『何が彼女をそうさせたか』DVD発売!!

 『映画の誘惑』のDVD新作情報を読んでいたら、『何が彼女をそうさせたか』のタイトルが挙がっている。まさか鈴木重吉の『何が彼女をそうさせたか』?と思ったら本当にそうだった。


『何が彼女をそうさせたか クリティカル・エディション』 紀伊國屋書店より12月22日発売。
何が彼女をそうさせたか クリティカル・エディション [DVD]

 1930年帝国キネマ製作のこの作品の存在を知ったのは、『キネマ旬報』1994年6月上旬号で、長らくフィルムの行方が不明とされていた本作がロシアで発見されたというニュースだった。その号では発見されたフィルムを観た大島渚と、大映京都撮影所長だった鈴木晰也の対談が掲載されており、それを読んでこの作品が観たくなった。
 実際に作品を観ることができたのは、それから6年後の2000年10月1日で、大阪映像フェスティバルのオープニング上映作品として心斎橋のパラダイスシネマで上映された時だった。その時の感想のメモが残っているので書き写しておく。文章の稚拙さや記憶違い、勘違いも多々含まれているだろうが、ま、7年前なのでご容赦を。映画自体は、『嫌われすみ子の一生』と言いたい様な映画である。
 下記、終盤まで記しているので注意。
 本作のDVD化が実現するというのは画期的なことで、再見したいと思っていただけに殊の外嬉しい。ちなみに本作の修復に携わった方が、蓮實重彦に『何が彼女をそうさせたか』が見つかったので是非観てくださいと言ったところ、「暗い映画は嫌いです」と言われたというハナシがあるのだが、本当なのか。結局、蓮實重彦は『何が彼女をそうさせたか』を観たのかどうか。

何が彼女をそうさせたか』 (パラダイスシネマ) ☆☆☆☆

1930年 日本 帝国キネマ モノクロ スタンダード 分
監督/鈴木重吉    脚色/鈴木重吉    出演/高津慶子 藤間林太郎 小島洋々 牧英勝 浜田格



 昭和4〜5年に流行したジャンルに<傾向映画>がある。左翼的要素を持った作品をさし、溝口健二の『都会交響楽』、内田吐夢の『生ける人形』、田坂具隆の『この母を見よ』など、左翼的、社会主義云々というよりも、悲劇性を持ち合わせた作品と考えた方がわかりやすいかもしれない。
 <傾向映画>という言葉が再び現れるのは、1959年の松竹大船の試写室である。新人・大島渚の第一回監督作品『愛と希望の街』の零号試写が終わった時、撮影所長は大島に向かって、「君、これではまるで傾向映画だよ」と漏らした。

 傾向映画の代表的作品と言われる『何が彼女をそうさせたか』がロシアで発見されたというニュースを読んでから、6年目にして遂に作品と対面できたが、ロシア語字幕に肝心のラストシーンが欠けているというプリントではあるが、作品の大半は観ることができるので喜ばしい。
 
 これは、とんでもない傑作である。予備知識を全て取り払って作品と接しても、純粋に面白いと言える。現在の視点から観ても全く色褪せていない。余りの強烈な悲劇に、現在のヤワな悲劇めいたものなど一瞬で吹き飛んでしまう。

 父親に伯父の家へ行けば学校に行かせて貰えると教えられた少女すみ子は、伯父の家へ着き、父からの手紙を見せると父が自殺したことが書かれていた。しかし、伯父の家も貧しく、すみ子はサーカスに売り飛ばされる。 サーカスで知り合った男と逃げ出すも、離れ離れとなる。やがて再開を果たし、幸福な生活を手に入れたと思いきや、夫に仕事はなく、心中の道を選ぶ。 しかし、すみ子だけは助かり、教会で保護されるが、教会の偽善を見抜き、火を放つ。 
 
 ストーリーを列挙すると、これでもかと不幸が押し寄せてくるので、普通ならば笑ってしまうぐらいなのだが、この作品は重々しく、極めて生々しい現実感の強い描写で観る者を締め付けてくる(終盤の展開は流石にオマエ何するねんと皆笑っていたが)。
 欠損しているラストシーンは、字幕による補足がなされているが、目に浮かぶようであった。
 古びない悲劇性をまとった傑作として『何が彼女をそうさせたか』は忘れ難い。