『植木等ショー』

植木等ショー・第7回』【(木曜21:00〜21:30)/放送日不明】 (LD) ☆☆☆☆

1967年 日本 TBS モノクロ(16mmキネコ) スタンダード 約25分
演出/鴨下信一    構成/中原弓彦小林信彦)     出演/植木等 ハナ肇とクレージーキャッツ(ゲスト) 
 
 このブログを始めて丁度3年となる。2004年4月3日を見返すと、『君も出世ができる』の感想を書き、フランキー堺ではなく植木等主演で観たかったと書いてある。あの作品に1シーンだけ突如登場する植木のハイテンションにすっかり楽しんだ記憶はまだ鮮明で、結局植木等が出てくるだけで喜んでしまう無邪気さは変わらない。むしろそれ以外も含めて3年経っても何も変わらなさ過ぎな気もする。

 『植木等ショー』は、ナベプロの展示があった際に少し眺めたことはあったが、全篇を見たのは今回が初めてで、1967年7月6日にTBS系で放送を開始し、半年後の1968年1月11日で一旦終了し、半年開けて同年7月4日〜12月26日まで第二次として放送された全51回の公開バラエティで、毎回ゲストが変わるという趣向のものらしい。
 井原高忠の『九ちゃん!』の構成に参加していた中原弓彦は、渡辺プロダクションコンサルタントでもあったので、『植木等ショー』に加わり、数回分執筆している。
 この回のゲストはクレージーキャッツで、『植木等ショー』にクレージーがゲスト出演するのは初めてだったようで(以降第24回、第37回に出演)、鴨下信一は、そのままやってしまうと当時ではよく見かけたクレージーキャッツのコンサートと同じになってしまうので、30分の間で『ラプソディー・イン・ブルー』を演奏し、ピアノを一台ぶっ壊すというネタを考え付く。しかもそれを公開で目黒公会堂でやろうというのだから無茶だが、中原がそれをクレージー(の演奏の力量)でやれるかと植木に尋ねると、それは谷啓しだいという答えが返ってきたという。中原は幾つかのギャグを用意して谷啓宅へ向かい、打ち合わせを始めるが、谷は既にクレージーの現在の力量で演奏できる『ラプソディー・イン・ブルー』の譜面を作成していた。譜面に直接ギャグを書き込んでいく谷の姿に、中原は驚いたという。
 クレージーの音楽性とギャグの密接な関わりの一端が伺えるエピソードだが、『喜劇人に花束を』や、単行本・文庫版『テレビの黄金時代』に詳しく書かれているので、知ってはいても実物を観る機会は無かった。
 
 「植木等ショー!!」という植木のかけ声が印象的な冒頭に続いて、舞台に飛び出してくる植木の姿からしてハツラツとしていて、資料程度の気持ちで見始めていたのだが、すっかり見入ってしまい、声をあげて笑うことも何度もあった。30分しかない番組だが、考え抜かれた構成と無駄の無さ、テンポの良さにはすっかり魅了された。
 今回は、東京交響楽団をバックに置き、指揮者とのやり取りが前半にあるのだが、喜んだ植木が指揮者の肩に肘をつき、突っ込まれるというルーティンのギャグも、植木がやっているのは、自分の世代ではせいぜい映画で人見明相手にやっているのぐらいでしか観た事がなかったので、軽演劇経験者ではなく、素人の指揮者相手でどの程度のボケが可能かと思ったが、成立していた。
 クレージーが登場して、東京交響楽団に混じって演奏を始めるという展開になるのだが、感嘆するのは、やはりクレージーがミュージシャン出身であることの強みで、この系列のコントはドリフターズも何度かクレージーのネタをリメイクしているが(ハナ肇がクレージーのネタは全部使って良いと、いかりやに言った由)、基本的に演奏に入らずに入るまでで引っ張ることしかできないので、楽器がコントの中で小道具としてしか機能しておらず弱さが目立った。それでも、現在ならそれ以前の問題になってしまうのだろうが。
 その点、クレージーの場合は、既に放送時の段階で、演奏を長らくやっていなかったようだが、それでもやれてしまうから強いし、犬塚弘の猿のシンバルの真似や、安田伸が『君といつまでも』を突然唄いだす、石橋エータロー桜井センリのピアノの奪い合いといったネタが『ラプソディー・イン・ブルー』演奏中に入ってくるが、舞台でバックに楽団が居て、手前でギャグを演じて、中心に指揮者で突っ込みを担当する植木が居るという配分で、公開録画となれば、間延びしてきたり、テンポがやや落ちる箇所が出てきそうなものだが、全く無い。ギャグが決まると直ぐに通常の演奏に戻るので、ダレない。植木が犬塚を洗面器で叩いてから演奏に戻る素早さなど素晴らしい。
 ピアノが二人居ることの弊害が語られることの多いクレージーだが、今回の『ラプソディー・イン・ブルー』の場合など、どういう扱いになるのだろうかと思ったが、石橋と桜井のピアノの奪い合いまでは想像がついても、そこから過剰化して、クレージーのメンバーが全員でハンマーなどでピアノを壊しにかかり、指揮している筈の植木がいつの間にかステテコ、チョビ髭姿で爆弾を持って現われてピアノに仕込んで爆破させ、クレージーのメンバーが全員黒こげになり、それでもメゲずに桜井がオモチャの小さなピアノで尚も『ラプソディー・イン・ブルー』を弾いていると、谷がハンマーでぶっ潰すというスラップスティックぶりには呆気に取られた。中原弓彦の趣味がよく出ている一景ではないかと思う。
 
 リアルタイムで見ることが叶わなかった『植木等ショー』の一回分を見ただけで何が分かるというものでもないが、クレージーは舞台での音楽込みで演じられるものが面白い。