映画(TV/VIDEO/LD/DVD)「17才 旅立ちのふたり」

56)「17才 旅立ちのふたり」 (VIDEO) ☆☆☆★

2003年 日本 「青春ばかちん料理塾」「17才」製作委員会 カラー ビスタ  63分 
監督/澤井信一郎   脚本/東多江子    出演/石川梨華 藤本美貴 渡辺えり子 塩見三省 高橋ひとみ 村上弘明
17才 旅立ちのふたり [DVD]
 噂には聞いていたので、だからこそ以前中古ビデオで安かったので購入したのだが、唖然とするぐらいプロの手腕で作られた秀作だった。
 勿論、監督が澤井信一郎なので悪いわけがないとは思っていても、いくら「野菊の墓」「Wの悲劇」「早春物語」「恋人たちの時刻」と初期のアイドル映画の凄さを知ってはいても、「時雨の記」に到った監督が以降4年間新作を撮れないまま来て、ようやく決まった新作が「仔犬ダンの物語」で、翌年に本作を撮るという流れは、観ないでとやかく言うのは最低と知りつつ、言いたくなってしまうぐらい澤井信一郎の不遇を思わずにはいられなかった。ところが、観てみると現在においては珍しい63分という中篇の、ようは往年のSPのフォーマットで、一切の手抜きなく、映画の見本とはコレだというぐらいプロの技術を発揮して充実した作品にして見せてくれている。
 開巻の煙幕の上がる工場の均一にならんだ建物をロングで捉えたロングショットから、石川梨華の自転車の疾走を移動で捉えたショットへと続くのを目にしながら、そこにあまりにも堂々と映画が展開されていることに驚きながら、でも澤井信一郎なんだから当然なんだとも思いつつ、モー娘のお仕着せ企画でカビの生えたようなとても2003年の映画とは思えないような古めかしい骨格を持った物語を、演出の力量とプロの技術が支えることで、一瞬も弛緩させることなく緊張感に満ちたショットを次々と見せていくことに感嘆した。
 正に映画のお手本であり、60分台の中篇を作る必要のある新人監督や、映像系学校で製作する予定のヒトは丹念に本作を観た方が良い。
 どこをロングで見せきり、どこで寄り、どのシーンで移動を使うべきか、全く狂いない演出を見詰めることの心地良さを感じる。御蔭で、イマドキこんなハナシで、と思いつつ、神社で実の父である村上弘明石川梨華が対面し、石川がバストサイズで自分の名前を名乗る時の刹那感には涙が溢れた。
 石川梨華藤本美貴も演技としては相当不味いのだが、石川はまだしも、藤本の文節区切りまくりのブチブチ切れる台詞回しには観ていて困ったものの、石川の安定感の対比として、結果的に不安定感を煽る映画の中の対極軸として成立してしまったように思う。
 素晴らしいのは高橋ひとみが交通事故に遭うシークエンスで、前段階のアクションと疾走、ブレーキで音を聞かせた上で、次のカットでは車が路肩に曲がって停車してあり、高橋が倒れているのをカメラをやや下げてロングで見せきるのが凄い。
 本作を観て、俄然「仔犬ダンの物語」を観なければならないようになった。