映画監督・西原儀一死去

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 今年の4月から5月にかけてラピュタ阿佐ヶ谷で「60年代まぼろしの官能女優たち」という特集上映が組まれた。文字通り60年代の官能女優たちの作品を集めた特集で、初期のピンク映画を上映するという果敢な試みだった。60年代のピンク映画はほとんど残っておらず、わずかに残った作品の中でも観る機会の多い若松孝二渡辺護らの作品を数本観ただけでは当時のピンク映画の状況を理解するのは難しい。それだけに上映される作品の大半が未知の作品というこの特集は、ピンク映画最盛期には全く別の日本映画史が存在していたことを垣間見せてくれた画期的なものだった。
 特集の中で最も多くの作品が上映され、ひと際異彩を放っていた監督が西原儀一だった。この監督については『やくざ監督、東京進出』というインタビュー本が2002年に出版されており、出版を記念して当時BOX東中野で『桃色電話<ぴんくでんわ>』『引裂れた処女』『情事に賭けろ』『肉体の誘惑』『狙う』『美しき悪女』『チコという女 可愛い肌』が上映されているが、自分はまだ都内に在住しておらず観ることが叶わなかった。「60年代まぼろしの官能女優たち」では『桃色電話』『引裂れた処女』『狙う』が上映されたのでようやく映画監督・西原儀一に触れることができた。

 個人的には『狙う』『桃色電話』には首を傾げ、この監督は存在としては面白いが監督の力量としてはどうなのかと思っている中で『引裂れた処女』を観てその秀作ぶりに驚かされた。こうなると追わねばならない。しかし、上映される機会など今後そうそう無いだろうと諦めていたところに、神戸映画資料館で西原儀一の特集が2回に渡って行われるという朗報が入った。「60年代まぼろしの官能女優たち」を企画し、現在ラピュタ阿佐ヶ谷のレイトショーで話題になっている「THE 恐怖女子高校」の企画をされたルポライター鈴木義昭氏の発案で行われるらしく、そのラインナップは濃密だ。9月11日(金)〜13日(日)の「60年代・独立プロ伝説 西原儀一と香取環 前編」では『情事に賭けろ』『チコという女 可愛い肌』『あまい唇』『美しき悪女』が上映され、10月2日(金)〜4日(日)の「60年代・独立プロ伝説 西原儀一と香取環 後編」では『狙う』『肉体の誘惑』『桃色電話』『引裂れた処女』が上映される。
 自分もこの上映を観に行く予定だが、正直言って、これが関西以外の地方で上映されるなら、わざわざ足を運んだかどうか分からない。2002年にBOX東中野で西原儀一の特集が上映されていた頃、自分は神戸の映像制作会社で働きながら羨望の思いを抱いていた。せめて大阪のPLANET+1にでもやって来ないものかと思っていたが結局関西で上映されることはなかった。それが今になって神戸で上映される。あの時神戸に来てくれればとは思うが、当時はまだ神戸映画資料館も無かった。しかし、こうなっては東京で手をこまねいているわけにはいかない。意地でも神戸に行くと盆の帰省を一か月ズラし、帰省“ついでに”西原儀一の映画が偶々上映されていたので観るという形にして上映に参加する予定である。


 ここまでは個人的な楽しみとしての話だが、先ほど場所やスケジュールを確認する為、神戸映画資料館のHPを見ると、鈴木義昭氏が書かれた一文に衝撃を受けた。何と8月16日(日)夕方に、西原儀一監督が亡くなったという。→http://kobe-eiga.net/event/

 全くの初耳だったのでひどく驚いた。ネットで見る限り他に情報は出ていないようで、鈴木氏の追悼文は9月2日に記されたものだ。文中に<まだ、ほとんど誰にも知らせていないから、誰もほとんど西原さんの「死」を知らない。「騒ぐな、鈴木!」と監督が言っている気がして、誰にも連絡する気が起きない。>とある。
 昨年から集中治療室に入っているとは確かラピュタ阿佐ヶ谷の上映時に鈴木氏が言っていたので関係者は覚悟の上だろうが、しかしリアルタイムやBOX東中野等での上映でこれまで観てきた人たちはいざ知らず、自分たちのような、今、ようやく初めて西原儀一監督作と出会えた観客にとってはこれは辛い報せだ。これから未知の西原儀一の手による作品を観て行こうとした瞬間に監督は亡くなってしまった。まだ3本しか監督作を観ていない自分には追悼の資格はない。今週末の『情事に賭けろ』『チコという女 可愛い肌』『あまい唇』『美しき悪女』の上映は追悼上映ではない。西原儀一を発見し、知る為の上映だ。近畿圏の方はぜひ神戸映画資料館に足を運んでいただきたい。リアルタイムで作品に接していた方から自分と同じ初見の人まで幅広い客層によって席が埋まることを願う。

9月11日(金)
13:00 「情事に賭けろ」
14:20 「チコという女・可愛い肌」
15:40 「あまい唇」
17:20 「美しき悪女」


9月12日(土)
13:00 「情事に賭けろ」
14:20 「チコという女・可愛い肌」
15:40 「あまい唇」
17:20  トーク「独立プロと西原儀一’60年代の夢」ゲスト:鈴木義昭
18:30 「美しき悪女」


9月13日(日)
13:00 「情事に賭けろ」
14:20 「チコという女・可愛い肌」
15:40 「あまい唇」
17:20 「美しき悪女」


http://kobe-eiga.net/schedule/2009/09/


 ちなみに10月の「60年代・独立プロ伝説 西原儀一と香取環 後編」では、別プログラムではあるのだが、偶然というか連続で『あんにょん由美香』が上映される。香取環×林由美香が連続で上映されるというピンク映画史の交錯を目撃できるのは神戸映画資料館だけだろう。
 ピンク映画史の交錯といえば、ラピュタ阿佐ヶ谷に香取環さんが来られた時、懇親会の後、香取さんらが店を出てからしばらくすると、偶然前の道を瀬々敬久監督が通りかかり、もう少しで香取環と瀬々敬久が並ぶというピンク映画史のパースペクティヴが狂いそうになった事故みたいな瞬間があったが。
 なお『あんにょん由美香』は10月2日(金)〜6日(火)18:45〜で上映される。

10月2日(金)
13:00 「狙う」
14:10 「肉体の誘惑」
15:30 「桃色電話 (ピンクでんわ)」
17:00 「引裂れた処女」
18:45  レイトショー「あんにょん由美香


10月3日(土)
12:00 「狙う」
13:10 「肉体の誘惑」
14:30 「桃色電話 (ピンクでんわ)」
16:00  トーク「独立プロと西原儀一’60年代の夢」ゲスト:鈴木義昭
17:15 「引裂れた処女」
18:45  レイトショー「あんにょん由美香


10月4日(日)
13:00 「狙う」
14:10 「肉体の誘惑」
15:30 「桃色電話 (ピンクでんわ)」
17:00 「引裂れた処女」
18:45  レイトショー「あんにょん由美香

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