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1)「日本映画 ぼくの300本」(双葉十三郎) 文春新書   

日本映画 ぼくの300本 (文春新書)

「外国映画ぼくの500本」に続いて双葉十三郎選出作品を300本、寸評と共に紹介したものだが、文芸春秋社淀川長治亡き後、盟友かつ『最後の映画批評家』(小林信彦命名)である双葉十三郎を、自社雑誌での本書の元となった記事や阿川佐和子の対談で引っ張り出すなど、小林信彦がエッセイで繰り返し双葉十三郎を褒め称えたのが功を奏したこともあろうが、活発に行っている。世間一般に知られているとは言い難い双葉十三郎の業績を知らしめる良い機会だと思う。
 実際、自分にしたところで、「SCREEN」を買い始めた中2になって双葉十三郎の連載を知り、当時丁度四巻の刊行を終えた「ぼくの採点評」を買い揃えた。続く「日本映画批判」で双葉十三郎の鋭い批評に衝撃を受けた。蓮實重彦が「ぼくの採点評」を50年代の評価はほとんど間違っていると、何度か発言したせいもあって未だ双葉十三郎の凄さが不当な認知のされかたをしているのではないかという危惧はあるのだが。
 本書では現在までの日本映画から選出した300本を採点評と同じ方式で新たに星をつけたのが珍しい。しかし、現在から回顧したものであるせいか、評価の位置や採点に疑問が多少あった。伊丹十三の「スーパーの女」が「マルサの女」と並んで最高点に近かったり、常識的すぎる作品が並びすぎている気もするが、山中貞雄等幻の作品への言及が読みどころか。