『童貞。をプロデュース』(☆☆☆★★★)/『クローズZERO』(☆☆☆★★)/『ガメラ3 邪神覚醒』(☆☆☆★★)
新宿ジュンク堂で、 葛井欣士郎『遺言 アートシアター新宿文化』を購入。
- 作者: 葛井欣士郎,平沢剛
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2008/08/23
- メディア: 単行本
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書店の映画関係のコーナーに行けばわかることだが、映画監督のインタビューはかなり出ている。カメラマン、録音、美術も案外出ていたりする。しかし、脚本家とプロデューサーは少ない。荒井晴彦氏が『昭和の劇』を作るきっかけは、山根貞男氏が深作欣二監督のインタビュー本を作っていると聞いて、監督ばかりに目が向けられていると思ったからだ。
プロデューサーにプロデュース作全作のインタビューをやれば面白いに決まっている。金子正且や永田雅一について書かれたものでも無茶苦茶面白い。現役でも、例えば、角川春樹や奥山和由の全作インタビューを分厚い本にまとめれば後世からすれば貴重な財産になる。市川喜一が自伝のようなものを書いている途中で亡くなったと聞いて、間に合わなかったと残念に思った人は多い筈だ。
それだけに、アートシアター新宿文化創設者にして、ATG映画のプロデューサー・葛井欣士郎の聞き書き本が出たのは快挙と言うべき喜ばしい出来事で、今年83歳を迎える葛井の年齢を考えても、間に合ったという思いが強い。、ATGについては既に幾つも書籍が出ているし、関係した監督が詳細に各々書いていたりもする。しかし、ATGを体現する葛井欣士郎が全作を俯瞰して語る本が出たことで、今後ATGに言及する際は必要不可欠な重要な本になっていることだと思う。
予想通り、聞き手は平沢剛である。だから、という信用があるので、自分は中身を一切見ないまま直ぐにレジまで持っていった。面白いに決まっているから。
書店を出てから、さっと目を通した印象で言えば、ATG映画だけではなく、蠍座、演劇公演についてまで触れているので、あまりの膨大な作品数に上る為、一本一本は、そう詳細に触れられているわけではない。それでも重要な証言を多く含んでいるし、この一冊だけでATGを中心としたあの時代のアートシアター新宿文化を誌上再生させることに成功しているのではないかと思えた。遅れてきた世代である読者は勿論、聞き手の平沢剛もあの時代を知らないからこそ熱情を持って葛井欣士郎から聞き出した力作ではないだろうか。
これから丹念に読むのを楽しみにしている。
巻末に、<ATG封切作品リスト>がついているのは驚かないにしても、<アートシアター演劇公演リスト>に、地下の蠍座での<アンダーグラウンド演劇公演リスト><アンダーグラウンド蠍座上映作品リスト>までついていて、これによって完全にアートシアター新宿文化の建物で、あの時代に何が行われていたのかを把握することができるようになっている。
こうなると、絶版になっている葛井欣士郎著『消えた劇場 アートシアター新宿文化』も欲しくなる。
【参考動画】
上より、
■『日本映画の百年』/ATGへの言及箇所抜粋。大島渚監督作。
■『忍者武芸帳・予告篇』/短編『ユンポギの日記』の後、大島は本格的にATGとの提携を模索し始める。ユンポギ方式で作られた創造社の自主制作作品を『日本の夜と霧』との二本立て上映で成功させ、大島は、ATGを主とした映画制作に入っていく。
■『絞死刑・予告篇』/一千万円の製作費をATGと監督側で折半する方式による製作システムの第一回作品。予告篇監督は足立正生。
■『新宿泥棒日記・予告篇』/新宿を虚実入り乱れて描いた1968年の『ラブ&ポップ』。劇中、佐藤慶、渡辺文雄、松田政男、若松孝二らが登場する絨毯バーが、アートシアター新宿文化地下の蠍座とのこと。
