読了 「争議あり―脚本家荒井晴彦全映画論集」

28)「争議あり―脚本家荒井晴彦全映画論集」荒井晴彦 (青土社) ☆☆☆☆★

争議あり―脚本家・荒井晴彦全映画論集
 「映画芸術」を読み始めたのはいつからだったか。記憶では93年あたりからだったと思う。角川事件についての座談会が滅法面白かった。映芸のワーストテンというのが面白くて、その号だけは熱心に立ち読みしていた記憶がそれ以前からあったようにも思う。
 買い始めたのは94年の夏で、「トカレフ」の特集号と「全身小説家」の特集号をまとめて購入して以来現在に至るというところか。高校生だったので、一冊映画代と同価格の雑誌というのは高かった筈である。それ以前のものに関しては古本屋でバックナンバーを揃えて荒井晴彦時代の映芸は大体揃っている。
 その頃、荒井晴彦に対しての認識というのは、どの程度持っていたのだろう。「Wの悲劇」や「リボルバー」でキネ旬脚本賞を獲った名脚本家程度のものだったか。
 映芸の何に惹かれたのかと言うと、例えば初めて買った「トカレフ」の特集号では、阪本、荒井、寺脇研の対談が良い。それもやたらと長い。又、最も初期に書かれたシノプシスが掲載されているのも面白かった。編集後記の荒井晴彦の独特の文章も魅力だった。それに、あんなに悲壮に毎回金が無い、次号出せるかどうかなどと書いてあると、買わなければナラナイなどと不要な使命感を与えられた気がして買い続けてきた気もする。
 版型が小さくなったり戻ったりしながら、とうとう10年以上買っているが、内容的にはここ数年は安定していて(経営上はそうでもないのだろうが)、読み応えがある。ただし、最近は荒井晴彦色が薄くなっているのが残念で、もっともその分、荒井晴彦が本業で多忙という喜ばしい状況ではあるのだが。
 で、その映芸の原稿も含めて、長年読みたかった「シティ・ロード」の日記や70年代の映芸に書いた原稿など、初めて目にするものも多数収録された「争議あり―脚本家荒井晴彦全映画論集」はひたすら面白かった。
 荒井晴彦の文章というのはクセが強くて、決して読み易いわけではない。往々にしてどこに主語があるのかわからないから、それが何を指しているのか不明になることがある。ま、こっちの読みが甘い部分もあるが。だから山田宏一の例の「サンダンス・カンパニーの怪談」の掲載をめぐっての編集部掲載拒否問題について後記に書いたのが、荒井の文章の掲載拒否と勘違いされたりする。しかし、それだけ味わい深い文章でそこが魅力なのだが。荒井の映画の好みとは決して一致しないが、未見の作品について書かれてあると、無性に観たくなる。
 日記の家族間の隙間とか、母と妻の諍いとか、娘への愛情とか、良かった。しかし「ガラスの仮面」が監督澤井信一郎、脚本荒井晴彦で映画化されかけていたのは知らなかった。実現しなかったのが残念だ。
 荒井の新作は「やわらかい生活」が公開待ち、執筆中の筈の「ららら科學の子」はどうなったか、そして澤井信一郎によって「神聖喜劇」が映画化されるのを期待して待ちたい。