映画

1)「ビッグ・フィッシュ」〔BIG FISH〕(Tジョイ大泉) ☆☆☆★★★ 

2003年 アメリカ   カラー  シネスコ 125分
監督/ティム・バートン  出演/ユアン・マクレガー  アルバート・フィニー ビリー・クラダップ ジェシカ・ラング

 
 ティム・バートンの近作は、「スリーピーホロウ」が横溝テイストに溢れた傑作で、「猿の惑星」が職人技術の切り売りすらできなかった凡作という世間と変わらない印象しか抱いていない。蓮實重彦の様に「猿の惑星」を擁護する勇気はとてもなく、それだけに今回の「ビッグ・フィッシュ」に期待しえるものか、不安を抱きつつ―悪くないにしても、やや映画作家として下降線を辿りつつあるのではないか―というこちらの一方的な不安は、開巻の巨大な魚が水面を滑らかに通り過ぎた瞬間に消え去り、心地良い佳作として観終わることができた。
 ほら吹き寓話であるが、現在の技術を持ってすれば、どんな映像でも可能なだけに逆に過剰になったり、何でも有りのハナシになってしまう危険性を有しながら、実に上品で節度ある演出で見せきっている。
 大男、桃源郷、サーカス、恋人といった魅力的な人物、設定が次々に現れるが、確かに父が破天荒なほら吹きなのだから、単発的に魅力的なエピソードを見せることができるだろう。この作品の素晴らしいのは、それらのエピソードが単発的にファンタジーとして扱われているのではなく、伏線が巧みに張り巡らされ、現実と結びつけられていることだ。
 フェリーニを思わせる祝祭的な父の最期に感動しつつ、現実の残酷さを同時に示し、感動的なラストの葬儀シーンで、ほらと現実の融合を果たした。