『龍が如く 劇場版』

molmot2007-03-23

62)『龍が如く 劇場版』 (ワーナーマイカル板橋) ☆☆★★

2007年 日本 「龍が如く」フィルムパートナーズ カラー ビスタ 110分
監督/三池崇史     脚本/十川誠志    出演/北村一輝 岸谷五朗 塩谷瞬 サエコ 夏緒 加藤晴彦 高岡早紀 哀川翔 コン・ユ

 
 撮影スケジュールが大変なことになってとか、PG-12にするために描写を大分抑えたとか、周辺状況を幾つか耳にしたが、三池崇史のことだから傑作にはしなくとも、一定の質を保ってくれるに違いないと思っていたが、職人技術の切り売りに終始した作品だった。
 現在の三池崇史が、歌舞伎町を思わせる場を舞台にヤクザ映画を撮るというのは、深作欣二が『仁義なき戦い』シリーズを終えた後に、『柳生一族の陰謀』を手掛ける迄に量産していた『資金源強奪』や『新仁義なき戦い 組長の首』 『暴走パニック 大激突』あたりの手堅い作品を作り上げていたことに似た期待があって、一夕のエンターテインメントとして満足度の高い作品にしてくれるのではないかという思いがあった。
 本来は、当然歌舞伎町で観る算段だったが、予定が合わず、シネコンの最終回で観た。 
 
 北村一輝と少女、若い男女の強盗、銀行強盗、消えた百億、北村を追う岸谷五朗、といった多様で面白くなりそうな要素が盛り込まれているが、夫々が点として存在しているだけで直接の露骨なリンクは求めないにしても、「街」に生きる群像として、僅かにカラミつつ展開することも無かったし、脇のエピソードが魅力的でないなら捨ててしまった方が良かった。又、どう観ても暑く見えないのに、科白で暑い暑いと言ってるだけの寒さには茫然とし、別にハナシが繋がってなかろうが、少々無理のある描写だろうが、三池崇史なら何とかしてしまうという思い込みがあるから、始めはそう気にしていなかったが、画面から伝わってくるテンションも低調で、隙間風が吹いていた。
 魅力的怪演になる筈の岸谷五朗が、本人の資質にもよるのだろうが、弾ききれていないので魅力が無く、それが出来てしまう北村一輝が相対して居たり、遠藤憲一も画面の周りにはウロチョロしているのだから、より差を感じる。
 岸谷五朗に乗れるか乗れないかで、本作の評価は大きく変わるのだろうが、自分は乗れなかった。どうも岸谷五朗の生真面目さが透けて見えてしまう。
 幾つも面白くしてくれそうな状況が登場するので、その都度期待していたが、裏切られるばかりだった。
 ただ、母親を探す為に少女をソープへ連れて行ってからのシークエンスが際立っているのは、襖を開くと階段があって岸谷五朗が立っているからで、全くチャチなセットなのだが、映画における階段の優位性を改めて確認した。だから『不良姐御伝 猪の鹿お蝶』でも階段が出てくると、途端に映画がポンと跳ね上がる。それは主役なり相対する敵を際立たせるのにこの上ない道具であるからだ。ここから銃撃戦となり、ちゃんと脇の死んでいくヤクザ達の数秒しか映らないリアクションを捉えながら、二人の対決に持ち込む辺りは良かった。

 終盤のCGと爆破素材集に依存したヘリコプターと爆発は、手馴れている三池崇史だから、効果的使用法を弁えているので、安っぽくならない程度のギリギリで逃げながら、うまく使ってはいた。
 十川誠志の脚本が悪いのではないかという説もあるが、自分は撮影前の決定稿を読んでいないので判断できない。三池作品の脚本を何本か読めば、かなり現場でイジるヒトだと言うのは分かっているので。ただ、十川誠志も『逮捕しちゃうぞ THE MOVIE』の頃は才気を感じさせたのに。