撮影監督 篠田昇死去

 
 篠田昇の死去を知り茫然としている。52歳だった。岩井俊二の全映画、相米慎二井筒和幸利重剛等とのコンビ、その他「真夜中まで」や「MISTY」等、作品を観れば、篠田昇の撮影であることが一目でわかった。今後の日本映画を代表する巨匠カメラマンとなることが確約されていただけに、日本映画の取り返しのつかない大きな損失であり、かけがえのない人を亡くしてしまった。 
 今年に入ってから「花とアリス」「世界の中心で、愛をさけぶ」を観たばかりなので、まさか癌に冒されていようとは想像だにしなかった。90年代半ばの岩井俊二との出会いが、篠田昇のカメラマン人生を変えたと思う。低感度フィルムを大幅に増感したり高感度フィルムを減感したり16mmを大胆に使ったり、フィルムと戯れ、篠田昇でしか作り出せない独創的なルックを作り出していた。クレーンやミニジブの使用も革新的だった。又、シネアルタを積極的に導入し、現在の24P撮影の基礎を築いた。
 今、脳裏に浮かぶ数々の篠田が撮影した作品の中でも、やはり岩井俊二とコンビを組んだ作品が思い出される。岩井は『自分が半分死んでしまったようで、途方に暮れています』と自身のサイトで述べているが、岩井作品の外観を作り上げていた人だけに、今後岩井俊二はどうすれば良いのか。篠田の弟子筋に当り、行定勲とコンビを組む福本淳に篠田的映像を撮ってもらうか、岩井自身が廻すか、あるいは新たなる出会いを求めるか…ニーノ・ロータの死がフェリーニを実質的に死に追いやったように、来るべきジョン・ウィリアムスの死がスピルバーグを実質的死に追いやるであろうと予想されるように、篠田昇の死は岩井俊二の最大の分岐となる出来事だ。
 せめてもの幸いは、「世界の中心で、愛をさけぶ」が大ヒットして、多くの観客に素晴らしい篠田昇の映像を見せることができたということだ。
 現役最重要カメラマンの死が与える影響は大きい。心より冥福を祈りたい。
  http://www.jmdb.ne.jp/person/p0160060.htm