幻の松江哲明監督作『ハメ撮りの夜明け 完結編』7月13日(日)阿佐ヶ谷ロフトAで解禁

7.13(Sun) <ハメ撮りの夜明けとセックスと嘘とビデオテープとウソ>

松江哲明(監督)×若杉公徳(漫画家「デトロイト・メタル・シティ」)

ハメ撮りの夜明け 完結編」04年/116分(予定)/制作:ハマジム
プロデューサー:カンパニー松尾
演出、構成:松江哲明


セックスと嘘とビデオテープとウソ」08年/30分/制作:チップトップ
演出、構成:松江哲明


04年にCS放送されたものの、諸事情により封印されていた「ハメ撮りの夜明け完結編」が復活。カンパニー松尾率いる人気メーカーハマジム設立の瞬間と、AV制作者たちの精子と生死に満ちた日々と、松江哲明恋愛模様が記録された長編AVドキュメント。また「あれから4年後」に制作され、ガンダーラ映画祭では多くの観客をドン引きさせた問題作「セックスと嘘とビデオテープとウソ」も同時上映されるが、実は続編とも言える内容となっている。ゲストは実写化が話題になっている大ヒット漫画「デトロイト・メタル・シティ」の作者、若杉公徳


会場/阿佐ヶ谷Loft A
OPEN 17:00 / START 18:00
前売¥1,500 / 当日¥1,800
ローソンチケット発売中!【L:36997】


http://www.loft-prj.co.jp/lofta/

 いよいよ13日に阿佐ヶ谷Loft Aで、松江哲明監督の『ハメ撮りの夜明け 完結編』が、今年第3回ガンダーラ映画祭で上映された『セックスと嘘とビデオテープとウソ』との併映で復活する。
 『ハメ撮りの夜明け 完結編』とは、2004年にCSフラミンゴチャンネルで放送される為に制作された作品で、松江哲明にとって『アイデンティティ』(セキ☆ララ)に続くハマジムでのAV監督作第二弾ということになる。
 前年『前略、大沢遙様』でAV監督としての道も歩み始めた松江は、翌年百花繚乱の如く作品を連発する。『アイデンティティ』『マンスリーヌードカレンダー07』『ほんとにいた!呪いのビデオ刑事』『ハメ撮りの夜明け 完結編』『裏・人妻ドキュメント』といった作品が2004年に一挙に制作されている。前年には『カレーライスの女たち』『2002年の夏休み』といった作品が制作されており、『童貞。をプロデュース』へと至る松江作品のベースがこの時期に確立されたとみていい。
 実際、それまで『あんにょんキムチ』は公開時に観ていたものの、以降は『2002年の夏休み』と『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズを1本ほど観ていたに過ぎなかった自分が俄然松江哲明の動向に目が離せなくなったのは、ハマジムが設立され、『アイデンティティ』なる作品が制作されたと『映画芸術』誌上で読んだからだ。興味は尽きず、2004年09月19日にアップリンクで行われたイベント「愛と残酷のアダルトビデオ上映会とライブ」へ出向き、カンパニー松尾林由美香平野勝之豊田道倫松江哲明らが居る奇妙な空間で『アイデンティティ』のダイジェストやハマジムの他の作品の上映などを朝まで観ていた。その中でダイジェスト上映された一本が『ハメ撮りの夜明け 完結編』だった。上映前にカンパニー松尾林由美香に挟まれて座る松江に向かって、カンパニー松尾は、遂に松江がハメ撮りを始めたことを語った。そのきっかけになった作品として紹介されたのがこの作品で、スクリーンには悶々とした童貞的雰囲気を醸し出す松江が(実際には童貞ではないが)、女性相手に手マンする姿が映し出され、場内が爆笑の大喝采となった。
 その時から、『ハメ撮りの夜明け 完結編』は、松江作品の中でも最重要作品の一本に違いないと確信し、全編を観る機会を待っていた。しかし、以降上映もDVD発売もイベント上映も一切されないまま現在に至っていた。
 数少ないこの作品を観、文章にしている人に阿部嘉昭氏がいる。「ドキュメンタリー映画の最前線メールマガジン neoneo vol.29-1 2005.2.1」に掲載された『日本のドキュメンタリー映画のかたち ドキュメンタリーの新しい夜明け (1)』というのがそれで、『ハメ撮りの夜明け 完結編』を観たい観たいと思っていた自分にとっては、これを読んで作品の全貌を想像するしかなかった。本当は、どうしても観ることが出来ないなら監督に直談判してでも見せてもらおうかとも思っていたが、何か外に向かって書く用件があるわけでもなし、自己満足的に観れたというだけの為にそんなことをしても仕方ないので、多くの観客と共に観ることが出来る日がいつか来るのではないかと思い待っていた。
 それだけに、『セックスと嘘とビデオテープとウソ』を観た時に呆気にとられたのは、その作品がどう観ても『ハメ撮りの夜明け 完結編』を踏まえた続編的構造の作品だったことがダイジェスト版しか観ていない自分ですら直ぐに分かる内容だったからで、一瞬腹が立った。こんなものは『ハメ撮りの夜明け 完結編』を観てからではないと真に楽しめないのではないか。それを恐らく観ていないであろう大多数の観客に平然と差し出すなどという気難しい態度は、とてもあの大ヒット作『童貞。をプロデュース』と同じ監督とは思えない。しかし、どうやらそんなことは百も承知でやっているらしいと、これを『童貞。をプロデュース』の反動として考えると納得がいった。松江監督によれば実際には、『童貞。をプロデュース』の<反動>として作ったのは豊田道倫のPV『カップルシート』だそうで、むしろ『セックスと嘘とビデオテープとウソ』は、『デトロイト・メタル・シティ』のメイキング『デトロイト・メタル・シティ ドキュメントDVD 松山ケンイチ×クラウザーII世×根岸崇一』の<反動>だという。

