映画 「同じ月を見ている」「ブラザーズ・グリム」

molmot2005-12-09

235)「同じ月を見ている]」(Tジョイ大泉) ☆☆★★★

2005年 日本 「同じ月を見ている」製作委員会 カラー ビスタ 106分
監督/深作健太    脚本/森淳一      出演/窪塚洋介 エディソン・チャン 黒木メイサ 山本太郎 松尾スズキ 岸田今日子 仁科貴

 深作健太第2作である。「バトル・ロワイアルII 鎮魂歌」は、監督クレジットでは深作欣二深作健太の連名になっているせいで、恰も深作欣二がある程度は撮っているかのように言うヒトも居るが、実際は前田亜季がピアノを弾くシーンをリハーサル中に突然深作がカメラを回すと言い出したから回しただけで、本編中の同様のシーンがこの時のものかどうかは疑わしい。それでも連名にしているのは商業上、心情の上でのことで、例を挙げれば「生きものの記録」で音楽の早坂文雄が実際は数小節作曲しただけで急死したのを佐藤勝が後を継いで仕上げた為、殆どが佐藤作なので実質上早坂文雄の遺作とは言えないとか、足立正生のピンクデビュー作「堕胎」には監督として若松孝二と足立が共同でクレジットされているのと同じ様なものだ。
 深作健太に関しては、確かに「BRⅡ」は駄作だと思ったが、深作健太自身をそう悪く言う気は無い。極論すれば、深作欣二の息子に生まれてくるのも能力のうちだと思っているし、親子二代の監督というのは映画、テレビ等に枠を広げればかなり多い。ただし、深作健太が目立ってしまうのは、役者じゃあるまいし、監督で二代目、世襲ということを高らかに謳い上げてしまうからだ。深作健太深作欣二のことを『先代』と呼ぶ。そして『深作組』には、原田徹を筆頭に先代からの番頭などが控えている。普通は、そういったものを拒否するものだが、受け入れるというのは最近の風潮なのだろうか。手塚眞は自主映画時代からの実績があるから最近の父親の作品への接近ぶりを同等に語ることはできないが、宮崎吾朗などは深作健太と同様と考えて良いだろう。いくら自身での希望とは言え、深作健太に同情すべき点は多く、いきなり「BRⅡ」の監督に、しかも実質プロデューサー・監督・脚本を兼任しているのだから、そう多くを求めるのは無理と言うものだが、それでもロクに脚本が無い状態で製作費7億の作品を手掛けたのは、余りにも手が余ると言うものだろう。幸い、興行的にはヒットしたので良かったと思ったが、作品の完成度は深作健太の監督生命を脅かすような出来だった。今後は『深作組』を離れ、小規模の作品で演出力をつけていくべきでは‥と思っていたので、「同じ月を見ている」の監督が深作健太に決まって良かったと思った。この作品が深作健太の実質的デビュー作と言える。
 この作品には深作健太のこれまでの『深作組』からの連投は山本太郎と仁科貴ぐらいのもので、スタッフも含めて全て初めて組む人達で、深作健太の演出力が明確に出る、言わば勝負作の側面を持っている。
 興行的には相当な苦戦のようだが、作品としても厳しい。原作を読んでいないので、作品単品として接する。
 3人の中心人物の初登場シーンは、エディソン・チャンだけ塀に攀じ登りジャンプするショット、草むらを駆け抜けていくのを俯瞰で捉えたショットが最初に入るのだが、それを覗くと、横移動が使われている。窪塚洋介の場合は自転車での上手から下手への移動、黒木メイサは図書館での前述の逆の徒歩移動、エディソン・チャンは草むらの移動と初登場シーンの象徴としてあるのは良いのだが、これがちっとも良くない。山下敦弘の作品における開巻の横移動の素晴らしさに比べても、全く魅力に欠ける。又、風景から人物が際立たない。撮影は北信康。この方、「北の零年」でも撮影が良いとは思わせなかった。「模倣犯」も。「黒い家」は悪くないと思ったが。
 深作健太は若い割には老成しているとか言うのは大きなお世話だが、それでも、男女二人が会話するだけでギコちないのは流石に不味く、殊にベッドシーンは80年代で既に終了した描写が復活していて目を疑った。あの黒木メイサの体にしっかり巻かれたグルグルシーツは何だろうか。しかもカメラは俯瞰でベッドを捉えているだけ。演出のギコちなさのピークの様なシーンだった。
 子役の芝居が大芝居過ぎる(しかし、心臓が弱い子役の娘の眉を太くしたのは、リアリティがあって良かった)、黒木メイサは棒読みで、心臓悪い癖に都合良く倒れたり、走ったり。原作が長く、又うまく行けば続編を狙っているせいもあるのだろうが、ヒロインの心臓の手術がアタマで振られているのに、ケツでせめて先行きの暗示をしてほしい。その他、辻褄が合わない箇所を言い出せばキリがない(それにしても、あのラストシーンのガキの悪びれなさはどうだ)が、それを演出である程度は気にしないものにできる筈だが、そういった箇所が気になって仕方なくなってしまう。松尾スズキを出したのは、例によって庵野秀明の後追いだろうが、ギャグの遊離間も凄まじい。警察が嫌いなのと、警官に血の通った描写ができないのは全く違う。先代はこんないい加減な描写の警官を描いただろうか(大体、警察嫌いで「機動警察パトレイバー」も「攻殻機動隊」も観たことが無いと言い訳にしていること自体馬鹿げている。それなら「県警対組織暴力」も観ていないのか)。
 各エピソードが思いつきレヴェルの演出で消化されているので、作品全体の流れが非常に悪い。殊に、深作健太山本太郎のチンピラに並々ならぬ思い入れを持ってしまった為に、愈々判然としない作品になってしまった。流石息子と好意的に取るヒトも居るようだし、実際そう悪いものではなかったが、全く別の映画の流れが入ってきたかのようになってしまっており、そう笑っていられるようなものではない。大体、アクションシーンやヴァイオレンスシーンになると生き生きして、とか今回は不得意なジャンルでと深作健太は、まるで、アクションが得意と取れる発言をしているが北村龍平共々決してそんなことはない。アクションが好きなだけである。
 作品の流れを無視して、自分の好きなシーンをバランスを崩すぐらい長く入れるという「BRⅡ」の失敗を繰り返している。ラスト近くの絵のドリー・インも「BR」と全く同じ見せ方で呆れた。
 とは言え、クライマックスの山小屋の炎上から、あのどうせやりたいから強引にやったに違いない、まんま「バック・ドラフト」な描写も含めて、ここからラストにかけては流れとしては悪くない。深作健太に期待できるのは、表層的な映画的な流れをある程度はできるところだと、「BR」「BRⅡ」を観て思ったが、本作でもその辺りは僅かに感じさせた。但し、エディソン・チャが「ポセイドン・アドベンチャー」みたいなことをしているが、そこでのやり取り、見せ方も古めかしい。
 前述した山本太郎のチンピラにしても、違和感しかないが、決して悪いものではなく、深作健太がチンピラを描くとこうなるというものが観ることが出来て良かった。次回作は押井守の「エルの乱」が予定されているようだが、その前に低予算のヤクザ映画を撮ってはどうだろうか。何なら、例のVシネ規模でタイトルが浪費されている「新・仁義なき戦い」シリーズの新作を深作健太がやれば良い。タイトルに臆せず、堂々とできるのは深作健太だけではないか。実際、山本太郎のシーンは、この作品でなければそれなりに観ることができたように思う。単品でヤクザ映画を撮ってほしい。
 因みに1カットだけ、川谷拓三Jr、仁科貴が「BRⅡ」に続いて出演している。トラック運転手の役で、カメラは切り返さないので、仁科のみを捉えているが、例によって拓ボン真似が爆笑だが、このカットは深作健太と仁科貴の相互マスターベーションイカ臭さ満点のシーンとして存在している。しかし嫌いじゃない。仁科貴は例の事件以来、未だ執行猶予中ということもあり、目だった活動はしていないが、「TAKESHIS'」ではそれなりに出番もあり、心ある監督達には拾われているようで良かったと思う(一応、出ていてば上記に小さな役であろうと書くようにしている)。あれだけ順調に作を重ねていてJr連鎖逮捕でやられてしまったが、ただの拓ボンコピーと呼ばれてはいたが、むしろ好きだった。今、真似でも良いから川谷拓三みたいな役者いるかと言えば居ないのだから、仁科貴がやるしかない。深作健太にとっては、山本太郎共々大事にすべき人材で、山本太郎、仁科貴で「資金源強奪」のリメイクとか、往年の室田日出男、川谷拓三的在り方が可能になると思う。
 深作健太は未だ1、2本続けて撮る機会は優にあるだろうから、愚直に演出力を伸ばしていってほしい。未だ期待は捨てていないが、本作は水準以下の凡作だった。   
 

