『クライマーズ・ハイ』(☆☆☆★★)

 ユナイテッドシネマとしまえんで、原田眞人クライマーズ・ハイ』(☆☆☆★★)を観る。
 つい先ごろ、『魍魎の匣』で映画史に残る愚作を作り上げた原田眞人だけに、かつての才はもはや跡形もなく消えうせたかと思いつつ、『クライマーズ・ハイ』は『金融腐蝕列島・呪縛』『突入せよ! 「あさま山荘」事件』に続く東映集団劇だけに、僅かに期待が残った。それに、あさま山荘事件当時、原田眞人は日本に居なかったという、どうしようもない同時代性の欠如が作品にも露骨に表れていたが、日航機墜落事故当時のことはよく知っているようだし、そういう意味でも今回は期待して良いのではと思った(ちなみに、そこまで言いつつ『突入せよ! 「あさま山荘」事件』は、愛すべき失敗作と言いたいような魅力を放っていて、DVD化されると直ぐ購入し、以降年に一度は観ている)。
 その期待は予想以上に良い形で作品に結実したと言っていい。『クライマーズ・ハイ』は、『突入せよ! 「あさま山荘」事件』以上の出来、更に原田眞人フィルモグラフィーに沿って言えば、『バウンス koGALS』以来の佳作に仕上がっている。
 これは、原作と、脚本(加藤正人成島出)が既に高い完成度で存在し、そこに原田眞人によるアレンジ(余計ななものも入っているとは言え)が入ることで到達した、現在の日本の映画監督の中で、ひとつの出来事が発生した空間に居る多様な人間たちを同時多発に描き分ける技量を持った監督は彼以外に居ないということを証明するに十分な充実した画面が展開しているのには感嘆した。日航機行方不明という一報が入ってからの喧騒、興奮、恐怖、といったものが画面に渦巻き、それが過剰すぎずに昇華させられる監督というのは、原田眞人以外に思い浮かばない。
 ただ、山崎努の社主のエピソードまで入れ込むと中途半端になり、その上、現在からの登山シーン、そして原田眞人によって付け加えられたというあの全く不要としかいいようがない単に『栄光と狂気』みたいに海外ロケをしたかったという個人的願望をゴリ押ししたとしか思えないラストシーンといった残念な要素が入り込んでいるのが惜しく、プロデューサー側が上手く原田眞人の演出技術のみを運用できていれば、傑作になったのにと思う。
 それにしても、原田眞人は表の映画作家だ。『ラブ&ポップ』に対しての『バウンス koGALS』、『実録・連合赤軍』に対しての『突入せよ! 「あさま山荘」事件』、『御巣鷹山』に対しての本作と並べてみるだけで面白い。