映画 「生首情痴事件」

molmot2006-08-08

和製ホラームービー・コレクション  (ラピュタ阿佐ヶ谷) 
192)「生首情痴事件」 (ラピュタ阿佐ヶ谷) ☆☆☆★★

1967年 日本 大蔵映画 パートカラー スコープ 72分
監督/小川欽也    脚本/津川京一    出演/鶴岡八郎 火鳥こづえ 高月絢子 泉田洋志 泉ユリ
大蔵怪談傑作選(2)「生首情痴事件」 [DVD]
 山田誠二が発掘してきて一時期随分話題になったが、その時は観損ねたものの、どうも客筋が良くない気がして(選民意識は持ち合わせていないが、意地の様に笑おうとする客やら作品への愛情がない蔑視的笑いは嫌いなので、どうも紹介記事等からそういうニオイを感じ取り敬遠した部分もある。実際はどうだったのかは知らないが)避けた部分もあったのだが、その後ビデオ化もDVD化もされ、割合見易い状況にはなっていたが、何だかんだで観ないままで来た。観てないの?とタマに言われたが、そんな誰もが観てるみたいに言うかと思いつつ、ようやく観たが、普通に面白かった。客も少なく無理矢理バカ笑いする奴もいなくて心地良く観ることができた。
 60年代のピンク映画は僅かにしか観ることができないが、よく出来ていると驚くものもあれば、凡作以外の何物でもない酷い作品もある。
 「生首情痴事件」にしても、観る前は珍品の一種だろうと思っていたが、撮影所システムが残っていた時代の作品だなと感心するのは、陳腐になっていてもおかしくないこういった作品でも、ショットの繋ぎは良いし、ポンとロングの俯瞰に持っていく巧さがあるし、観ていて安心できる。
 前半の、火鳥こづえ(足立正生の「避妊革命」で丸木戸定男の妻を演じていたのを観て以来だ)が夫に殴られて居間の机の横に座り込んだ際に、額にはうっすら汗が滲んでいるし、鶴岡八郎がデカイグラスに薬を仕込んだワインを入れるシーンなど、ヒッチコックの「白い恐怖」や「断崖」、更にはジョージ・キューカーの「ガス燈」も思い出して、神経衰弱映画の傑作に入るのではないのか、そんな展開になったら凄いけどと思いつつ、割合定石的な展開になっていったが、やることはちゃんとやっている作りなので安心して画面に身を任せていた。と言ってもチープな箇所や笑ってしまう箇所はある。金目当ての結婚であることを見透かされていた夫は、妻に向かって、妻の性交渉が悪いんだと凄い開き直りをして、悔しかったら体で対抗しろと言いのたまい、キッチン・ファックに到るのも凄いが、それを居間からロングで見せる。まあ、幽霊シーンに関してはチャチなワイプで切った登場が不味いとかあるのだが、終盤の医師の欲望丸出しな行動には流石に笑ってしまったが。
 60年代末のピンクを何本が観ていると、映倫の規定が緩くなったり厳しくなっているのがわかる。以前は問題なかったのが厳しくなって乳首は一切見せなくなったり。本作では乳首が2、3カット観ることができる。当然性交シーンでは不可で、ベッドに寝そべっている際に身を起こす動作で僅かに見えたり、入浴シーンで見える程度だが、妙に画面に見入っていると、あ!見えた!と思わず身を起こしてしまい、直後に恥じるという行為を何度かしたが、女性の腋毛ナメで見せるショットとか、現在から観ると逆に斬新で、腋毛自体、小学生の時に黒木香の末期で見ていた程度でしか見ていないから、ある意味斬新に見えてしまう。
 線路に妻を寝かせて汽車に轢断させ、生首が転がっていく凄惨さが素晴らしい。以降の恐怖演出は音で先行して脅かし過ぎる嫌いがあるものの、音を消して再見すれば明確だと思うが、恐怖演出の巧さが目立つ。いかにもな紙が風で舞うようなシーンより、その後の廊下で電話していたら後ろの照明の下の装飾が僅かに揺れているものの、そのシーンでは何も起こらない。その僅かな揺れが恐ろしかった。
 ラストは衝撃な展開だったが、ずっと生首が部屋の片隅に浮かんでいるのが恐ろしい。
 珍品などではなく、恐ろしく真っ当な恐怖映画だった。