『東宝特撮総進撃 (別冊映画秘宝)』『映画芸術 2009年AUTUMN NO.429』

東宝特撮総進撃 (別冊映画秘宝) (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

東宝特撮総進撃 (別冊映画秘宝) (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)

映画芸術 2009年 11月号 [雑誌]

映画芸術 2009年 11月号 [雑誌]

 このところ、告知ぐらいしか更新してなくて気不味い感じですが、東京国際映画祭でキム・ギヨンの『玄海灘は知っている』に衝撃を受けたり、市川崑監督の『幸福』を劇場で3回観たり、関本郁夫の『札幌・横浜・名古屋・雄琴・博多 トルコ渡り鳥』を遂に観ることができて、芹明香が『(秘)色情めす市場』以上に魅力的に撮られていることに泣きそうになったりしていますが、また追って書ければと思っています。このブログも夏以降の映画などが溜まっていて、いただいたDVDや本の紹介が遅れて不義理を重ねていますが、何とか近日一気に更新しようかと。

 なお、webDICEには日常日記を書いてます。
http://www.webdice.jp/user/793
 それから最近は専らtwitterです。たいしたことは書いてませんが、良ければフォローしていただければ。
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 で、告知ですが、発売中の『東宝特撮総進撃 (別冊映画秘宝) 』に『竹取物語』について書かせていただいています。普通なら『竹取物語』について書けと言われたらババ引いたみたいな感じになるんでしょうが、市川崑監督作なので嬉しかったです。ついでに『火の鳥』も書きたいと思いましたが、あの作品は東宝に権利が無いので今回の本では取り上げていないようです。
 私は兎も角、他の方が書かれている部分が大変素晴らしく、みうらじゅん、土屋嘉男、アレックス・コックス黒沢清切通理作、篠崎誠、手塚昌明金子修介柳下毅一郎高橋ヨシキといった方たちに加えて多数の方たちが書かれているので、どの作品を誰が書いているのかを予想しながら読むのも一興です。ビデオ時代以前はこういった本を眺めては多くのまだ観ぬ作品に思いをはせていましたが、一通り観れる時代になってしまうと、あまり手にしなくなっていただけに、非常に新鮮で面白かったです。実際、最近こういう本が無かったせいもあるのでしょうが、えらく売れてるようで増刷が直ぐ決まったそうなので、ぜひ手にとっていただければ。しかし、表紙から開いていく感触が懐かしの『宇宙船』っぽくて良いです。



 それから昨日発売になった『映画芸術 2009年AUTUMN NO.429』で〈シリーズ ジャンルから見る私の映画史VOL.III 青春映画 外国映画篇〉に参加させていただいています。青春映画を10本挙げてコメントを書いています。