 勿論、ここで言う<反動>とはヒット作や雇われ監督という身からの反動ではなく(『デトロイト・メタル・シティドキュメントDVD』は本当にそんなことして良いと言われたんだろうかと心配になるくらい自由に作っているようだ )、ヒット作やメジャー作を手掛けつつ、徹底的に個に向かったセルフドキュメンタリーを同時に並立させるための<反動>であり、両者は常に反発し合い、共鳴し合っている。だから既に現段階での松江哲明フィルモグラフィーを参照しても分かるが、何故こういった作品が同時期に並立してしまうのか訝しく思えるような作品が並んでいる。その振り幅は今後益々大きくなるに違いない。
 そういった意味で、昨年大ヒットした『童貞。をプロデュース』、今年の『デトロイト・メタル・シティ ドキュメントDVD』という流れの中で、今回の<ハメ撮りの夜明けとセックスと嘘とビデオテープとウソ>という上映イベントが組まれたことはとても象徴的で、普通に考えれば自作をヒットさせ、メジャーからも声がかかっている監督が、何も自分が被写体になって更にハメ撮りをするような作品を出す必要などどこにもない。しかし、松江哲明は敢えて自ら会場を押さえてまで長らく上映できなかった作品を新作と連動させて上映しようとする。その上、当日のゲストには、『デトロイト・メタル・シティ』の原作者・若杉公徳が招かれている。明らかにこれは、仕事としてメジャー作をやって、趣味的に自主上映会をやっているのではない。両者の並立化が若杉公徳が来ることによってより顕著になっていく。
 幻の『ハメ撮りの夜明け 完結編』の解禁は、『セックスと嘘とビデオテープとウソ』との2本立てによって、単なる未公開だった旧作が公開されたに止まらず、2004年以降の松江作品の総括と今後の新作『あんにょん由美香』から更にその先に至るまでの展望を見出せるに違いない。今後の上映予定が現在のところ立っていない本作に触れる唯一の機会だけに、多くの観客とその時間を共有したいと思う。

 尚、本イベントのフライヤーに、このブログで4/17の日記に『セックスと嘘とビデオテープとウソ』について書いたものが全文掲載されている。ブログ用に書いた一発書きの相当雑な文なので恐縮したが、松江監督がブログならではの勢いを買ってくれたようだ。とにかく『ハメ撮りの夜明け 完結編』が観たいということを書いたもので、だから自分は今現在に至るまで、『セックスと嘘とビデオテープとウソ』は観ているものの、『ハメ撮りの夜明け 完結編』は観ていない。フライヤーに寄稿していながら、その上映作品の半分を観てないというのはアリなのかどうか知らないが、今後自分がそういったものを書く機会がもしあったにしても、観ていない作品について書くなんてことはありえないし、他人にそれを観よと勧めることもないだろう。しかし、上記に書いたような理由で、『ハメ撮りの夜明け 完結編』だけは他人に絶対観た方が良いと勧めている。これは自分のこれまで映画を観てきた経験を踏まえた一種の賭けだが、『セックスと嘘とビデオテープとウソ』の完成度から逆算すれば、『ハメ撮りの夜明け 完結編』は下手すれば松江哲明の最高傑作ではないかという予感に捉われている。それが果たしてどうなのか、13日に観た上で後日感想を記したい。
 最後に、『松江哲明読本 裸々裸三昧』から、『ハメ撮りの夜明け 完結編』についての松江監督自身のコメントを引用しておく。

ハメ撮りの夜明け 完結編
04/DV/116分/CSフラミンゴチャンネルにて放送
プロデューサー:カンパニー松尾/音楽:kechi/唄:豊田道倫「大人になれば」


大きく人生を狂わされた作品であることは確か。
けど、全てが必然だったと今は確信を持って言える。


現代映像研究会叢書vol.2 『松江哲明読本 裸々裸三昧』