『岡山の娘』(☆☆☆★★)/『とむらい師たち』(☆☆☆★★)/『暗号名 黒猫を追え!』(☆☆★★★)

 中野ブロードウェイへ。「2階のあそこ」で、黒沢清』が三千円だったので購入。やっと手頃な価格になった。新作公開前に購入できて幸い。

叫 プレミアム・エディション [DVD]

叫 プレミアム・エディション [DVD]

 
 映画美学校第二試写室で、福間健二岡山の娘』(☆☆☆★★)を観る。

 『急にたどりついてしまう』も観ることができていないので、福間健二監督作を観るのは初めてとなる。期待しすぎないようにしようと思いつつ、福間健二という存在は自分の中では詩人としてよりも、『映画芸術』の時評や、ピンク映画、若松孝二足立正生について書いて語って教えてくれた人という印象が強い。そして『石井輝男映画魂』の作者として尊敬しているので、監督作品というのは、観たいような観たくないような気持ちがあった。一方で、観ることが出来ずに入手したパンフレットのみで想像していた『急にたどりついてしまう』の監督の新作ということもあり、やはり期待はしてしまう。

 本当は、『青春伝説序論』と『急にたどりついてしまう』という二本の監督作を観てから本作を観たかった。この二作は公開時にオールナイトでの上映が予定されているので、観返してから本作を再見したく思っている。だから、とりあえず初見の印象を、断片的に書く。

 瑞々しい映像に魅せられた。 
 『兵庫の息子』である自分にとって隣県の岡山は知らないわけではない。何度も行ったことがあるし、気候も近いので分かる。だから、この作品の中に涼風が吹きこんでいるのがとても心地よかった。実際は暑いのである。しかし、その土地を離れてみると、自分の記憶にある兵庫や岡山の夏の光景にはどこか涼風が流れ込んでいて心地良い。それは実際とは異なる理想化した風景なのかもしれないが、同じ匂いがこの作品からも感じられたのが嬉しく、画面に溶け込むような感覚になった。

 『岡山の娘』というタイトルには、どこかお伽草紙子的な響を感じる。岩井志麻子の『岡山女』ではないが、自分が岡山に特別の思い入れがあるのが横溝正史から来ているせいもあるのだが、何か怖い。


 そういえば劇中で360°全部山というような科白があるが、金田一ものでお馴染みの、四方を山に囲まれたという記述を想起させた。しかし、この作品には山に囲まれた圧迫感がないのが良い。

 横移動の多用で映し出される岡山の風景。そこは一見、単なる地方都市の景色に過ぎないが、何かざわめきを感じる。吉田喜重の『鏡の女たち』や、井土紀州の『ラザロ』と並ぶ現代日本の風景から不穏感を漂わせた稀有な映画だ。

 二十年間ヨーロッパに行っていた男が岡山に帰ってきて娘に会おうとする。その姿に自分は足立正生を重ねた。

 次々と引用される詩や、画面に向かって被写体が語るといった手法が、正にあの時代の形式の映画を思わせるかと思いきや、若手監督がそのまま引用すれば恥ずかしくて観ていられないようなものが、福間健二の手にかかると成立してしまうのは何故か。
 言葉がこれほど明瞭に画面から耳に届く作品は稀有ではないか。

 この作品は、映画詩ではなく詩映画と言うべきか。

 この作品の魅力を言葉にするのは、難しい。画面から既に豊かな言葉が溢れているので、更にそれを語る言葉を探すのが困難だから。その言葉を探すために公開の際にはもう一度観たいし、福間健二の過去の監督作品をより観たくなった。

 公開は、ポレポレ東中野で11月15日(土)より 21:00からのレイトショー上映。
 11月22日(土)には、23:30から<『岡山の娘』公開記念オールナイト>が行われる。
 上映作品は現在のところ下記の予定。残念ながら当初予定されていた若松孝二の傑作『ある通り魔の告白 現代性犯罪暗黒編』は、プリント状態が悪く『女学生ゲリラ』と差し替えられた模様。3年前のポレポレでの上映はかろうじて耐えていたが、残念だ。とはいえ、遂に伝説の『青春伝説序論』を観ることができるし、『急にたどりついてしまう』も観ることができる超レアオールナイトだけに、必見である。

『青春伝説序論』
監督・脚本/福間健二 1969

『女学生ゲリラ』
監督/足立正生 脚本/出口出足立正生) 1969

『悶絶本番 ぶちこむ !!』(原題『ライク・ア・ローリング・ストーン』)
監督/サトウトシキ 脚本/立花信次(福間健二)1995

『急にたどりついてしまう』
監督・脚本/福間健二 1995

 シネマヴェーラ渋谷妄執、異形の人々III」で、三隅研次とむらい師たち』(☆☆☆★★)と、井上梅次・岩清水昌宏暗号名 黒猫を追え!』(☆☆★★★)を観る。