 以下今号の雑感。敬称略。
 今号は『ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ』が巻頭特集ということで、太宰嫌いで知られる荒井晴彦が、師匠(田中陽造)と盟友(根岸吉太郎)が組んだこの作品にどういう見方をしているのかが窺えて面白い。
 不可思議な雰囲気が出ているのが毎回楽しみにしている『中原昌也×千浦僚「映画なんて観てる場合じゃねぇんだよ!」』で、元女優の白石ひとみと言った方が良いのか、あの存在自体が謎の映画監督・秋原正俊の作品でシナリオを書く脚本家・落合雪恵としての方が今は有名かも知れないが、その人がゲスト。 最近は『富嶽百景〜遙かなる場所〜』『斜陽』などの脚本を秋原監督の作品で書いているということもあって、今回の特集に合わせて太宰を語っているわけだが……。これは今回の特集に対する雑誌内部に仕掛けられた爆破装置なのかとか、映画監督・秋原正俊の謎を追求する企画だったのが駄目になったんだろうかとか、落合雪恵はノイズアーティストでもあるのでその関係があるんだろうかとか、色々思い悩みながら読んだが、どうも特に他意はないような気もする……。
 〈追悼 長谷部安春〉は、磯田勉が国会図書館に通いつめて詳細に調べ上げたという、既成のものをより完璧に近付けたテレビドラマのフィルモグラフィーが壮観で後世の資料として重宝されるだろう。その他『追悼芸術』の異名を持つ映芸だけに読み応えのある追悼特集になっているが、同じく追悼〈平岡正明、残像〉は、かつての盟友で、後に訣別した松田政男の厳しい追悼文が素晴らしい。
 批評は『行旅死亡人』の評を瀬々敬久監督が、映画監督・井土紀州について書くという映芸らしい組み合わせが面白かった。映画監督・井土紀州を考える上でこれまで発表された中で最も刺激的な評になっているのではないか。
 新連載・神波史男「流れモノ列伝 ぼうふら脚本家の映画私記」は、神波先生が松梨智子と旅をするわけではなく、これまで先生が書かれた未映画化脚本の追想記とのことで、こういう幻の映画方面が好きな者としては面白くて仕方ない。早速、深作欣二のデビュー作で知られる『風来坊探偵』二部作に更に2本の続編が予定されていたという話が出てきた。
 それから映芸のファビュラス・バーカー・ボーイズと呼ぶ人もいる(俺が言ってるだけだが)という『荒井晴彦×寺脇研「日米★映画合戦」』は『母なる証明』『サブウェイ123 激突』『イングロリアル・バスターズ』『脳内ニューヨーク』など。「タランティーノって人の映画も初めて見たけどさ」という寺脇研にしか許されない衝撃の発言もあり。しかし、そこはアメリカ娯楽映画好きを公言する荒井晴彦がうまく受けて返すので成立してしまう。また『母なる証明』を断固擁護する寺脇と語り口の整合性の拙さを具体的に指摘する荒井とのやりとりも観た後に読むと非常に刺激的な対談になっている。それから意外だったのは「これはすごいよ。よく分からないけど面白い」と荒井が語りだす『脳内ニューヨーク』。詳しくは本誌参照。
 今号は、荒井晴彦体制になって20年を迎える映芸を『座談会「映画芸術の未来展望」』として、現行の映芸を支える寺脇研×稲川方人×荒井晴彦の三氏他で語っているが、前からこのお三方は映画に対する考えも見方もまったく違っているに違いない筈なのに行き違いはないのかと思っていたが、これを読むと何故うまく行っているのかがうかがえて、現行映芸の良い意味の歪さが垣間見れる対談ではないかと思う。
 個人的にも、中学生の時の93年夏号から定期購読を始めた映芸だが、遡って荒井晴彦編集長になってからのバックナンバーを全て揃えて何度も読み返すことで映画の見方を広げることができただけに20周年は感慨深く、笠原和夫の『骨法十箇条』以外にも読み応えのある評、インタビュー、対談がたくさんあったので映芸別冊の形式では苦しいかもしれないから、どこかの出版社が単行本で『ベスト・オブ・映画芸術 1989〜2009』を出してくれまいかと思う。

映画芸術 2009年AUTUMN NO.429

〈特集:ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ
インタビュー:根岸吉太郎(映画監督) 聞き手=斎藤久志(映画監督) 荒井晴彦(脚本家)
インタビュー:種田陽平美術監督)  聞き手=稲川方人(詩人)
論考:稲川方人 石飛徳樹(朝日新聞記者)

   
〈追悼 長谷部安春
「偲ぶ会」追悼スピーチ
宍戸 錠(俳優) 橋本文雄(録音技師) 川地民夫(俳優) 
白鳥あかね(脚本家・スクリプター) 水谷 豊(俳優) 柴田恭兵(俳優) 
仲村トオル(俳優) 寺脇康文(俳優) 黒須孝治(作家) 
座談会「べーさんの体には映画が染みついていた」
黒澤 満(プロデューサー) 伊地智啓(プロデューサー) 
伊藤亮爾(プロデューサー) 藏原惟二(映画監督) 
丸山昇一(脚本家) 一倉治雄(映画監督) 荒井晴彦
論考
柏原寛司(映画監督・脚本家) 前田耕作(大学院生) 
評唱
山口 剛(プロデューサー) 中西隆三(脚本家) 
山田敏久(助監督) ハセベバクシンオー(小説家・脚本家)
フィルモグラフィー:映画 Vシネマ テレビ 脚本


