深作健太監督第三作・脚本担当は押井守


 第5回日本エンジェル大賞の佳作に深作健太の「エルの乱(仮題)」が選ばれたことは知っていた。
 で、その脚本担当が、何と押井守と言うのだから驚く。サイト上に載っているあらすじは以下の通り。

■あらすじ
近未来―。別の歴史の歩みを刻んだもうひとつの日本。奇跡的な高度経済成長による急激な経済再編成が生み出した大量の失業者、そして隣国からの難民。彼らによる幾多の騒乱は、警察軍<首都警>により制圧された。それから3年−、構造改革の名の下に広がる経済格差、矛盾したまま進む都市部のハイテク化とスラム化。ある日、羽田沖に設置されたゲットーに1人の男が現れる。彼は卓越したリーダーシップで難民を組織化していき、難民2世の少女は、その男の姿にかつての指導者である父親の面影をみる。そんな時、自然発生した暴動が、絶望的な武装蜂起へとエスカレートしていった。封鎖された橋に姿を現す<首都警>の装甲車。ヘリから降下を開始する特殊部隊。そして鏖殺の銃声が居住区に響く…。


 と聞けば、当然ケルベロスシリーズを想起させずにはいられないが、記事中に『13年前に大阪で起きた暴動事件をモチーフに、親子で温めていた企画』とあるように、奥山和由プロデュース、深作欣二監督、野沢尚脚本で進められていた西成暴動を描いた「その男たち、凶暴につき」、最終稿タイトル「かくて神々は笑いき」が元ネタである。萩原健一、水谷豊共演で企画されていた筈だが、ロケハンで見つけた米軍基地関連施設が突如使用不可になるなどして中止となり、結局平行して企画されていた「いつかギラギラする日」が映画化された。
 野沢尚はその後も「かくて神々は笑いき」には随分拘っていた様で、映画化の機運を探ったり、小説化したいと語っていたようだが、実際には実現していない筈である。もっとも「その男、凶暴につき」を野沢尚のオリジナルに近い形で小説化した「烈火の月」は発表しているが。
 深作健太がその後、この企画を継承して進めていたことは、「映画秘宝 4月号」で磯田勉氏が「いつかギラギラする日2」の存在を明らかにし(室賀厚の「SCORE」が一時期「いつかギラギラする日2」になりかけていたハナシとは関係ない)、その内容が「かくて神々は笑いき」の主人公を女性に置き換えた版であることが書かれていたが、この企画も実現しなかった。確か主演の女性候補柴崎コウだった筈。
 以上のことから、第5回日本エンジェル大賞の佳作に深作健太の「エルの乱(仮題)」が選ばれ、その内容が正にそれだったことから嬉しくなり、これで映画化の可能性が少しでも開ければ、と思っていたところへの脚本を押井守が担当するという報には驚いた。
 個人的には未だ見ぬ野沢尚脚本での映画化への思いはどうしてもあるが、押井守に頼んでしまうところが、いかにも深作健太と言うか何と言うか‥深作健太のアニメ好きはBRシリーズで十分わかったし、「最終兵器彼女」は深作健太がやると思っていたぐらいだ。
 ま、深作健太に無理矢理野沢尚脚本でやらせるよりも、押井守脚本の方がやりやすいではあろうし、「人狼」の出来を思えば悪くないハナシかも知れない。
 ともあれ、押井守に『欣二監督の映画を見て胸を熱くした世代として、やる以上は日本映画離れしたものを作り、健太を男にしたい』などと言わせてしまう、父親からの恩恵を目一杯受けられる幸福な監督なのだから、是非とも骨太な作品にしてもらいたい。

※上の写真は深作&拓ぼんJr。この二人で「県警対組織暴力」の取調べシーンを再現してもらいたい。