『したがるかあさん 若い肌の火照り』(☆☆☆)

 新宿紀伊國屋、PDで何故か発売された市川崑の『若い人』のDVDを購入。900円。
 日本映画専門チャンネルで放送された版と画質比較してみよう。

若い人 [DVD]

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 新宿国際劇場で、堀禎一したがるかあさん 若い肌の火照り』(☆☆☆)を観る。 
 堀禎一監督は、昨年の『妄想少女オタク系』(07)で一般映画に進出した途端その演出技量が高く評価され、今年の『憐 Ren』(08)でも話題を呼んだ監督だが、ピンク映画は『SEX配達人 おんな届けます』[ビデオ題:弁当屋の人妻 もう一品、私はいかがですか?/WOWOW放送題:(秘)配達人 おんな届けます/アテネフランセ上映題:宙ぶらりん](03)でデビューして以降、『不倫団地 かなしいイロやねん』[草叢 KUSAMURA](05)、『色情団地妻 ダブル失神』[笑い虫/わ・れ・め](06)と順調に作を重ね、本作は再びピンクに復帰した作品となる。
 『SEX配達人 おんな届けます』の印象が今でも鮮烈で、それに比べれば『不倫団地 かなしいイロやねん』はやや落ちるという思いを抱いたものの、それでも佳作になりえていたが、自分が引っかかったのは『色情団地妻 ダブル失神』で、2回観たがやはり納得がいかない。丁寧な作風だった堀禎一にしては破れ目が激しいのではないか。阪本順治の『トカレフ』的な位置の作品か、などと思いながら最近、この作品が好きだという人に続けざまに会ったので、また観返すかなどと思っていたが、本作は阪本順治にあくまで例えるなら『トカレフ』の後の『BOXER JOE』は除くとしても、『ビリケン』みたいなもので、堀禎一の丁寧な演出が見事に作品を映えさせていて、やはり巧いものだと思わせた。
 一軒家を主舞台にして、若い未亡人と死んだ夫の息子との二人の関係を軸に、息子の彼女や夫の前妻も交えた物語は特に目を惹く要素もない。ごく普通のピンク映画だと思いながら観ていたが、それを成立させる演出が目立たないながら、きちんと男をどこに配し、女をどこに置くかを心得ているので観ていて心地良い。だからこそ、終盤近くの下元史朗と速水今日子が接続したまま、廊下に隠れるシーンの滑稽さが決まるのだ。あんなベタな展開でも、演出がしっかりしていれば、今でも十分通用するシーンになるのだと感嘆した。下元史朗が顔を隠して裏声で吉岡睦雄の物真似でその場をしのごうとするのには笑った。
 堀作品ではお馴染みの重要アイテム自転車が今回も活躍するが、吉岡睦雄と青木りん(!)が並んで自転車を押しながら話すのを正面からとらえたカットも素晴らしいし、若妻未亡人がかつて結婚を申し込まれたが、今は結婚している川瀬陽太に自転車のカゴを押さえられて、やっぱり一緒になってくれと懇願されるシーンも良い。その時、そう言われた主人公は、自転車を放置して走り去るのだ。本作では、あまり長い時間観ることが出来ないが、堀作品の自転車の走りは永遠に観ていたい。
 何故か『東京のバスガール』が全篇に渡って使用されているが、このチグハグな取り合わせもまた珍なり。