[読了] 『酔眼のまち-ゴールデン街 1968〜98年』

20)『 酔眼のまち-ゴールデン街 1968~98年』(たむらまさき青山真治朝日新書 ☆☆☆★★★

酔眼のまち-ゴールデン街 1968~98年 (朝日新書 79)

酔眼のまち-ゴールデン街 1968~98年 (朝日新書 79)

 たむらまさきの話が面白いと知ったのは、96年の『映画芸術』誌での篠田昇との対談を読んだ時だったと思う。91年に『キネマ旬報』でのカメラマンへのインタビュー連載(後に『映画撮影とは何か―キャメラマン40人の証言』として単行本化)で、伊丹十三との不和を赤裸々に語っていたのが印象的だったので名前を覚えた。いかにもカメラマンらしい、ぶっきらぼうな怖さを感じたが、前述の対談以降は、たむらの名前を見ると直ぐに目を通すようにした。
 本書は、青山真治を話し相手に語ったものを青山がまとめたものだが、新書という軽さに相応しい読み易さで、決して万人受けする内容ではない筈だが、映画に興味が無くとも読み応えを感じさせる構成で読ませる青山の手腕が際立っている。
 タイトルから判断すると、『nobody issue5』の特集『はじめまして、新宿』のたむらまさきインタビューと同様のゴールデン街のみを語ったように思えてしまうが、ゴールデン街を背景に置きつつ、たむらまさきフィルモグラフィーを駆けていく内容になっていて、ひたすら面白い。青山真治がまとめているので幸いなのは、バランス感覚が優れているからで、こういった書物では時として映画方面に疎いヒトが編集して無茶苦茶なコトになっていたり、特殊な作品に拘り過ぎて、それよりももっと語るべき内容の作品があるにも関わらず無視していたりして唖然とすることもある。それが本書ではなく、むしろ自作の箇所は控えめ過ぎるぐらいにあまり触れられておらず、たむらまさきフィルモグラフィーを軽やかに聞き出している。個人的には、伊丹十三との『タンポポ』での確執を聞いてくれているのが嬉しかったし、平仮名への改名の動機も明らかとなり、新書では勿体ないような本だが、本格的な研究本とロングインタビュー本と、こういう軽くて濃い内容の本があると、後世、たむらまさきというカメラマンを読み解く上でこの上ない資料となるだろう。