『第三の男』『新日本暴行暗黒史 復讐鬼』

16)『第三の男』[The Third Man](英国公開版) (DVD) ☆☆☆☆★

1949年 イギリス モノクロ スタンダード 104分
監督/キャロル・リード   脚本/グレアム・グリーン    出演/ジョゼフ・コットン オーソン・ウェルズ アリダ・ヴァリ トレヴァー・ハワード バーナード・リー
第三の男 [DVD]
 


17)『新日本暴行暗黒史 復讐鬼』(VIDEO) ☆☆☆★

1969年 日本 若松プロダクション パートカラー スコープ 72分
監督/若松孝二   脚本/出口出足立正生)     出演/吉沢健 津島明子 田口一矢 関成夫 村岡五郎

 津山三十人殺しをモチーフにした映画としては、現在ネガが行方不明と言われている片岡千恵蔵の『八ツ墓村』に次ぐ作品になる、筈。久々に再見したが、以前観た時よりも面白かった。
 『日本暴行暗黒史 異常者の血』が大当たりしたことからシリーズ化され、『続日本暴行暗黒史 暴虐魔』『日本暴行暗黒史 怨獣』『現代日本暴行暗黒史』などが製作されているようだが、現在ビデオで観ることができるのは、『日本暴行暗黒史 異常者の血』と『新日本暴行暗黒史 復讐鬼』のみだ。是非、日本暴行暗黒史シリーズをセットにしたDVD、暴行BOXを出して欲しい。
 本作は、若松×足立コンビによる実録犯罪をモチーフにしたもので、その流れで阿部定もやる予定で既に足立による脚本も仕上がっていたようだが、映画化されていない。何でも定が吉蔵のモノを斬った後、ポンと現在に飛んで、国立競技場のグランドをモノを持った定が一周するというモノだったらしく、いかにも足立が好きそうな展開ではないか。
 本作は、津山三十人殺しではあるが、そのままやっているワケではなく、閉塞した村で孤立している兄と妹の関係性を軸に、兄が村人への復讐を遂げる様を描いている。肺病という都井睦夫的キーワードもあるが、兄と妹の関係性の後ろに隠れており、『丑三つの村』的なものとは趣を異にする。
 足立が若松映画のフォーマットを語る時によく、「転」から始まって「起承結」と流れていく構成が、1時間弱のピンク映画の枠でいかに有効に作用したかを語っているが、若松の作品全てに当てはまらないにしても、本作などは、そのフォーマットの典型で、開巻で拷問されている兄と妹という強烈な描写から入り、復讐に村人を一人ずつ殺していく兄の描写が全編に敷かれ、その合間に回想で母が村人に暴行され死ぬ過程や、妹との仲を村人に冷やかされる描写などが入れ込まれ、そして、時制が現在に戻ると、妹は暴行のショックで自殺し、兄は残りの村人を皆殺しにかかる。
 自分は、『丑三つの村』は好きな作品ではあるものの、思い入れのある津山三十人殺しの映画化としては満足していない。三十人殺しの描写としては、野村芳太郎版『八つ墓村』の巨匠にあるまじきやりすぎな皆殺しシーンがベストだが、などと考えていると、津山三十人殺しを映画化するには、ショートフィルムが一番合っているのではないかとある時思った。唐突にそう思った。
 実際学生の頃、『津山1938』というタイトルで、15分ほどの短編を撮ろうとしたことがあったが、懐中電灯装填から始まって婆さんの首を跳ねて、村人三十人殺して山に駆けて行くまでをやるにしても、全篇ナイトシーンなので、その準備たるや大変なもので、ロケ地は岡山に「八塔寺ふるさと村」という『黒い雨』や市川崑版『八つ墓村』でロケに使用された村があるのでそこが良いとロケハンもしたが、個人製作ではとても無理な要素が多いので諦めたが、今から思えば、本当にやる気があれば何とかなったんじゃないかと思う。
 ま、個人的感慨は置くにしても、その方法論に最も近いのが本作で、津山事件をやる際に陥る、夜這い、肺病、村の排斥といった、パターン以上の描写にすることが難しい箇所を時制を変えて、「転」から作劇を始めることで回避させる手法として興味深くはあったが、ただその場合、若松作品の場合は特にそうなのだが、描写への比重がかかりすぎて、また若松の手腕をもってすれば、脚本がなかろうとも或る程度見せることが出来てしまう描写力がある為に、復讐への動機の根幹の箇所が不鮮明になるのと、終盤の皆殺しの爆発的感情について行けないという作劇上の手薄感が出てしまっている。
 重々しさ、救いようの無い暗さは素晴らしいまでに出ているだけに、全篇に渡って殺していく描写が続いても飽きさせはしないが、余計な描写を省いて、全篇殺しの描写でやれば津山事件を描くには良いという自説が、本作を観れば薄らぐ。