池袋シネマ・ロサ「『童貞。をプロデュース』1周年記念オールナイト」へ行く。
雨も降っているし、流石に見たい人はみんな見ちゃってるだろうから、閑散としているに違いないと思っていたが、1時間前に念のためチケットを取ると、もう39番だった。外に立っていると、松江監督が来たのでその旨伝えると、安心していた。こんな日なので出足が鈍ると踏んでいたのだ。でも、雨の日に雨の中の決戦映画を観れるってのは良いですよね、と。去年やった『パンツの穴』も雨の中で、武田鉄也が…。
松江哲明『童貞。をプロデュース』(☆☆☆★★★)、劇場公開版を観るのは二度目。まだ飽きない。毎回物凄い満席の中で観ていたので、今回はゆっくり足を伸ばして観れて良かった。
やはり、1作目から2作目への連続性が損なわれずに移行できてしまうことに驚く。『セキ☆ララ』の1部と2部もそうだが、この連続性の秘訣と、一本の作品としての流れの心地よさは何だろう。追加カットの多い2部が色々と発見もあり、同時代性から少しズレ始めてから観ても腐食に耐えていることに感心する。何せ、冒頭の日付は、2005年12月なのだから、時間は流れる。
終映後、静かに秘蔵映像が流れ始める。その内容には笑う。『童貞。をプロデュース』の波及力が、こんな不可思議な光景を生み出したのかと。
続いて、三池祟史『クローズZERO』(☆☆☆★★)。劇場で観るのは二回目。DVDでも観ているが、やはり劇場で観るに相応しい。
成立しない筈のシチュエーションをアリだと思わせて引き込ませる三池祟史はやはり凄い。続編に期待しまくっているが。
最後は、金子修介『ガメラ3 邪神覚醒』(☆☆☆★★)。
観客の中で既に観ていたのは自分も含めて3人だけだとか。ある世代にとっては絶対に忘れ難い、語ると熱くなってしまう作品なのだが。公開時に二度観て以降は、ビデオ、LD、DVDで観てきただけなので、9年ぶりにフィルムで観たが、90年代後半が走馬灯のように蘇るというか、もう9年経ってしまったのかとか思いつつ、渋谷の壊滅シーンにはまたも興奮する。もう次のカットが何で、ガメラがどう動くかまで覚えているが、それでも高揚する。
90年代後半のガメラ近辺の何が面白かったといって、映画とAVが限りなく接近していたからだ。『ガメラ3』のメイキングは庵野秀明が撮って『GAMERA1999』という作品にまとめている。この頃の庵野はAV撮りたいとずっと言っていた。『由美香』の影響を受けて『ラブ&ポップ』を撮ったりしたものだから、AV的要素が多分に入り込み、メイキングにはカンパニー松尾とバクシーシ山下が担当していた。その流れは『ガメラ3』に『ラブ&ポップ』の出演者、三輪明日美、仲間由紀恵、手塚とおるが出演したり、山咲千里が綾波レイ状態だったり、ラストが春エヴァと同じだったりといった形でも流入しているが、『ラブ&ポップ』のメイキングで突如カンパニー松尾が同日出発する『流れ者図鑑』の平野勝之と松梨智子を出してきたりする唐突さと同じく、『GAMERA1999』の冒頭の居酒屋に何故か平野勝之と林由美香が居て、螢雪次朗とピンクで共演しているから、平成ガメラの1作目を弟を連れて観にいったと語ったりするといった、ここらを全部観ていないと世界観が繋がらないのだが、ガメラもAVも繋がってしまうことができた、後から考えても不思議な時期だったと思う。
そんな頃を思い出しながら観ていたが、映画としての総体的な完成度で言えば、平成ガメラはシリーズの順に落ちていく。技術的には上がっていっても、あまりにも質が高すぎた為に、本作のような地点に突入し、歪な作品になってしまった。しかし、歪であるがゆえの魅力にあふれていることは確かで、この9年を振り返っても、『ガメラ3』の再見率が群を抜いている。
最近はオールナイトにあまり足を運ばなくなっていたが、意外性のある3本立てで、ゆるゆると朝まで過ごすことができて楽しかった。