映画 「日曜日は終わらない」「メゾン・ド・ヒミコ」

molmot2005-10-26

女優・林由美香 追悼上映<由美香 Oh My Love!> 特別企画
203)「日曜日は終わらない」(渋谷シネ・ラ・セット) ☆☆☆★

1999年 日本 NHK大阪 カラー ビスタ 90分
監督/高橋陽一郎     脚本/岩松了     出演/水橋研二 林由美香 塚本晋也 りりィ 渡辺哲 絵沢萠子 山口美也子 伊藤歩 大杉漣

 
 放送時の終わりかけに目にして、BK製作で林由美香塚本晋也、りりィ、絵沢萠子伊藤歩大杉漣小倉一郎吉行由実井口昇Mr.オクレギリヤーク尼ヶ崎が出てるし何だこれはという思いと共に、高橋陽一郎の作品なので、見逃したことを後悔したがもう遅い。どうせNHKのことだからどこかで再放送するだろうと踏んでいたのだが、これがしない。まあ、BKの場合諸々立場が悪いとか聞くのでその影響かとも思ったが、所謂NHKがたまに作る異色作の部類(和田勉の「大市民」とか「中学生日記 ミニスカ戦記乙女の20センチ」とか諸々ありますな)なので再放送が避けられているのかとも思った。もっとも映画祭等には頻繁に出品していたようで、本作についてはid:eichi44さんが詳細な情報を出しておられる。読んでいて思い出したが、「OSAKA 映像フェスティバル2002」でそう言えば上映していた。行けずに悔しい思いをしたことを覚えている。
 ようやく訪れた観る機会が、林由美香の死によってでしかその機会を得ることができなかったことが辛いが、この作品の中の林由美香は飛び切り魅力的である。
 岩松了の脚本を読んでいないので、高橋陽一郎が現場でいじっているようだし、その色がかなり濃くついているらしいことはid:eichi44さんのレポからも伺える。
 個人的には大阪の風景、それも大正、弁天町あたりの風景が全篇を包んでいて心地良かった。開巻の自転車の疾走からして乗せられる。中山製鋼とかの工場が巧く背景に使われている。このあたりの風景は「ブラック・レイン」や「新仁義なき戦い。」等でも使われていたが、自分は「NN−891102」での使われ方が一番好きだったが、本作は更に良い。
 水橋研二が家に帰ると、母親がりりィで、祖母が新屋英子というだけで嬉しくなるが、新屋が呆気なく塚本晋也の運転するトラックに轢かれて死に、りりィと塚本ができてしまう展開は、まんま交通事故が常に付き纏う成瀬巳喜男で、成瀬好きの岩松了らしく「乱れ雲」を発展させたものになっている。
 高橋陽一郎はロングショットが多く、ま、これはプロジェクターの問題も入ってくるので人物が判別できないぐらいの箇所が多いのは不問だとして、自分はロングが好きだから嫌じゃないが、中途半端に感じる箇所も目だった。ロングにしたいからロングにしているだけ、ここはロングにしなければならないわけではなく、ロングを使いたいという意識が先走っているように感じることもあり、メリハリがついていないし、引くならもっと引けば良いのにと思う箇所もあった。
 ランジェリー・パブで、初めに絵沢萠子が出てきた時はハッとした。というのも、林由美香は年齢を重ねて行けば絵沢萠子以上の存在になると思っていたからで、共演していることを知らなかったので驚いた。残念ながら同一画面上には登場しないが、一種の同一性の元に画面に収まる二人をキャスティングしたのは凄い。一応「借王4」でも共演はしているようだが、同一画面上での芝居はあるのか。二人の主演作など是非観たかった。
 林由美香の登場するシーンは少ない。パブが2シーン、堤防、ロープウェイ、廃墟の屋上ぐらいだが、たまらなく魅力的だった。殊にパブでのやり取りが良い。
 お決まりの穢れなき娼婦像でしかないのだが、林由美香だからそう思わせずに引き込まれる。
