映画 「るにん」

molmot2006-01-16

4)「るにん」(シネマスクエアとうきゅう) ☆☆★★★

2004年 日本 ゼロ・ピクチュアズ カラー ビスタ 149分 
監督/奥田瑛二    脚本/成島出    出演/松坂慶子 西島千博 小沢まゆ 麻里也 ひかる 島田雅彦 奥田瑛二

 「少女〜an adolescent」に続く奥田瑛二監督第二作。「少女」(2001/10/3 OS・CAP ☆☆☆★)は、佳作には届かなかったもののデビュー作としては悪くない出来で、煙突上の合成シーンの為の部分的ハイビジョン使用がキネコの調子の悪さも相まって、浮いてしまっていたのが残念だったが。
 とは言え、どんどん作を重ねていくべきと好意的に思った奥田瑛二の監督第二作を観るまでに4年以上かかってしまったのは残念だ。もっとも作品自体は2003年に撮影し、完成していたようで、相変わらず日本映画未公開作が100本とも200本ともあると言われる現状を反映した公開の遅さには気の毒に思う。奥田自身は既に監督第三作として緒方拳主演の「長い散歩。」を完成させているらしいが、それを観ることができるのはいつになるのかと思う。
 平日とは言え、夜7時の回にして疎らな観客席を見ると暗澹たる気持ちになる。本来、メジャー系の会社がやるべき作品を奥田個人に背負わせてやっているのが情けないが、できることなら作品の出来も悪くなくて何故こんな良い作品なのに客が入っていないんだと言えたらどんなに良かったかと、見終わって思わずにはいられなかった。
 残念ながら「るにん」は前作よりも劣る完成度になってしまった。八丈島の自然を捉えた美しいシーンは多く、魅力的だが、やはり2時間半は冗長だった。開巻でまず躓いたのが、西島が流されて来て上陸するまでが長い。八丈島の全景で始まり、崖上をあおりで捉えたショットに旗が四本等間隔で現れ、その下に九人の人の姿が現れるという、黒澤好きの奥田らしい重厚な時代劇になるかと思いきや、丸籠に入れられた囚人が崖下へ突き落とされていく様とそれを見て悶える松坂といった描写からして長く、これは1シークエンス毎の尺を食いそうな作りの映画だという予感は不幸なことに当たり、以降、クレジットが出て西島と松坂が出会うまでも、それなりの尺がかかってしまう。
 「るにん」と言っているくらいだから、開巻は島に舟が着く所から始めた方が良かったのではないか(「暴走機関車」の黒澤版がいきなり暴走してるところから始まるみたいなもんで)。ま、開巻近くで丸籠突き落としを見せたのは伏線の意味合いがあるということだろうが、それほど頭で見せておく必要も感じない。
 松坂は島で女郎をしている。西島との関係が深まっていくが、それはそう深く二人を描くわけではなく、島の住人達の群像劇として展開していく。しかし、この群像劇がうまく機能しているようには思えなかった。ようは詰め込み過ぎで、各エピソードの間隔がまちまちで、小沢まゆと麻里也の乳だし水浴び風景からパンして道を歩く松坂とひかるの、ひかるが突如失明するエピソードなど唐突で、この箇所に入れることもなかろうにと思ってしまう。
 最大の難点は、意外なことに役者・奥田瑛二だった。「少女」では監督主演を兼ねていたが、特に問題もなく、自分は奥田瑛二は好きな役者なので相変わらず良いなと思いつつ観ていた。しかし、今回は主演ではない。脇にヒールとして登場するのだが、これがもう演り過ぎで辟易させられる。大体、松坂は良いとしても西島は存在感が薄く、八丈島の絶大な風景に飲まれ気味で、不味いなと思いながら観ていたら、そこに奥田瑛二が出てきてしまえば、当然奥田は風景から浮いて際立つ存在感を見せ付けるので、映画全体の流れをかき乱す。初めはちょっとした顔見世程度かと思っていたら、やはり役者の欲張りな面が出たと言うべきか、ケッコーな自身の見せ場を作ってしまっていた。
 才ある俳優が自身で監督する時は、主演もするか顔見世程度にしておくか、主役に自分よりも存在感のある奴を据えるか、或いは妙な存在感のある奴を据えるかしない限り、助演的な出方をしては映画のバランスを崩す恐れがある。北野武が「3-4X10月」で失敗しなかったのは、柳ユーレイという妙な存在感のある役者を中心に据えたから沖縄パートで自身が顔を出しても作品が揺るがなかった。
 本作での奥田は、飢饉での飢えによる凶暴性を見せるのだが(この飢饉というのも唐突で、時間経過や群像劇なのに、夫々の飢饉に対する描写は皆無で、段取り的な会話のみで示されるだけだ)、屋敷で小沢まゆと麻里也を柱に縛り、飯釜に指突っ込んで熱つつ、とか手についた米を舐めるのを、FIXの中で寄って来て見せたりと、下品だなあ、と。更に麻里也を犯すシーンもあり、目立ちすぎも良いところだった。奥田関連のシーンは作品中全く違和感しかなかった。これが他の監督作なら、そのシーンを食ってしまった奥田に文句を言う筋合いではなく、食われた監督と役者が悪いと言えるが自分で監督していて、それで良いのかと。役者の性だと言ってしまえばそれまでだが。しかし本作など、奥田が自ら主演した方が作品に遥かに求心力だ出て良かったように思う。
 終盤は、やはり島からナニしたまま終わった方が良かったのではないか。以降のシーンはパターンにハマったもので、どこまで見せる気なんだと疲れる思いだった。「るにん」と言うタイトルで島の密閉感の中でのみ描いた方が良かったように思う。
 次回作の緒方拳主演「長い散歩。」を期待したい。