『屋根裏の散歩者』

molmot2007-07-25

203)『屋根裏の散歩者』 (シアターN渋谷) ☆☆

2006年 日本 アートポート カラー ビスタ 87分
監督/三原光尋    脚本/井土紀州    出演/嘉門洋子 窪塚俊介 村木仁 永瀬ひかり 木下ほうか でんでん

 一応、江戸川乱歩の映画化作品には付き合うようにしているが、流石にビデオ撮りの単館レイト作品となると相当腰が重くなるのは確かで、連続上映されている『人間椅子』を見逃してしまったのも、その辺りが影響しているのだと思うが、4度目の映画化となる『屋根裏の散歩者』(最初の映画化である木俣堯喬版を観ることは可能なのだろうか)に惹かれたのは、脚本が井土紀州だからであり、撮影が芦澤明子だからだ。監督が暗さも陰もこれまでのフィルモグラフィーからは微塵も伺うこともできない三原光尋だったり、主演がヤーさんの情婦だったりしているが、井土紀州芦澤明子の乱歩を観たいという思いで出掛けてみた。
 基本的に、時代設定が現在に移ってビデオ撮りという段階で、萎えさせられるが、いくら千円の日とは言え、義務感だけで観ていては金が無駄なので、何とか楽しむべく乱歩の映画化作品という思いは一端置いて観ることにした。
 原作からは、屋根裏からの覗きという要素と郷田三郎という記号だけを残して大々的に改変されているが、この枠組みで原作通りのものを求めても、無理してやれば一室のみを舞台にするぐらいでしかやりようがないだろうから、井土紀州の回避策は正しい。ピエロ、エキセントリックな住人など、アプローチとしては、いどあきお脚本による『江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者』に近い。ロマンポルノのいどあきおと、ピンク映画出身の井土紀州が共に、直接描写はないにしてもエロティズム溢れる原作から敢えてかなり改変を加えているのは興味深いし、逆に薩川昭夫はストレートに脚色して成功している点も含めて、『屋根裏の散歩者』の三つの映画化作品を比べると、これまで数多く作られた乱歩原作の映画化作品に対する成否の一端が伺えるかもしれない。
 三原光尋は手馴れた演出でこなしているので、低予算のビデオ作品と言えども、目を覆うようなことはなかった。ただし、いくら撮影が黒沢清の近作で優れた恐怖映像を作り出している芦澤明子と言えども、監督が恐怖演出を弁えないヒトがやるとこうなってしまうのかと言う位、乱歩と芦澤明子という期待した組み合わせでありながらも、突出した映像を定着させるには至らなかった。
 殊に不満というか疑問なのは、全裸で縛られた女の体のみに後から編集段階でブラーをかけていることで、本作はR-15だが、成人指定回避の為にあんなことをやっているのだろうか。最初は演出上やっていることかと思ったが、その後ろに人物が来た時に、その人物の服の一部にまでブラーがかかってしまっていたので、現場段階で後で編集時に入れるという意図はなく、編集段階で入れろとなったのであろうと判断できてしまい、興冷めだった。終盤の炎が如何にも合成で足した炎というのが丸分かりなのも同様。
 そして、最大の問題が、嘉門洋子が決して乳首を見せなかったことで、見せないなら見せないで良いが、花びらを乳に貼り付けて、立っても落ちないというのを見せられた時には、失笑というよりも情けなくなった。
 とは言え、井土紀州の脚本はどうなっているのか読んでみたいと思った。