『映画芸術 427 2009 SPRING』

映画芸術 2009年 05月号 [雑誌]

映画芸術 2009年 05月号 [雑誌]

 4月30日(木)発売の『映画芸術』最新号で、「シリーズ ジャンルから見る私の映画史VOL.1 恋愛映画 外国映画篇」という新企画に参加して恋愛映画を10本挙げて選評を書いています。


 編集部からアンケート依頼が来た時は、「あなたは『おくりびと』ワースト1をどう思いますか?」だとばかり思い込んでいたので、何故映芸が女性誌の如き恋愛映画の、しかも外国映画についてアンケートを取り、各自10本ずつ選んで選考理由も書くなんてことをするのかと正直なところ思いました。前号発売直後から話題となった『おくりびと』ワースト問題を派手に蒸し返した方が、雑誌としては売れるだろうと思うわけですが、そんな一時の話題に拘るよりも平然とした顔でこんな企画をやってのける方が映芸らしいとも思います。1995年冬号でやった「特集・ウエルメイド映画」を彷彿とさせるところもあります。
 とは言え、やはり何故今更恋愛映画を、と思いつつ届いた雑誌を眺めてみれば、参加した方々の名前にまず驚きました。末端で参加させていただいた自分は人数調整的なものでしょうから良いのですが、自民党加藤紘一氏とか意外な名が…。更に到着順に掲載されているせいで、私と同じページには駐イタリア大使と衆議院議員の方が並んでおり、そこにモルモット吉田と書いてある異物感が凄いので、是非書店でお確かめください。内容は兎も角、視覚的には一瞬笑えますので。しかも、こんな固い方と並ぶとは予想していなかったので、童貞時代の悶々とした日々についてダラダラ書いてしまっただけに異物感は更に広がっていますが。そういう意味では、今号には『We 命尽きるまで』特集の鼎談で塩見孝也氏と足立正生監督も登場しているので、誌面には自民、民主、赤軍議長、日本赤軍が同居するという、わけのわからなさがより増長されているので、そこらもご確認ください。
 ところでこの恋愛映画ですが、編集部から送られてきた依頼状にはジャンル表が添付されていて実に40種類に映画のジャンルが細かく分類されており、その中から恋愛映画に属する作品を選出せよとのことで、これには困りました。『キングコング』とか、諸々変化球を投げて恋愛映画ではなく、ただのオールタイムベストテン的な内容にしてしまって誤魔化そうと画策していただけに、こんな縛りをつけられてしまうと何を挙げて良いのやらと随分と考え込みました。実際の誌面を読むと、その縛りこそが狙いだったようです。つまり、皆、真正面から恋愛映画を挙げることに照れたり、困惑したりしながら恥を忍んで各作品を挙げているので、逆に非常に新鮮で、誰が何を挙げているかを意外性を持って読むことが出来ました。敢えて現在ジャンルに拘ることで、何ら物珍しくもないアンケートが読み応えのあるもになっていて、この反時代的試みを行った意味が出ていると思うのでご一読を。

 その他、『噂の真相』みたいな<匿名座談会「映画ジャーナリズムの現在」>や、青山真治稲川方人荒井晴彦による豪華なDVD REVEWも『北国の帝王』などが取り上げられていることもあり、読み応えがあるものになっています。
 そして「中原昌也×千浦僚 映画なんて観てる場合じゃねぇんだよ! 第4回」は、今や中原さんの新作映画評を読むことができる唯一の媒体になってしまっただけに、イーストウッドの2本を中心に語られていて非常に面白いです。『SPA!』降板の真相、単行本はどうなるかも具体的に語られているので気になっていた方はぜひ。更に対談の収録がオン・サンデーズでのペインティング|ペンディング展の最中ということもあり、偶然来ていた篠崎誠監督が参加している豪華なものになっています。

 編集後記では荒井さんが柳下さんのブログでの批判に反論というか、反応を見せているので、そちらも注目を。個人的には荒井さんも柳下さんも尊敬しているので良い気持ちはしないし、かと言って荒井さんが柳下さんの『ドラゴン・キングダム』評を例に批判しているのを読んでも、荒井さんは“映画ファン”ではなかっただろうしなと思ってしまう。柳下さんは『映画秘宝』最新号の「日本映画縛り首」で『釣りキチ三平』の中で『おくりびと』のオスカー受賞に触れて「ワースト1に選んだ『映画芸術』にも注目が集まって良かった(笑)」と言っているが、実際、前号は在庫が無くなるほど売れたと言うし、本心であれ、皮肉であれ、『映画芸術』にも注目が集まって良かったと、みんな(笑)も込みで思ってるヒトは多いんじゃないかと思う。松田優作の追悼号で売り切れるのも、オスカー効果で売り切れるのも、自分などは映芸が売れさえすればそれで良いと思っているので、正にそう思っている。それに、売れた次の号は今号を読めば分かるが活性化していることだし。そういえば、活性化ついでに「映画芸術評論賞」の公募まで始まっている。スポンサーからの申し出だそうだが、賞金が30万円だそうなので、これだけwebでも映画の感想を書く人が多いのだから、興味のある人は送ったら良いと思う。詳細は本誌参照。審査員には荒井さんや寺脇さんが入っているので、一筋縄ではいくまいと予想しているが、それでもこのご時世に賞金付きの映画評論の募集なんて面白いなあと思う。
 というところで、『映画芸術 427 2009 SPRING』は前号に続いて、買ってから賛同したり、批判したりしてゴチャゴチャ言えば良いと思う。それが映画雑誌の面白さだから。

