『ダンプねえちゃんとホルモン大王』(☆☆☆★★)

シネトレ・シネフェスタ2009
(12)『ダンプねえちゃんとホルモン大王』
☆☆☆★★ 阿佐ヶ谷ギャラリースペース煌翔
監督/藤原章  出演/宮川ひろみ デモ田中 坂元啓二 徳元直子 切通理作 高橋洋
2008年 日本 カラー 88分


 本来は、日参して他の作品もすべて観る算段だったが、かろうじて本作のみ観ることが出来た。
 『ヒミコさん』に続く藤原章監督の新作だけに期待はしていたが、ここまで幸福な映画体験を味わせてくれるとは。こんなに乱暴で破れ目だらけにも見えるのに、他のどの作品よりも正しく映画になっているのは何故だろうか。「映画」という枠組みの中心部を突き抜けているので、何が起ころうとも破綻しないし、過剰にもこれ見よがしにもならない。
 それにしてもこの幸福さをどう言えば良いのか。宮川ひろみが自己紹介する時の「ダンプねえちゃんです」という時の弾け方は、それだけで良いし、『ヒミコさん』のパンフレットに掲載されていた本作の高橋洋の異様なスチールが、一体、何がどう展開したらあの高橋洋がこんな顔をするんだろうと不穏な気分にさせ、いざ本編を観るや直ぐに納得できてしまうダンプねえちゃんの父を怪演し、篠崎誠も怪しげな中国語を喋る客として何気なく座っている。そして何より驚いたのは、顔見せ程度かと思っていた切通理作が重要な役を担い、後半は切通理作宮川ひろみで持っていってしまう。『愛のむきだし』で古屋兎丸が驚くくらい大きな役だったのと近い。切通の師匠と宮川の特訓シーンが素晴らしい。何度でも観たい。生理中でも激しい特訓をさせて体調不良を起こすところも良いし、山に捨てた息子が出て来るのも良い。
 終盤のダンプねえちゃんとホルモン大王の対決となると、幸福感は最高潮に達する。花くまゆうさくが唐突に登場して首がどうなろうと、演出がブレないから破綻しない。全部アリだ。そりゃこの映画なら当然首もああなるよと思ってしまう。
 『片腕マシンガール』の井口昇といい、『愛のむきだし』の園子温といい、『ダンプねえちゃんとホルモン大王』の藤原章にしても、70年代東映イズムの正統な継承が自主映画出身の彼らによってなされていることに驚く。本作に至っては、音楽担当はピラニア楽団。楽曲も如何にも70年代東映なのだが、それはまあ、曲は実に良いと思いつつも、そういう方面が好きな人がやってるだけだと思っていた。ところが、ピラニア楽団で主題歌を歌う室田晃の父が室田日出男と知り、映画史に即した血縁面での継承が成されていることにも驚嘆させられた。撮影所システムがかろうじて残る東映ですらもはや断絶した部分が、井口昇園子温、藤原章らによってプログラムピクチャーが正しく継承されていることに喜ぶ。それだけに劇場公開は未定だというが、このまま一部の好事家が観たというだけで終わらせるわけにはいかない「映画」だ。何とかならないものか。