 ラスト近くの廃墟は摩耶観光ホテルで、id:eichi44さんがそう書かれていたことをロープウェイのシーンで思い出し、嬉しくなった。と言うのもこの廃墟には個人的にかなり思い入れがある。以前卒業制作の短篇をここでロケしたからだが、本当に素晴らしい廃墟だ。自分がここの存在を知ったのは2000年春に出た「萬 廃墟の魔力」という廃墟ブームの火付け雑誌からで、表紙や特集で紹介される摩耶観光ホテルに魅了された。で、これはもう軍艦島とか早々に行けるような場所にはないと思い込んでいたら、三宮から近い。近いどころか極く近い。苦労なく直ぐ行ける距離にあるのを知り、早速ロケハンに行った。ところが、ロープウェイは震災以降止まっている(従って、と言うか実際この作品に登場する水橋と林が乗るロープウェイは摩耶観光ホテルに隣接するロープウェイとは異なる。たぶん表六甲ロープウェイとかだろう。現在は運行休止状態と聞く)ので、歩きで山の中腹まで1時間程歩き摩耶観光ホテルに到着した。それから数時間夢中になって廃墟内を散策したが、昭和初期のモダンな香りを残しながら山の中に聳える摩耶観光ホテルは美しかった。それにしても驚くのはホテル内の複雑な構造で、帰ってきてから1階だと思っていた階の下に更に階があり、和室等があったようだ。不気味で美しい建物だった。ここで撮影すると決め、その作っていたものが昭和初期のハナシだったので丁度良い建物だったわけだが、撮影の際は機材、小道具等含めて夏の最中に山を登って持って行くのに苦労した。照明のバッテリーの関係で最後には小道具のロウソクの明かりだけで撮り、「バリー・リンドン」の様に、などと苦しい言い訳をしなければならなかったことを思い出す。映画、ドラマ等の舞台には以前からなっていたようで、大森一樹は「ユー☆ガッタ☆チャンス」や「トットチャンネル」などで撮影しているし、廃墟ブーム以降はこのホテルそのものを撮影したDVDも各社から出ているし、廃墟が撮れる監督黒沢清の「朗読・風の又三郎」や「IZO」でも使用されていた。現在はホテル横に駅があるロープウェイも再開されて、ホテルまでは実に簡単に行ける。実際2001年にロープウェイ再開後行ってみたが、駅からの正面侵入はできないようになってしまった。ま、訪れる人間が増えたのも理由の一つだろうが、最近では、ここまで厳しくなっているようだ。問題を起こさずに撮るにはフィルムコミッションにでも行けということか。
 摩耶観について長々書きすぎたが、ようはそれだけ思い入れがあるので、出てくるだけで嬉しくなってしまう、しかも林由美香と共に。更に驚くのは、この作品では摩耶観光ホテルのテラスと屋上のみを使用していることで、摩耶観にロケすると大概はあの建物を撮ったり、その中を歩かせてみたくもなりそうなものだが、屋上とあそこから一望できる神戸の街並みを入れるために使っているのには唸った。確かにあの屋上は面白くて、何故か飛行機の車輪が無造作に転がっていたり、煙突があったり、いつまでもここに居たくなる空間だった。クレーンの俯瞰で屋上の林由美香が自転車(!)に乗って円を描いているショットなど泣きそうになる。
 作品の構造自体はそう好きではない。省略と唐突性に計算臭がして嫌だ。底の浅さも。しかし、それは映画館で観るから映画的であるかどうかにこちらの判断が行ってしまっているからで、テレビで観れば本来の位置から観ることができるのではないかと思う。本来劇場にかかるべきものがテレビで流れてしまっていることがある。例えば岩井俊二なら「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」や「夏至物語」が映画館こそが本来の場であり、しかし、同じ監督ながらまるで映画みたいと言われた「Frid Dragon Fish」を劇場で観ると所詮は映画みたいなテレビでしかなく、テレビこそが作品に合ったサイズであることがわかる。「日曜日は終わらない」もテレビこそがこの作品に合ったサイズであったように思う。そういう意味でも是非ソフト化して欲しいし、再見したい。
 書き忘れていたが、やはり大阪弁が少なかったのは残念だった。このキャスティングで中途半端な聞き苦しい大阪弁を聞かされても困るのだが、せっかく大阪の素晴らしい場が切り取られていただけに残念だった。
 尚、この日は満席で補助椅子も出る盛況で、千円の日ということもあったのだろうが、自分の前の列はオバハンが並んでいた。珍しいと思いつつ、自分の前に座っているオッサンをよく見れば由美香ママだった。「由美香」に登場したままの一見オッサンに見える風貌だったが、しかし何人か連れて観に来るというのは良いなと思えた。更にその前には松江監督が居たので、90年代後半の面白ドキュメンタリーの登場人物達が居るなあと、くだらないことを思っていたが、それにしても由美香ママがよく動くし喋るしで、かと言って注意するわけにはいかず、更に途中でパブのシーンが終わったら出て行ってしまったりと、自由奔放ぶりだったのが笑えた。 
 

