新文芸坐・市川崑追悼特集で水谷豊主演の幻の傑作『幸福』上映

 7/12(土)〜8/1(金)迄、新文芸坐で《追悼 市川崑》と題した特集上映が行われる。市川崑は晩年も人気があったせいか、というよりも90年代中盤以降の再評価―『市川崑の映画たち』の出版、『黒い十人の女』のリヴァイヴァル上映が大きいのだろうが―のせいもあって、5年前のフィルムセンターでの大回顧展をはじめ、特集上映が毎年のように行われていた。事実、死去した時にも神保町シアターで特集上映が行われている最中だった。
 それだけに、亡くなってようやく再発見、再評価が始まるという気はしないものの、もう新作を観ることが出来ないだけに改めて旧作を見返していきたい。

 市川崑は割合、多くの作品がソフト化されている監督ではあるが、初期作に未ソフト化作品が多い。
 今回の特集上映の中で未ソフト化作品を挙げておけば、『青春銭形平次はLDのみ、キネマ倶楽部で出ていたビデオは大半が入手できないので、それも未ソフト化作品として扱うとして、『女性に関する十二章』『プーサン』『青春怪談』『わたしの凡てを』『三百六十五夜 総集編』『愛人』がそれに当たるので、CSなどを入れていない方は、この機会を逃すなかれ。
 又、ビデオのみでDVD化されていない作品は、『帰って来た木枯し紋次郎』『女経』『おはん』『映画女優である。

 それ以外にソフト化もCSでも放送されていないレア作品がある。まずは、『人間模様』『果てしなき情熱』(追記:日本映画専門チャンネルで放送済みでした)『銀座三四郎の3本で、名画座である程度かかっていたようだが自分は10年ほど前に『人間模様』と『果てしなき情熱』が大阪のプラネットでかかったので顔色を変えて授業を放り出して駆けつけたのを覚えている。事実それ以降、今回まで観る機会がなかった。
 『人間模様』は、派手にカメラを傾けたりと、再初期作だが既に市川崑のお遊びが見られる。
 ただし、初期の新東宝時代の作品は、後年市川崑が関知しないところで改題、短縮されているものが多く、前に『熱泥地』を観た時もそうだったが、途中のエピソードがアカラサマにカットされて分けがわからなくなっている作品もある。現存しているのがそういったフィルムしかなかったりするものだから、困る。

 そして、80年代の作品でありながら、公開時以降、名画座にもかからず短縮版が一度テレビ放送されたきりの水谷豊主演の刑事ドラマ『幸福』が今回上映されるのは特筆すべきことで、この機会に多くの方に観ていただきたいと思う。市川崑のベスト5に入る傑作(水谷豊によれば和田夏十も同様の発言をしていた由)でありながら、フィルムセンター所蔵のプリントでしか観ることが出来ない未ソフト化の幻の傑作が『幸福』である。公開時にもある程度評価されているが、現在でこそ再評価すべき傑作なので、市川崑が亡くなり、水谷豊がスクリーン復帰を果たした今年にこそ観られるべき作品なので、上映が決まって嬉しい。
 自分はフィルムセンターや東京国際映画祭の特集上映で2回観ることが出来たが、素晴らしい傑作だったので、もっと多くの人に観てもらいたいと思わずにはいられなかった。ある年齢以降の人は殆ど見ることができていない作品なので、DVD化の実現を願っている。恐らく市川崑そのものへの評価にも変化が生ずる筈である。80年代以降の数少ない現代劇であり、家族の物語としても市川崑らしい距離感の出たクールな視点が見事で、又金田一シリーズで鍛えた恐怖演出も現代が舞台だけに禍々しく、更に加藤武がアレと同じような格好で登場し、映画の雰囲気も顧みず、警察の偉い役なら、アレをやった方が良いのかと勘違いしたのかどうか、アレをやってのけるシーンも金田一シリーズが好きな方面にも観ていただきたい。

 観るべき作品は全て、としか言いようがないラインナップだが、『幸福』だけは、この機会を逃さないようにしたいただきたい(今回も平日に組まれているのは残念。土日にこそ入れるべき作品だ)。勿論他にも文句なしに面白い傑作を挙げていけば、『あの手この手』『青春銭形平次』『プーサン』『人間模様』『こころ』『愛人』『穴』『破戒』『炎上』『東京オリンピック』『太平洋ひとりぼっち』『ビルマの竪琴 総集編』『野火』『満員電車』『私は二歳』『日本橋』『鍵』『おとうと』『黒い十人の女』『股旅』『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』『ど根性物語・銭の踊り』『女経』『おはん』『映画女優』『どら平太』『四十七人の刺客』『細雪』と、大半の作品を挙げてしまうのだが。

《追悼 市川崑


7/12(土)「あの手この手」「青春銭形平次
7/13(日)「女性に関する十二章」「プーサン」
7/14(月)「青春怪談」「わたしの凡てを」
7/15(火)「三百六十五夜 総集編」「人間模様」
7/16(水)「果てしなき情熱」「銀座三四郎」(再公開短縮版・改題『銀座の猛者』)
7/17(木)「こころ」「愛人」
7/18(金)「穴」「さようなら、今日は」


7/19(土)「破戒」「炎上」
7/20(日)「東京オリンピック」「太平洋ひとりぼっち
7/21(月)「ぼんち」「雪之丞変化
※13:35より和田誠三谷幸喜によるトークショーあり。
7/22(火)「ビルマの竪琴 総集編('56)」「野火」
7/23(水)「満員電車」「私は二歳」
7/24(木)「日本橋」「鍵」
7/25(金)「おとうと」「黒い十人の女」 


7/26(土)「股旅」「帰って来た木枯し紋次郎
※13:35より中村敦夫によるトークショーあり。
7/27(日)「犬神家の一族('76)」「悪魔の手毬唄
7/28(月)「ど根性物語・銭の踊り」「女経(ドイツ語字幕入り)」
7/29(火)「おはん」「映画女優
7/30(水)「どら平太」「四十七人の刺客
7/31(木)「幸福」「細雪
8/01(金)「かあちゃん」「市川崑物語

http://www.shin-bungeiza.com/schedule.html

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