『007 慰めの報酬』(☆☆☆★)

(59)『007 慰めの報酬』[QUANTUM OF SOLACE]
☆☆☆★ 銀座シネパトス
監督/マーク・フォースター  脚本/ニール・パーヴィス ロバート・ウェイド ポール・ハギス  出演/ダニエル・クレイグ オルガ・キュリレンコ マチュー・アマルリック ジュディ・デンチ
2008年 イギリス/アメリカ カラー 106分

 シリーズ中断と映画を観るようになった時期が重なったせいで、劇場で007を観るには『007 ゴールデン・アイ』まで待たなければならなかった。しかし、そのお陰で中高生の頃にシリーズを1作目から順に観てから満を持して『ゴールデン・アイ』を観ることが出来たのは良かったとも思う。熱心なファンではないが、一応それ以降は毎回観に行って一夕のエンターテインメントとして楽しんでいたので、今回も近所のシネコンで早々に観ようとしている内に終わってしまい、慌ててシネパトスまで追いかけて行った。ちょうど映画の日で千円ということもあり、滝田洋二郎の特集もそのまま続けて観ることができて幸いだった。
 前作『007 カジノ・ロワイヤル』の直後からスタートする続編的色彩の濃厚な作品とのことだったので、DVDで再見した上で観たが、確かに前作のラスト間もなくから始まり、前作で死んだヴェスパーへの思いを引きずり(そりゃついさっき死んだんだから仕方ないが)、マティスやCIAのレイターといった人物との前作での関係性も反映したエピソードも随分と盛り込まれているので、前作を観ていなければ果たしてどの程度楽しめるものなのかと、本シリーズでは異色の続編形体に驚きつつ観ていた。
 007は2時間以内が面白い。という思いは、ピアーズ・ブロスナン時代で最も面白かったのが2時間を割っている『トゥモロー・ネバー・ダイ』だったからというのが理由だが、実際初期作を顧みても、2時間以内で収まっている作品の方が面白い。だから面白くはあったが、『カジノ・ロワイヤル』の144分なんて明らかに長過ぎると思えたが、そういう意味で言えば本作の106分という尺は確か『ドクター・ノオ』と同じぐらいか最も短いぐらいの筈で、近年の長尺ボンドにウンザリしていた身としては、かなり期待して良いのではないかと思っていた。しかし、実際に接してみると、完成度が安定しているシリーズの中では意外なまでに不出来であることに首を傾げた。開巻から激しいカーアクションが展開し、続いてMI-6内部に入り込んでいたスパイをボンドが追って街中での追っかけが目まぐるしく展開し、それを肉体派のダニエル・クレイグが相変わらず好演しているものの、編集が随分と小刻みで、アクションをじっくりと味わえない。編集のテンポが速いから尺が短くなったのか、脚本はもう少し長い尺を想定していたのに尺を短くする為にこんな編集になったのか、兎に角落ち着かないことこの上なく、007でこんな近年のアクション映画の如きせわしない編集にしなくても良いのにと思いつつ観ていたが、これがアクションとは無縁だったマーク・フォースターの監督起用並びに、彼とコンビを組んでいた編集マンのマット・チェシーが参加している影響かどうか。
 オルガ・キュリレンコが無茶苦茶可愛いとか、ダニエル・クレイグのマックイーンみたいな顔つきが現在のアクション映画に無い顔なのでやはり肩入れしたくなるとか、諸々楽しめるのだが、やはり肝心の敵を創り出す為の大義名分が諸々必要になってくるのが時代の趨勢とは言え面倒な話で、相変わらず怪しい目つきのマチュー・アマルリックの怪演を持ってすればもっと破天荒な大物に設定しても成立したのではないかと思えた。
 終盤の対決も盛り上がらず、『カジノ・ロワイヤル』より遥かに劣る出来になったのは残念だった。