映画

1) 日本暴行暗黒史 異常者の血 (VIDEO) ☆☆☆★★★

若松プロダクション 1967年 パートカラー シネマスコープ 76分
監督/若松孝二 出演/野上正義 山尾啓子


これは若松作品の中でも最重要作品であり、完成度の高さから言っても、1、2を争うのではないか。
脚本の出口出は今回は足立正生
明治、大正、昭和と、一族に脈々と受け継がれる黒い血が、それぞれの世代で性犯罪を起こしていく。ピンク映画でありながら、それぞれの時代を低予算臭を感じさせることなく見事に描き出している。
若松・足立も認めているように、これは天皇制の物語であるが、黒沢清の「カリスマ」程露骨に天皇の存在を示すのではなく、時代性や彼らの置かれていた位置もあって、慎重に隠匿されている。この作品を天皇制の問題を介してしか語らないのは作品にとって不幸だ。



2) 秘花 (VIDEO) ☆★★

若松プロダクション 1971年 パートカラー シネマスコープ 70分
監督/若松孝二 出演/横山リエ 吉沢健


若松作品は成功作と失敗作の落差が激しいが、これは典型的な無内容の失敗作。脚本が出口出(足立正生荒井晴彦)にしてこれはどういうことかと思わせるが、若松自身が『配給会社に頼まれて撮った』(「俺は手を汚す』)と語っているし、足立も『全共闘ムードを破産的に描いたのを、若松流にカットして整理してしまった作品』(「映画/革命」より)と語っていることから、若松がどうしてもやりたいと切望した作品でない上に、本編からも僅かに伺えるが、敗退した全共闘の男女の物語から政治的背景を殆ど取っ払ってしまったのだろう。その結果、到って単純なピンク映画にしかならなかったのだが、請負仕事である以上、商売上はこれで良かったのかもしれない。
海岸に打ち上げられた廃船で物語は展開するが、政治背景も何も描かないから単調なやり取りに終始しているだけ。いちばん興味を引いたのは、インサートされる吉沢健の闘争の映像が「狂走情死考」からの使いまわしだったことで、これで、あの「狂走情死考」の主人公の後日談として観ることができるのだから思わず身を乗り出したが、案の定廃船が燃えて終わるだけだった。
個人的に横山リエが好きなので、彼女を見るだけに徹するしかなかったが、「新宿泥棒日記」の横山リエに魅力を感じる者にとって、僅か3年後の本作や翌年の「天使の恍惚」の横山リエは、眉毛ないし、典型的アングラ女優丸出しの風貌だわ、棒読みに一層磨きがかかってるわで、ちょっと引いてしまう。
全体としては、面白くなりうる要素が多かっただけに失望は大きい。とは言え、各ショットは見事で、流石に若松と撮影の伊藤のコンビはシネスコの中で的確なフレームを見せる。殊に今回は船が出てくるのだから、より美しいショットが多かっただけに残念だ。