映画 「狂った野獣」「ピラニア軍団 ダボシャツの天」

molmot2006-06-29

『甦る昭和脇役名画館』(鹿島茂著・講談社・税込み2520円)刊行記念 脇役列伝〜脇役で輝いた名優たち〜

 ふらりと立ち寄る良い環境の映画館で東映2本立てを観ている至福感は忘れ難く、「狂った野獣」は劇場、ビデオで何度も観返しているから別に行く必要もなかったが、「ピラニア軍団 ダボシャツの天」は未見だったので、最終回だけ観ようとしていたが、やはり、大きなスクリーンで傑作「狂った野獣」は何度でも観たいので、タイトル出始めからの入場となったが、やはり圧倒された。

151)「狂った野獣」 (新文芸坐) ☆☆☆☆

1976年 日本 東映京都 カラー スコープ 78分 
監督/中島貞夫     脚本/中島貞夫 大原清秀 関本郁夫      出演/渡瀬恒彦 星野じゅん 川谷拓三 片桐竜次 白川浩二郎

152)「ピラニア軍団 ダボシャツの天」 (新文芸坐) ☆☆★★★

1977年 日本 東映京都 カラー スコープ 83分 
監督/山下耕作     脚本/松本功      出演/川谷拓三 竹田かほり 菅貫太郎 岩田直二 夏八木勲 室田日出男 あき竹城 小松方正
 
 ピラニア軍団が一時期的に持て囃された頃から少しして生まれた身の割には、それ程東映映画を観ていない頃からピラニア軍団という呼称を覚えていたのは何故かという思いがあるのだが、ピラニア軍団映画の終焉を飾る「ピラニア軍団 ダボシャツの天」は、ソフト化されていなかったので未見のままだったが、観る機会を得ることができた。
 観る前に危惧していたのは、自分は東映のこの時期の「男はつらいよ」に触発された泥臭い人情喜劇が大嫌いなので、そういった要素が多分に多くありそうな気配が漂い、又、これ見よがしにピラニア軍団の顔見世興行めいた作りになっているのではないかという思いがあったので、敬遠したいとすら思ったが、実際に観ると、思っていたよりは遥かにマトモな作りだった。
 開巻の刑務所前で娑婆に出た親分を迎える舎弟を見て、憧れる川谷拓三が刑務所の壁に立小便して刑務官とイザコザを起こすシークエンスを観て、これは不味いんじゃないだろうかと不安に思った。
 “精神病院に入れ”という刑務官の科白に同感したくなるくらい、どう観ても川谷拓三は弱い感じで(何せ、セーターを折り曲げて太い腹巻にしている変人である)、無垢な男のひたむきさだとかが強調されたり、それこそ天王寺公園の竹田かほりの登場シーンが一瞬盲目者に見えたので、くだらない善意の押し売り映画になるのではないかと恐々とさせられたが、それは全くの杞憂で、やくざ映画のパロディとして観る分には、どうやっても東映京都なので、ゆるゆるであっても、それなりに観ることができるものになっていて、案外楽しめた。
 通天閣をバックにしたタイトルバックに拓ボンの唄が流れるが、これもモロに「男はつらいよ」を意識したものだったが、この時期の東映が作ると、人情部分は極く薄く、お得意のヤクザの出入りのハナシになってしまうというのが笑えるが、観客としても妙なモノを見せられるより、その方がずっと良い。
 個人的には、通天閣周り、天王寺公園阿部野橋といったロケーションが嬉しいので、楽しんで観ていたが、ま、役者の怪演をノンビリ楽しむ作品である。むしろ一番ノッているのが、カマっぽい動きを全面に取り入れた小松方正で、明らかにピラニア軍団を食う気まんまんでやっている。
 この時期の川谷拓三は、何度でも突っ込んでいく鉄砲玉的演技と途端に被害者意識を持ち震える演技こそが魅力なので、竹田かほりとのカラミのような受けの演技が出来ていない(通天閣前でのキスシーンを真下から煽りで撮る奇抜さは嫌いではなかったが)。その分、監督、役者共々夏八木勲との舎弟描写には力が入り、悪くなかった。
 川谷拓三をメインにして映画を引っ張るというのは、かなり無理があるのだと思い知らされる作品で、川谷と竹田の関係の描写の薄っぺらさ(陰毛を大量に渡すのも凄いが)に比して、川谷と夏八木、又は夏八木と室田日出男、川谷と志賀勝の方が、遥かに濃密さを持っており、これは脚本、演出上でもそうなっているのだが、役者としての映えが、川谷、夏八木、室田、志賀が並立、或いは夏八木や室田の方が上回ってしまっているので、作品のバランスが妙なことになっている。
 人情喜劇要素を外して、やくざ映画のパロディとなっていることは悪いことではないが(落雷で夏八木と室田がドリフ的落雷後の黒こげになる描写は良い)、香具師をやっている川谷の設定が生かされておらず、これならチンピラの鉄砲玉のハナシにしている方が通りが良かった。