映画 「台風太陽」

molmot2005-10-24

「コリアン・シネマ・ウィーク 2005 」〜現代韓国女性監督特集〜 
202)「風太」〔台風太陽 The Aggressives〕 (ヤマハホール) ☆☆☆

2005年 韓国 カラー ビスタ 107分
監督/チョン・ジェウン     脚本/     出演/キム・ガンウ チョン・ジョンミョン イ・チョニ チョ・イジン
 
 「子猫をお願い」が長編デビュー作ながら素晴らしい作品だったチョン・ジェウンの第2作。
 「子猫をお願い」を観ていれば、この監督が突出した空間把握能力を持ち、適確なショットで紡ぐ才を持っていることがよくわかるが、同時に今後ヴィジュアルに走ったりしないでくれという思いがあった。
 残念ながら「台風太陽」では、その悪い予感が当たった。
 インラインスケートを材に取っているが、それがチョン・ジェウン自身が選んだものなのか、依頼されたものなのかは知らない。前作とは対称的に今度は大人になる直前の男の子達のハナシである。
 全体の2/3は、インラインスケートをしているシーンを主にした短いカットを素早く繋ぎ合わせてバックに音鳴りっ放しの、一見したところただのPV的な撮り方に見えるが、そうではない。巧みな繋ぎも凄いが、各ショットの切り取り方が凄い。画としての成立具合が唸らせる。そこらの適当な画を意味ありげに繋げば成立すると考えているような凡庸なPVやPV手法を映画に取り入れた作品とは完全に一線を画す。
 底辺に敷いてあるのは、自由奔放な日々と、現実への直面という古典的なもので、それをどう見せるかに主眼が置かれていて、前半の前述した見せ方で巧みに見せて行くが、これまでの方法論から外れているので、チョン・ジェウンヌーヴェルヴァーグ方面から持ち上げている方々からは高い評価を得られるのではないかと思うが、自分はキツかった。その部分だけを取り上げれば唸る程巧いが、その描写が全体の中でどう位置づけられているかが疑問で、並のPV的思いつきレヴェルの羅列とは全く異なるが、成功とは言い難かった。
 いちばんの不満はリーダー格のところへ召集令状が来てから一気にオハナシが怒涛の如く押し寄せてくることで、CM撮影でカメラを壊してからのオハナシ色の強さには参った。「子猫をお願い」でもペ・ドゥナの祖父母の死からオハナシづくことへの批判があったが、自分はそこはそう気にならなかった。本作では前半の見せ方が余りにもヴィジュアルに走り過ぎて、チョン・ジェウンが自身の空間把握能力と繋ぎの巧さを自覚し過ぎて陥った弊害に思えた。大体インラインスケートを取り上げたのも何かスポンサーの関係か依頼されたのかと思ったぐらいで。ただ、後半の展開は決して嫌いではない、ベトベトせずに渇いているし。斬新だと賞賛する気は全く無い。バランスの悪い作品だという思いだ。
 ヒロインのチョ・イジンが良かった。ちょいキャンプ好きの田中律子に似てるけど。
 尚、現在キットカットのサイトで「花とアリス」同様ショートフィルムヴァージョンが観れるので、比較や、「子猫をお願い」の監督の新作ということで観たら良いと思う。
 http://www.breaktown.com/