204)「メゾン・ド・ヒミコ」(シネマライズ) ☆☆☆★★★

2005年 日本 「メゾン・ド・ヒミコ」製作委員会 カラー ビスタ 131分
監督/犬童一心     脚本/渡辺あや     出演/オダギリジョー 柴咲コウ 田中泯 西島秀俊 村上大樹

 「ジョゼと虎と魚たち」は、世評程良いとは思わなかったが、「金髪の草原」で呆れ果てた犬童一心にしては、かなり良かった。渡辺あやの功績が大きいが、演出も悪くなかった。ところが続くメジャーで撮った「死に花」がゴミのような映画で、典型的な大ウソがつけない若手監督のエンターテインメント志向が失敗した作品で、ベテラン達の大芝居のリアクションを一々アップで拾う見せ方には頭を抱えた。
 この程度の監督が、今年もまた2本も撮る機会に恵まれるとはどういうことかと思いながら観た「メゾン・ド・ヒミコ」はジョゼ虎コンビによるオリジナル作品だ。
 これが非常に心地良い秀作だった。これは寓話だが、直ぐに作品の世界観にスンナリ入れた。メゾン・ド・ヒミコという建物が主役の映画だから、建物が不味ければハナシにならないが、建物が良い。
 ゲイの為の老人ホームに居るゲイ達をどういう視点で描くか。過剰なまでに美化されても困るし、悪ふざけが過ぎても白ける。この作品では、その辺りのバランスがとても良く、表層的という批判はあるだろうが、寓話なのだからそれで良いと思う。
 犬童一心は老人に拘り続けるヒトだが、この作品で一つの到達を見せた。勿論、そこにはやり過ぎない演技で見せる役者達に負うものが大きい。
 オダギリジョー柴咲コウという監督の腕次第で、明確に良くも悪くもなってしまう極端な役者を使っているが、今回は良かった。オダギリジョーは今年、多くの作品に出ているが、本作と「夢の中へ」が良い。柴咲コウは時としてCM的な表情になってしまう嫌いがあるが、良かった。
 特筆すべきは田中泯で、どうも最近は一度当たり役が出たらその延長線上のものしかやらせないが、本当は常に全く異なる役を与えるべきで、そういう意味でもこの役を田中泯にやらせるのは良いし、又成功している。
 悪戯を仕掛けていたガキの一人がヒミコに出入りするようになるエピソードが食い足りないとか(もう少しオダギリへの想いを描いても良かった)、金の問題が飛んでしまうとか、ディスコのシーンがラストにかけてギリギリの許容範囲だったのでもう少しリズム感とソフィスティケイテッドされた見せ方をしてほしかった(しかし嫌いではない)。とかあるが、それは微細なことで、作品の欠点にはならない。
 メゾン・ド・ヒミコという空間の成立とそこに居る人間達を魅力的に捉えたことで、この作品は秀作になった。