〈シリーズ ジャンルから見る私の映画史VOL.III 青春映画 外国映画篇〉
大口和久(批評家・映画作家) 桂 千穂(脚本家・評論家) 木全公彦(映画評論家) 
佐藤千穂(元映画芸術編集部員・映画批評家) 大林宣彦映画作家) 
山田太一(脚本家) 福間健二(詩人・映画監督・文化研究者) 藤森益弘(作家) 
荻野洋一(映像演出・映画評論) 大楠泰治(クレディ・スイス証券 投資銀行本部長) 
中村征夫(テレビプロデューサー) 安藤 尋(映画監督) 上島春彦(映画評論家) 
榎戸耕史(映画監督) 溝口 直(医師) 山口剛 向井康介(脚本家) 川瀬陽太(俳優) 
野村正昭(映画評論家) 安藤裕康(在イタリア日本大使) 大森一樹(映画監督)
わたなべりんたろう(ライター) 長谷川法世・悦子(漫画家/「博多だらけ」発行人) 
河村雄太郎(会社員) 川口敦子(映画評論家) 佐藤昌弘(京浜急行電鉄 専務取締役) 
大野直竹(大和ハウス工業 副社長) 菅原和博(函館シネマアイリス代表) 
緒方 明(映画監督) 富岡邦彦(PLANET+1代表) 浦崎浩實(激評家) 
モルモット吉田(ライター) 小谷承靖(映画監督) 千浦 僚(映画感想家) 
黒岩幹子(編集・執筆業) 磯田勉(フリーライター) 稲川方人 荒井晴彦


平岡正明、残像〉
評唱:松田政男(映画評論家) 稲川方人 赤地偉史(ジャズ狂同韃靼派)


映画芸術の20年〉
荒井晴彦への手紙」佐藤千穂
座談会「映画芸術の未来展望」:
赤地偉史(本誌読者) 寺脇 研(映画評論家) 稲川方人 荒井晴彦


〈Film Critique〉
行旅死亡人瀬々敬久(映画監督)
『ドキュメンタリー頭脳警察花咲政之輔(ミュージシャン) 
カティンの森』 桐山真二郎(テレビディレクター) 
『アバンチュールはパリで』向井康介(脚本家) 
蘇りの血』 大森立嗣(映画監督)
『黄金花』山本起也(映画監督) 


〈新連載〉
神波史男「流れモノ列伝 ぼうふら脚本家の映画私記」


〈特別論考〉
報知映画賞選考委員リストラ顛末記」野村正昭(映画評論家)


〈連載〉
中原昌也×千浦 僚「映画なんて観てる場合じゃねぇんだよ!」ゲスト:落合雪恵
やまがまあさ「雲呼荘の思い出」(最終回)
白坂依志夫白坂依志夫の続・人間万華鏡」
青山真治 稲川方人 荒井晴彦「DVD NEW RELEASE この7枚をピックアップした」
長谷川元吉「映像(ムービー)カメラマン解体新書」 イラスト:寺田めぐみ
大木雄高「 「LADY JANE」又は下北沢周辺から」
荒井晴彦×寺脇 研「日米★映画合戦」
石井裕也「愛という名の黙契」
わたなべりんたろう「日本未公開傑作ドラマ紹介」
「OUT OF SCREEN」真喜屋 力(沖縄 桜坂劇場支配人)


〈Book Review〉
「藤井誠之助追悼・遺稿集 海とフライパン」野上照代(元・黒澤プロ・マネージャー)
ヒッチコックに進路を取れ」梅本洋一(映画評論家) 
「あの時代に恋した私の記録 日大全共闘」「ピンクイルカが笑った」足立正生(映画監督) 
「ロードショーが待ち遠しい 早川龍雄氏の華麗な映画宣伝術」中村征夫
「男の花道 小國英雄シナリオ集」井上淳一(脚本家)