも怒鳴ることもなくどんどんカットを消化していく足立の姿。
 面白いのは、その移動の車中での会話の撮影中に妻からの携帯が鳴ると足立は出る。足立の妻は、『映画/革命』『塀の中千夜一夜―アラブ獄中記』を読めばわかるが、現地で再婚し、足立の帰還後彼女も来日しており、一昨年6月に女児が誕生している。彼女は日本語を介さないので、英語かアラブ語かでの会話になるが、凄いのは撮影現場で本番中でも足立の携帯は鳴り、妻との会話が行われる。その間、スタッフ、キャストはじっと待っている。上映後に田口トモロヲも、あんな現場は初めてだと語っていた。
 又、興味深かったのは、イラク人キャストが、この作品がイスラエル視点からなら、自分はこんな役で出ているとわかると故郷に帰れないと不安を訴える箇所で、このエピソードは以前どこかで書かれていたのを読んだが、映像で見ると足立が英語で軽快に問題ないことを伝えて納得させる様子が映し出されており、周囲のスタッフが笑顔でその過程を見守っているところが面白かった。
 といった、撮影現場の映像は興味深く見ていたが、『幽閉者たち』を成立させる肝心の車中の映像はどうか。一切過去の映像、写真を使用せず、現在進行形の形でのみ見せるのも、土屋豊が選択した方法だというのはよく分かるが、個人的には『幽閉者』のドキュメントだけではなく、足立正生が撮る『幽閉者』のドキュメントとしての奥行きを求めたい気持ちもある。又、『新しい神様』や『PEEP "TV" SHOW』の監督であるならば、もっと足立を挑発して欲しかった思いがある。
 とは言え、メイキングとしては見応えのある作品に仕上がっている ので、本編を観終えてからまた観たいと思う。
 因みに『幽閉者』の公開は2/3に決定。『幽閉者たち』の今後の上映は、1月26日(金)20:00〜23:00に吉祥寺の百年という最近出来た古書店で、足立正生×プロデューサー:越川道夫トークイヴェントの中で上映されるようなので、ご興味のある方は観たら良いと思う。



百年「と」アンダーグラウンド〜『幽閉者(テロリスト)』公開記念
監督:足立正生×プロデューサー:越川道夫トークイヴェント
『幽閉者(テロリスト)たち』メイキングビデオ(監督:土屋豊)上映〜

2007年1月26日(金)20:00〜23:00(休憩含む)
チケット:1400円(1ドリンク付き)
定員:50名

http://100hyakunen.com/