映画

今回は「土本典昭と小川伸介」と題して、二人がそれぞれの視点で描く60年代末の学園闘争の記録である。
これまで、60年代の学生運動の記録映画を随分見て来た様な気がしていたが、実際考えてみると「日大斗争」「続日大斗争」「青の城-関学闘争の記録」ぐらいしか観ていない。これは大島渚や若松孝ニ、足立正生の一連の作品の印象が強いからだろう。とは言え、前の3本は闘争に携わる学生が主体的に撮影編集したものであって、技術的には拙い。その意味で今回の作品はプロによるものだけに、作品の中で個別の作家性が顕著に現れている
上映は製作順の為、学生運動の高まり、過激化、ピークに達する過程が伺え、又二人の記録映画作家の資質の大きな違いが表れていて興味深かった。

1) 青年の海ー四人の通信教育生たち (アテネフランセ文化センター) ☆☆☆

「大学通信教育生の記録映画」を作る会 1966年 モノクロ スタンダード 56分
監督/小川伸介 


小川伸介の作品は「日本解放戦線 三里塚の夏」「三里塚 辺田部落」「京都鬼市場 千年シアター」「1000年刻みの日時計 牧野村物語」を6年前、シネヌーヴォ梅田で小川伸介7回忌追悼オールナイトで観ただけだ。この作品は小川伸介の第一作に当る。
通信教育制度改定反対闘争の記録だが、4人の当事者達を中心に描いているわけだが、確かに記録映画としては流石に処女作から十分な深みを感じさせるが、作為を感じたのが嫌だった。4人に絵を描かせたり、カメラに向かって並んで歩いてこさせたり、そんなシーンは必要ないだろう。結果としてNHKアーカイブスで見るような良質の60年代のドキュメンタリーというものにしかなっていないと思う。

2) 圧殺の森 高崎経済大学闘争の記録 (アテネフランセ文化センター) ☆☆☆★★★

記録映画「圧殺の森」製作実行委員会・自主上映組織の会 1967年 モノクロ スタンダード 105分
監督/小川伸介 


続いては、高崎市立経済大学の学園闘争を描いた作品だが、翌年から連続して公開される三里塚シリーズへの布石となる熱気に満ちている。逮捕者、起訴が相次ぐ学生達と権力との抗争は、鮮烈なアメリカンニューシネマを思わせる青春映画のようだった。殊に、プールに学生達が服を着たまま泳ぐシークエンスが突出している。

3) パルチザン前史 (アテネフランセ文化センター) ☆☆☆☆

小川プロダクション 1969年 モノクロ スタンダード 120分
監督/土本典昭 


最も観たかった作品で、これまでにも大阪で観る機会は何度かあったのだが、その都度逃していた。
京都大学全共闘運動を描いた作品だが、小川伸介と土本典昭の資質の違いを大きく感じた(撮影は3作共大津幸四郎)。
小川はストイックに被写体と共闘している印象があるが、土本は、一歩引いた視点から(勿論運動への共闘意識は十分感じるが)捉えている。又かなりユーモラスなシーンも多く、所詮親のスネを齧っている学生がひ弱な体で戦争ゴッコしているという視点があることで、この作品が過去のものではなく、現在の視点との共有を図ることができていると思う。時期的には学園闘争の過激化が進み、赤軍の結成から連合赤軍浅間山荘での壊滅まで一気に進み始める初期に当るのだが、過激化する一方で、流れに乗って特に大した思想もなく参加している学生との反古が出たりもしている。
京都大学内での軍事訓練のシークエンスでは、ゲバ棒でドラム缶を敵に見立てて突撃する訓練が描かれるが、これなど戦中の竹で米軍を突付く訓練に等しく、笑ってしまうが、参加している学生達もニコニコ笑いながら訓練している。
一方で、火炎瓶の作り方を紹介するシークエンスもあり、詳細に作り方を映し出していた。そしてその火炎瓶が市中で機動隊に向かって投げられた時から、破綻への道は始まったのだと思う。
街頭での火炎瓶闘争のシークエンスの迫力は凄まじく、交番に火炎瓶を投げ込む様子まで克明に捉え、そして京大講堂のバリケード撤去に至近距離で舞うヘリと下からの放水のシーンにおける映画的スペクタクルには感嘆した。又、トンボや蝶を捕らえた美しいショットが忘れられない。
この作品では京大経済学部助手滝田修のアジテーションも描かれているが、学生達と大人のやりとりにしても、「圧殺の森」の様な冷徹な雰囲気がしないのは土地と言葉によるものだと思う。関西弁、殊に京都弁の柔らかさが救いになっている。特に終盤の滝田が予備校で浪人生に英語を教える合間にアジテーションを繰り広げ、世の中の矛盾を嘆き、挙句に『大学解体を叫ぶ僕が、君達には大学入れと教えてるのは何でや?』とか『妻と子供を養わないかんわけです』と革命家と一市民としての立場を赤裸々に語る姿がとても好ましかった。
全体としては、1969年という運動が頂点に達する時期だけに被写体にも製作者側にもイケイケのテンションの高さが感じられ、濃厚な傑作に仕上がっている。

土本典昭氏スピーチ

上映後、シンポジウム前に土本監督から、その後の「パルチザン前史」即ち滝田修のその後について語られた。それによると、米軍グラントハイツ襲撃事件の強盗予備容疑で指名手配され、72年から潜行生活に入り、朝霧自衛官襲撃事件に関係したとして82年に逮捕される。無実を主張するも89年に懲役5年の判決を受け、未決拘留期間が量刑を越えた為判決当日に釈放。現在はネット上で「こどもの美術館」を運営しているらしい。拘留中に思想転換し、過去の自身の思想言動を自己批判し、否定しているという。現在では政治について語ることはないという。
その他、潜行中のエピソードも話しておられたが、どの程度公にして良い話かわからないので伏せる。土本監督には、是非現在の滝田を描く「パルチザン後史」を撮ってもらいたいと思う。


特別シンポジウム 大津幸四郎×佐藤真×土本典昭

前半は佐藤真が大津幸四郎に、小川伸介・土本典昭の夫々の映画作りについての質疑応答。後半は土本典昭も加わり、今後のドキュメンタリーについて等が語られた。
印象深かったのは、大津幸四郎がPD150、DVX100Aの機動性の良さを賞賛していたことで、土本典昭もDVで作品製作に当っているという。佐藤真もノンリニア編集がドキュメンタリーの編集における方法論の変化を述べていたのが興味深かった。正にDVはドキュメンタリーにおける革命的存在だったと改めて認識させられた。「由美香」「流れ者図鑑」「白 THE WHITE」「A」「A2」「神様の愛い奴」「新しい神様」等はDV時代の申し子だ。