映画芸術 427 2009 SPRING』


「シリーズ ジャンルから見る私の映画史VOL.1 恋愛映画 外国映画篇」
大林宣彦映画作家) 桂千穂(脚本家) 
加藤紘一自民党元幹事長) 新藤兼人(映画監督・脚本家) 
中村征夫(TVプロデューサー・ディレクター) 安藤尋(映画監督)
榎戸耕史(映画監督) 溝口直(医師) 上島春彦(批評家) 
福間健二(詩人・映画監督・文化研究者) 河村雄太郎(会社員) 
渡辺武信(建築家・映画評論家) 川口敦子(映画評論家) 
佐藤千穂(映画批評家) 大野直竹(大和ハウス工業 副社長) 
大口和久(批評家・映画作家) 木全公彦(映画評論家) 
かわなかのぶひろ(映像作家) わたなべりんたろう(ライター) 
千浦僚(映画感想家) 荻野洋一(映像演出・映画評論) 
佐藤昌弘(京浜急行電鉄 専務取締役) 万田邦敏(映画監督) 
山口剛(プロデューサー) 安藤裕康(駐イタリア大使) 
玄葉光一郎衆議院議員) モルモット吉田(ライター) 
浦崎浩實(激評家) 上野昂志(映画評論家) 
野村正昭(映画評論家) 渚ようこ(歌手) 松井宏(映画批評) 
稲川方人(詩人・本誌編集部) 荒井晴彦(脚本家・本誌編集長)
※掲載順


ウルトラミラクルラブストーリー
対談:横浜聡子(監督)+安川奈緒(詩人)
論考:村松真理(作家) 安川奈緒



ガマの油
対談:役所広司(監督・俳優)+柄本明(俳優) 
論考:井川耕一郎(脚本家)


美代子阿佐ヶ谷気分
鼎談:林静一日本画家)+ねじめ正一(詩人・作家)+坪田義史(監督)+福田真作(脚本家)+荒井晴彦


『キセキ――gozoCiné』
インタビュー:吉増剛造(監督・詩人) 
論考:山嵜高裕(詩人)


『We 命尽きるまで』
鼎談 藤山顕一郎(監督)×塩見孝也(活動家)×足立正生(映画監督)
 

匿名座談会「映画ジャーナリズムの現在」
A氏(配給・宣伝)+B氏(配給・宣伝)+C氏(配給・宣伝)+D氏(元宣伝)+E氏(新聞記者)+F氏(ライター)+G氏(映画評論家)+H氏(映画雑誌編集者)


Film Critique
グラン・トリノ稲川方人
レイチェルの結婚濱口竜介(映画監督)
バーン・アフター・リーディング向井康介(脚本家)
『ニセ札』沖島勲(映画監督)
『浪漫者たち』尾原和久(編集者)
劔岳 点の記』山川龍也(映画カメラマン)
四川のうた』渡辺考(テレビディレクター)
『チェイサー』若木康輔(ライター・放送作家


特別論考
北小路隆志(映画評論家) 「死の文化」、その諸相を批判する 『おくりびと』再論
河村雄太郎 君はナチを見たか 極私的リストアップの試み


BOOK REVIEW
巣鴨撮影所物語―天活・国活・河合・大都を駆け抜けた映画人たち」田中眞澄(映画・文化史家)
「放送禁止映像大全」しまだゆきやす(イメージリングス代表・映像作家)
「映画の考古学」金子遊(映画批評家) 
武田泰淳の映画バラエティ・ブック タデ食う虫と作家の眼」
菊池寛の文芸・演劇・映画エッセイ集 昭和モダニズムを牽引した男」宮田仁(編集者) 
「異貌の成瀬巳喜男 映画における生態心理学の創発深田晃司(映画監督)
「山田広野の活弁半生劇場」上野昂志(映画評論家)
「占領下の映画―解放と検閲―」西田毅(同志社大学名誉教授・政治思想史)
「越境者 松田優作谷岡雅樹(ノンフィクション作家)


新連載 
青山真治稲川方人荒井晴彦「DVD NEW RELEASE」
長谷川元吉「映像カメラマン解体新書」
わたなべりんたろう「日本未公開傑作ドラマ紹介」
「OUT OF SCREEN 01」 元木崇(秋田シアタープレイタウン支配人)


連載
荒井晴彦×寺脇研 日米★映画合戦 第4回
中原昌也×千浦僚 映画なんて観てる場合じゃねぇんだよ! 第4回
やまがまあさ 雲呼荘の思い出 第2回
大木雄高 「LADY JANE」又は下北沢周辺から 第2回
宮台真司の超映画考 第4回
石井裕也 愛という名の黙契 第4回
熊谷対世志 現代韓国演劇を紹介する 第2回

   
投稿
豊住伸治「韓国映画はどこへ行くのか」

http://eigageijutsu.com/