映画 「新宿泥棒日記」「夢のサンフランシスコ」

若松孝二 DVD-BOX 発売記念イベント「SHINJUKU FEST 2005」第1部
229)「新宿泥棒日記」(紀伊國屋ホール) ☆☆☆★★★

1969年 日本 創造社 ATG パートカラー スタンダード 94分
監督/大島渚    脚本/田村孟 佐々木守 足立正生 大島渚      出演/横尾忠則 横山リエ 田辺茂一 高橋鐡 渡辺文雄 佐藤慶 戸浦六宏 唐十郎 若林美宏  
新宿泥棒日記 [DVD]
 DVDでも持っている「新宿泥棒日記」を態々観に行ったのは、同時上映のスニーク上映作品を気にしてのことだった。本作の尺と葛井欣次郎の喋りを合わせて、その空時間に上映できるものとなると30分以内に限定される。従って大島なら「小さな冒険旅行」か「私はベレット」か(これは後で確認すると夫々60分あるのでハナから無理なハナシだった)、「忘れられた皇軍」のようなテレビドキュメンタリーか、或いは若松のラブホ用の短篇とか、または全く未知の作品ー例えば「新宿泥棒日記」の未使用フッテージとか、などと諸々想像しつつ、それの為に「新宿泥棒日記」に付き合うーとは言え、新宿紀伊国屋内の紀伊國屋ホールという1964年の開館時と変わっていない姿の場所で1968年に撮影された紀伊国屋を主舞台にした「新宿泥棒日記」を観るという機会は、そう無いことだということで、観ることにした。
 この作品のみならず、大島渚の「日本春歌考」や「帰ってきたヨッパライ」などの初見の印象は、そう良くも無い。観念性がうまく作品に定着していないとか、意欲的に取り込んでいる実験要素が完全に巧く機能できていないといった欠点がかなり気になってしまった。とは言え異物感はある。そこで再見を繰り返すと、その度に魅力が増していく。
 本作もそういった1本で、ドキュメンタリー要素が中途半端になってしまっているとか、方法論の迷いが顕著なのだが、1968年の新宿を捉えた素晴らしい作品であるには違いない。この作品と極めて近い形を持っている、ある種のリメイクと言って良いのが1997年夏の渋谷を捉えた「ラブ&ポップ」である。
 この作品は体感する映画であり、観終わって会場から出てくると、37年後の配置は違えども建物はそのままの紀伊国屋書店があるという奇妙な状況を味わうことができて良かった。「新宿泥棒日記」が」より好きになる瞬間を味わえた。

230)「夢のサンフランシスコ」(紀伊國屋ホール) ☆☆

1969年 日本 紀伊国屋書店 カラー スタンダード 分
監督/若松孝二    出演/田辺茂一 立川談志 林家三平 林家ペー 若松孝二


 (上記画像は作品のものではない)
 で、前述のスニーク上映作品だが、これが全く意外な作品で、驚くべきものだった。タイトルはこれで合っている筈だが、クレジットではサブタイで1969年何月何日という日付も入っていたがメモしていなかったので不明。また、作品の詳細解説もなかったので観た限りの理解しかできないが、ようは1969年にサンフランシスコに紀伊国屋がオープンすることになり、その披露に田辺茂一が作家、文化人を招いてサンフランシスコ、ホノルルへ行った模様を記録したものだ。
 ナレーションは田辺茂一立川談志。談志もこのツアーに同行している。
 開巻は、羽田での壮行会の模様で、田辺が、昨年出演した「新宿泥棒日記」で知り合った若松孝二とカメラマンの吉岡康弘に記録を依頼したといったことが語られる。というわけで、撮影は吉岡康弘である。若松と吉岡は劇映画では一度も組んでいない筈なので、この組み合わせは珍しい。若松がプロデュースした林静一の「夜にほほよせ」は、吉岡が撮影しているが、これは普段若松プロでお馴染みのカメラマン伊東英夫のスケジュールが合わなかった為である。
 空港では、林家ペーのギターに合わせて立川談志林家三平が唄う様子や、東宝、松竹の女優から田辺に花束が贈られる様子など。(松竹は園佳也子だったか?)
 因みに上記出演クレジットは本編に表示が出るわけではなく、自分が分かったのがこの人達ぐらいだったということだけである。
 サンフランシスコ到着後は、オープンする紀伊国屋書店や、観光の模様など。
 ナレーションの立川談志が、相変わらず余計なことを喋り倒していて、田辺の愛人に踏み込むと田辺が黙り込み、こりゃ余計なこと言ったかな?とちょっと反省するも直ぐに、田辺とマリファナLSDを嗜んだことを暴露。ま、別に良いのだが。
 帰路で立ち寄ったホノルル(談志はコチラには寄らずに直帰したらしい)の観光描写を経て、ここまでは別に若松作品らしさもなければ(ま、この内容で若松色を出せと言うのも無茶なのだが)、珍しい映像と言うか、60年代の新宿の息吹を感じる映像だったなと思った程度なのだが、ラストに突如若松映画と化して嬉しくなる。
 それまでの華やかに周囲に人々を集めていた時から一転して、田辺が一人歩いている。吉岡康弘のカメラはそれを横から捉えて田辺の歩みに合わせてハンディで横移動していく。バックには若松的な唄が流れ、画面は田辺の横顔を捉えたまま静止し、終と出る。
 まるで、若松作品のラストシーン(映画であれば正面から人物を捉えていることが多いが)のようで、一人の男としての田辺茂一が浮き上がっていて良かった。
 上映後、葛井欣次郎と共に平沢剛が出てきたので全て了解できた。先ごろのポレポレ東中野で「HOW TO LOVE 浮気の誘惑」を発掘してきたことと言い、若松孝二レア作品発掘家として大活躍である。纏めて上映したいとも語っていたので楽しみだ。

トークイベント 葛井欣次郎

 ATG新宿文化支配人で、ATGを語る上で欠かすことが出来ない人であるが、朗々と「新宿泥棒日記」についての思い出を語っていた。歴史上の人物を見たなあ、という思いだった。男の中の男・若松孝二と二度も言ったのが面白かったが、確か河出書房から今年の春に回想記が出ると聞いていたが、その後どうなったのだろうか。