足立正生新作主演は田口トモロヲ

 先日発表された足立正生新作「幽閉者」の詳細情報が出た。

映画『幽閉者』企画意図
   足立正生が今、新作映画を胎動させる。
   テロとは何か、テロリストとは何者なのか。
   パレスチナ解放闘争に身を投じ、自身も幽閉者として獄中にあった足立が、
   テロリストと言われた一人の若者の行動と幽閉を正面から見つめ、   
   その精神の在りようを問い直す。

映画『幽閉者』物語
   幽閉者は、孤独や拷問に対し、自己の確信を支えに耐えぬこうとする。
   確信を巡る想念は現実と遊離した彼方へ飛翔する。
   その飛翔とは、狂気の世界への逃亡なのか!?
   幽閉者は、食事として与えられたパンを捏ねて地蔵尊を作り続ける。
   獄中に、フランス革命の指導者ブランキ、ロシアの革命家ネチャーエフ、
   イタリアの哲学者ネグリらが 次々と現われ、幽閉者との対話が繰り広げられていく。
   映画は、時空を超えた若者の想念に迫る。
   忽然と現われる能舞台に広がる老い松と若松、咲き乱れる桜、
   日本の原風景から踊り出てくる青鬼や赤鬼、おかめとひょっとこ、
   勇壮なアラブのダプキ=舞踊、
   牢獄の重い扉の向こうに広がる砂礫の荒野。
   政治的な取り引きの末に解放された幽閉者は、疾走する。
   原点という確信に向かって──。

映画『幽閉者』出演者
   田口トモロヲ
   大久保鷹
   赤瀬川原平 他

映画『幽閉者』スタッフ
プロデューサー○小野沢稔彦
       ○越川道夫
  脚本・監督○足立正生
     撮影○伊藤正治 長田勇市
     美術○磯見俊裕
     音楽○大友良英

企画/製作 『十三月』製作委員会

 驚くのが主演が田口トモロヲで、更に大久保鷹赤瀬川原平と続くところだが、田口は大島渚好きだし、その流れで当然足立の新作となれば食いついただろう。大体あの年で大島と足立の作品に出ているということが凄い。そして大久保鷹と来れば大和屋竺の諸作でお馴染みだが、足立のこれまでの作品には出てなかったと思う。せいぜい「新宿泥棒日記」に足立が脚本、大久保が状況劇場の人々として、麿赤児不破万作などと出ていたぐらいか。で、足立とは親しい赤瀬川原平と。これも不思議なキャスティングだ。
 プロデューサーが越川道夫だったり、撮影が長田勇市(伊藤正治も入っているが、たぶん助監督なのでは?)、美術が磯見俊裕、音楽が大友良英と、言っては悪いが至極真っ当な方達で、ようは足立を囲む素人が作る自主映画レヴェルの規模では、元来足立の映画は不器用な作りなので晩年の石井輝男の作品のように、極めて基本的な箇所が覚束ない作りになってしまうのではないかという危惧があったので、安心した。このスタッフならフィルムかもしれないとも思う。DV撮りのアップリンクで流して終わりかと思っていたぐらいだから。
 何にしてもここまで具体化しているなら完成が楽しみだ。公開時には再び全作上映やDVD化が進んで欲しい。現在ソフト化されている足立の作品は昔ビデオで出た「噴出祈願 15代の売春婦」とDVDで出た「女学生ゲリラ」ぐらいで、「鎖陰」や「銀河系」、「堕胎」「避妊革命」「性地帯」「性遊戯」「叛女・夢幻地獄」といった作品もまた観たい。はっきり言ってどれも出来は悪い。個人的には殆ど語られないが国映で作った「叛女・夢幻地獄」や「性地帯」のような職人技術のみで見せる作品が好きだった。
 新作の「幽閉者」も、しかしこのヒトは「銀河系」の頃から変わらないと言うか、完成すれば「20世紀ノスタルジア」同様のリアクションを受けるに決まっていると言っても良いが、足立帰還後、明らかに若松孝二はそれ以前とは異なる60年代の諸作的な活性化を見せているし、もし大島らが健在であればそこにも無形ながらも影響を与えていたに違いないと思わせるだけでも足立の新作は観たい。