『片腕マシンガール』(☆☆☆★★★)

 新宿ディスクユニオンで、ジム・オルーク の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 オリジナル・サウンドトラック』購入。2400円。
 これで仕事中に『幽閉者』のサントラから『実録・連赤』へと連続で聴くことができる。
 『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』のDVDは来春発売の由。以前出演俳優のブログか何かで読んだレンタルしないという言葉を合せて考えても、また最近の付き合いからしても、DVDは紀伊國屋から出ると踏んで間違いない。ということは、高いということだ。

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)オリジナル・サウンドトラック

実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)オリジナル・サウンドトラック

1. Setting Out / 出際
2. Mad Shinjuku / 惑う新宿
3. Frozen / 凍土
4. Early Graduation / 早い卒業
5. Headlight Like The Sun / 太陽のような前照灯
6. All At Once Once For All / 同時に全てがなされ、終わった
7. Toyama / 遠山
8. Pictures Of Adolf Again / アドルフが再び現れる


※オール・カラー豪華ブックレット
・スチール写真 / 作品クレジット / 歌詞、日本語訳
ジム・オルークへの道程 「人生でいちばん 『バカ』 という言葉を聞いた日」 (書籍 「若松孝二 実録・連合赤軍」 より抜粋転載)

ジム・オルークによる最新マスタリング


 シネマロサで、井口昇片腕マシンガール』(☆☆☆★★★)を観る。
 素晴らしい秀作。
 レイトショーでやってるビデオ撮り作品だから(鑑賞眼を落として観てね)、と断る必要がないのが嬉しいなどと言えば井口監督に失礼だが、いつだって井口作品は映画の内容以外の枠組みなど無効にしてくれる質の高さがあったのだから、そんなものは今更当然かもしれないが、本作などは観る前に抱いていた印象からすれば、流石にどこかで息切れするに違いなく、その瞬間が訪れるのを観る前は恐れていたが、あきれたことに、とうとう一度も下降線を描くことなく最後まで突っ走ってしまった。その謎は、一度観ただけでは解明できない。もう一度、二度とこの作品を繰り返し観るしか手立てはない。
 こういった作品と旧作を並べて観ると、往々にして撮影所が機能していた時代のプロクラムピクチャーの方が圧倒的に強く、現在の方はその形骸化したものがかろうじてあるという話になることもあるが、その志を好意的に受け取ってあげる必要を負わされたりすることもあるのが観客としては負担になったり厄介に感じたりすることもあるが、井口昇にはそんなものは必要はなく、あたかも撮影所時代のプログラムピクチャーを手掛けていた職人監督のように、あるいはそれすらも超える熟練の技量で映画がどんどん立ち上がっていく瞬間が本編中に幾度もあったことに感動させられた。何せ普通ならこの規模のローバジェットの映画では、演出の技量もカット数も不足していることが多く、予算、撮影期間の制限、インディペンデントであるがゆえの後盾の無さが、無防備な画面を観客に晒すことがあるにもかかわわず、本作にはそういった背景はほとんど見えず、実に豊かな画面が全篇を覆っていることに茫然とさせられた。これで、数億円の予算を井口昇に与えたならば、どんな映画が産まれてしまうのだろうか。心あるプロデューサーは、現在の日本でもこれほどまでに律儀に質の高い商業映画を撮ることができる監督がいるのだから、直ぐにでも規模の大きな作品を任せてもらいたいと思う。
 撮影日数はそれほど多くはなかったに違いないが、きちんと可不足なくカットが足りていて、それでいて目くらまし的なコマ切れ編集でアクションを誤魔化したりしない。具体的に1カット1カットを見せた上でアクションを描くから、画面が実に豊かだ。だから、どんなに凄惨な描写も、どんなに血が吹き出し、人体が切り刻まれようとも、一度たりとも映画から下品さが漂う事がない。
 開巻から既に片腕で、マシンガンを装着して矢継ぎ早に中学生たちを撃ち殺していくのが良い。主人公が片腕になってマシンガンを装着するのはもう分かっているのだから、それが映画の中盤以降にまで引っ張られると、まだかまだかということになる。『プラネット・テラー』で不満だったのは片足マシンガールになるのが遅かったことで、早く見たい見たいと思いながら観ていた。その点本作は、開巻以降は時制は戻るとは言え、アヴァンタイトルでしっかりと片腕マシンガールを見せてくれるので実に映画的に正しい。又、モンスター・ペアレンツや木村組や、スーパー遺族といった過剰な連中の描写を、これ以上やるとやりすぎになるという直前ですっと引くのが良い。
 亜紗美なんて、クサクなっても良いような役どころだが、全くクサクならないばかりか、腕相撲で二人が友情を深めるという唐突さに笑いながらも、それを成立させるだけの演出があるので、全く違和感がない。
 女優陣が素晴らしく、亜紗美は正に助演女優賞ものだが、八代みなせの眼力も良かった。あの眼がこういった荒唐無稽さを遊離させずに成立させる。

 パンフレット購入。700円。