236)「ブラザーズ・グリム]」〔THE BROTHERS GRIMM〕(Tジョイ大泉) ☆☆☆★

2005年 アメリカ MIRAMAX カラー ビスタ 117分
監督/テリー・ギリアム    脚本/アーレン・クルーガー      出演/マット・デイモン ヒース・レジャー モニカ・ベルッチ ジョナサン・プライス レナ・ヘディ

 テリー・ギリアムの新作が完成したというだけで感慨深くなるのは、あの悲しい傑作「ロスト・イン・ラ・マンチャ」のせいだろうか。兎に角「ラスベガスをやっつけろ」以来7年ぶりの新作である。
 テリー・ギリアムらしい寓話で、ノンビリ楽しもうと思っていたが、ある程度は楽しめたとは言え、佳作の域には到達しなかった。観終わってかなり長く感じたので2時間半はあったかと思っていたが、実際は1時間57分で、そう長いわけではなかった。
 クライマックス部分が冗長になってしまったのが原因かとも思うが、上限100分に抑え込めばかなり締まるものになるとは思う。
 装飾過多なのはいつものことなので、それが悪いとは言わないにしても、一応数字上は豊潤な予算があったようだが、それほど予算があるように見えないのは、巧く使い切れないのに、何だかんだ言いつつ大作を作ることができてしまうギリアムの不幸か。聡明な自身がそのことはよくわかっているようで、既に完成しているという次回作「Tideland」は低予算とのことで、楽しみだ。