『星影のワルツ』

molmot2007-05-27

129)『星影のワルツ』  (ライズX) ☆☆★★★ 

2006年 日本 youngtreefilms カラー ビスタ 97分
監督/若木信吾    脚本/若木信吾     出演/喜味こいし 山口信人 渥美英二 磯部弘康 神崎千賀子 影山宜伸 吉井裕海



 何と言っても、関西人としては、いとこいの、こいし師匠が主演している映画というだけで、観に行ってしまう。
 東京の芸人さんのことは知らないが、関西では基本的に幼少時から演芸番組を強制鑑賞させられるので、一つの番組にダウンタウンも出れば、やすきよも出れば、いとこいも出るので、一通り各世代の漫才を見ることになる。物心ついた頃には、すっかり、いとこい漫才のフォーマットに慣れ親しみ、夢路いとしの凄いボケ方に舌を巻きつつ、自在に突っ込み返す喜味こいしに心酔した。それだけに、4年前にいとし師匠が亡くなったのは残念極まりなく、もう、いとこい漫才を見ることが出来ないのかと思うと辛く、こいし師匠の心痛を慮った。
 しかし、こいし師匠はその後、漫才時代とは風貌を異にし、髭を蓄えたその姿は妙に格好良く、その姿に映画出演のハナシが来たのも頷ける。ただ、ミヤコ蝶々の舞台などを見ていれば御馴染みだが、演技者としての喜味こいしを知っているので、或る程度演技にも想像がついていたのだが、本作では、全く異なる味わいが出ており、こいし師匠が登場するだけで満足した。
 本作は、祖父と孫の関係を軸に展開する物語で、祖父の日常とその兄の自殺といったエピソードと、孫の幼馴染の知的障害者たちとのエピソードが二分されている。知的障害者たちとのエピソードは、半分ドキュメンタリー風に撮られているのだが、ワザとらしく仕込んだ役者が入り込んできたり、ダラダラと撮っているだけなので、編集で切れないからそのまま投げ出すように入っており、作者が思うほどには効果が出ておらず、本作の作りには全く不要としか思えなかった。こいし師匠のみを見たかった。
 それほど、こいし師匠の味わい深さは格別で、恐らくアドリブでやっているであろう居酒屋のシーンなどでも、流石に見事にこなしている。
 終盤の砂浜への家族との道行など良いだけに、作品全体の作り、監督の実際の祖父をモデルにしたことと、現実の別の魅力を放つ喜味こいしとのバランスに迷いが見えたのは残念だった。
 ともあれ、喜味こいしのみを見るだけでも価値のある作品ではある。