映画 「花井さちこの華麗な生涯」

molmot2005-07-11


第27回ぴあフィルムフェスティバル 招待作品部門

110)「花井さちこの華麗な生涯」[ピンク公開題「発情家庭教師 先生の愛汁」 (渋谷東急) ☆☆☆

2004年(2003年) 日本 国映 カラー ヴィスタ 90分 
監督/女池 充     脚本/中野貴雄     出演/黒田エミ 蛍雪次朗 松江哲明 伊藤 猛

イロイロ聞かされてはいたが、実際に観たら、至極真っ当な映画だった。メジャー公開されている日本映画の方が、この作品の誠実さに比べてたら遥かに不真面目で、プロットも覚束ない。
 イメクラ穣の主人公が発砲事件に巻き込まれ、おでこに流れ弾を受けたことから、ある種の能力に目覚め‥という展開は、まったく正当で終盤に至るまで違和感は感じなかった。
 「ピンクリボン」で撮影風景が映し出されていたが、果たして大丈夫なんだろうか、この現場、と思ったが、そのような危惧を抱く必要が全く無い的確なショットで紡がれていくので、安心して観ていられる。
 最も素晴らしいのが、松江哲明黒田エミの額に開いた穴を覗き込み、その中で黒田と松江が戦場に立っているという世界が広がっていることで、それがスクリーンに映し出された戦場の前に二人が立っているだけなのは良いにしても、ここは大島渚の「帰ってきたヨッパライ」におけるベトナムに見立てられた不忍池並みの描写が必要だったのではないか。際立って素晴らしいシーンだけに残念だ。
 ブッシュの件もひたすら笑えた。「チーム・アメリカ」に先立って正にピンクから世界を撃っていて、好感を持った。ブッシュの声が響き‥という展開も破たんしかねない設定だが、「ソドムの市」や本作では、設定の破綻を演出の破綻と同義にしていないので観ていて、計算臭や嫌らしさがしないから良い。
 ラストの洞窟内のシーンは、「八つ墓村」「悪霊島」「恐怖奇形人間」同様、『ラストの洞窟シーンは冗長で失敗する』定義から逃れられていない。これは一重に、暗く、狭く、動きを見せられない場所的な縛りがどうしても係わってくるので、せめてもう少し短い方が良かったと思う。
 黒田エミの能天気さの魅力や、蛍雪次朗や速水今日子も良かったが、驚いたのが演技者としての松江哲明で、「ばかのハコ船」「手錠」ぐらいしか観ていないが、その際はさほど突出したものは感じなかったが、本作での童貞臭さと無表情ぶりが素晴らしい。この無表情は「絞死刑」をリメイクすれば、尹隆道が演じた死刑囚Rこと李珍宇を現在において演じることができる最良の存在ではないかと思えた。
 詰め込みすぎの嫌いはあるが、「日本春歌考」や「帰ってきたヨッパライ」に通じる骨のある作品で、楽しめた。