市川崑のCMたち
昨日亡くなった敬愛する市川崑監督の業績を数回に分けて振り返ってみたい。1965年に毎日放送で製作した伊丹一三主演のテレビドラマ『源氏物語』の映像も一部紹介する予定。
まずは、CM監督としての市川崑を見ていきたい。
市川崑が初めてコマーシャルフィルムを撮ったのは、1966年の『ホワイト・ライオン』だ。加賀まりこ主演の60秒のライオン歯磨きの広告だが、この作品は『黒い十人の女』のリヴァイヴァル上映の際に併映されたので、観た人も多いと思う。モノクロ・ハイキーのちょっと驚くほどソフィスティケイテッドされた映像に息を飲んだ。このCFでの加賀まりこの美しさは『月曜日のユカ』を超えている。ちなみに加賀まりこと市川崑の接点はこの作品と、数少ない舞台演出を手掛けた1968年の『弥次喜多・東海道中膝栗毛』のみで、不思議と映画では組んでいない。
『ホワイト・ライオン』に話を戻せば、僅か60秒と言えども、シナリオを和田夏十、谷川俊太郎、市川崑によって書かれ、撮影は長野重一、アパートの一室を品川の空き地にロケセットで組むという手のかかったもので、10年前に一度観たきりの作品だが忘れ難い。
以下は、動画を実際に観ることが出来る作品群である。各作品を観ると、すべてに市川崑らしさが溢れていて、その前後の時期に撮られた市川崑の劇映画との関連も伺えると思う。
ちなみに、最も有名な『サントリー・レッド』シリーズの大原麗子を、いじらしい人妻と考えがちだが、市川崑によるとそうではないそうである。『市川崑の映画たち』から引用すると、<あれは、奥さんじゃないんだからね。><夫婦だとは限定してはいません。だから、意識的に、いつも男をはっきりと描写しませんでしたよ。><(前略)奥さんとか、愛人とか決めつけずに済むところが、コマーシャルの長所なんですよ。(後略)>とのことで、愛人と考えると途端に匂いたつ作品に思えてくる。明るく健全なCMに終わらせない人間への冷ややかな視点は、市川崑ならではのものだ。
■『新幹線岡山開業 汽車会見篇』
1972年 日本国有鉄道 30秒
演出/市川崑 ナレーション/愛川欣也
■『サントリー・レッド 電話篇』
1983年 サントリー 30秒
演出/市川崑 出演/大原麗子
■『サントリー・レッド お漬物篇』
1983年 サントリー 30秒
演出/市川崑 出演/大原麗子
■『サントリーレッドスペシャル 隠しごと篇(15秒)』
1986年 サントリー 15秒
演出/市川崑 出演/大原麗子
■『サントリーレッドスペシャル 隠しごと篇(30秒)』
1986年 サントリー 30秒
演出/市川崑 出演/大原麗子
■『サントリーレッドスペシャル 結婚記念日篇』
1986年 サントリー 30秒
演出/市川崑 出演/大原麗子
○参考資料
「成城町271番地」
「映画プログラム 『黒い十人の女』」
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