『団地妻 昼下りの情事』(☆☆☆★)

 西村昭五郎の『団地妻 昼下りの情事』をDVDで観る。
 日活ロマンポルノ第一回作品として『色暦大奥秘話』と共に上映された作品として有名だが、リアルタイムでロマンポルノを体感していない世代にとって、後追いで成人館やミニシアター、ビデオ、DVDといった手段で順不同で観ていったところで、作品そのものは観たと言えるものの、映画史を横軸で眺めることができないもどかしさを感じることがある。この作品とこの作品が併映され、同じ月にこの作品も公開されたとか、同じ年にこの作品が並んだとか、その気になって調べれば分からないことではないが、所詮はデータ上の確認でしかなく、リアルタイムで体感していないゆえに、どうしても本質的な部分の感覚が理解できていないという思いを持ってしまう。
 本作が、日活ロマンポルノの記念碑的作品であるという事実は、後追いの世代にとっては情報でしかない。だから表面的に作品に触れるだけでは、古めかしいと切って捨ててしまうか、無暗に笑い飛ばしてしまうだけの扱いになってしまいがちだ。勿論、ポルノだから、笑って観るのは実に正しい接し方だと思うが、本作が揶揄の対象として扱われがちとか終盤で拍手喝采の爆笑に包まれるとか聞くと、別に真正面から観たって悪い作品じゃないのにと言いたくなる。
 団地に暮らす主婦・白川和子は、かつて恋仲だった桐村からの電話に呼び出されて密会するが、ホテルに入るところを近所の主婦に目撃されて写真を撮られる。写真をネタにその主婦が仲介する団地内の売春組織に加入させられ、次々と男と寝るが、夫の淡白なセックスに飽きていた白川にとっては、金も入ってくる売春業にいつしか溺れていく。一方、夫は業務成績が下がる一方で、最後の逆転として契約をまとめる為に、売春婦を契約相手の外国人にあてがう。夫が金を渡す為にホテルの部屋を訪れた時、そこに白川の姿を見る。
 以降、物語は物凄い勢いで転落していくのだが、団地妻という言葉から想像することの大半はやっているので、現在からすれば、目新しくもない陳腐な物語だという批判は分からないでもない。むしろ同じ団地でもそれ以前に撮られた若松孝二のピンク映画『壁の中の秘事』のような密室性と政治性が絡んだ方が現在でも興味を持って見ることができるかもしれない。本作は団地と言ってもそこに密室性や、団地を世界の中心に捉えるようなことはなく、あくまでも生活の舞台として捉えている程度で、団地映画として物足りないと言えなくもない。
 しかし、前述したような、本作が日活ロマンポルノ第一回作品という事実を知らなかったとしても、異様な迫力だけは感じることができる。どうということのない物語に後半の破天荒な転落ぶりに加え、終盤のとんでもない展開を笑うこともできるが、演出も、白川和子も妙に熱気に溢れていて、リアルタイムで観ていれば、そりゃ最初だものという一言で片付くのだろうが、情報でしかそれを知らずに観るのでは、理屈では分かるにしてもこの熱気に圧倒される。
 手探りゆえの異物感とでも言おうか、ポルノを撮ることに手慣れていないゆえの各パートの緊張感が画面を形作り、何でもないような描写にすらも熱に浮かされたような雰囲気を感じる。ロマンポルノ出演以前にピンク映画で200本以上に出演したとまで噂された白川和子ですら、ここでは瑞々しくありながら大胆さを併せ持ったエロスの発散に、現在から見ても魅了されてしまうのだから不思議なものだ。

団地妻 昼下りの情事 [DVD]

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