『おやすみ由美香』

1)『おやすみ由美香』(DVD) ☆☆☆☆

2006年 日本 カラー スタンダード 分

監修/平野勝之     出演/林由美香 平野勝之 井口昇

由美香 コレクターズ・エディション [DVD]

 『由美香』DVD特典最大の目玉は、『おやすみ由美香』だ。「平野勝之監修による未公開シーン集」というジャケットの文字から受ける印象は、単に未使用素材をブツ切れに適当に並べただけの未公開シーン集、それこそ昨年ロフトプラスワンのイベントで撮影素材を上映しながら観ていたものを適当に摘んだだけのもの、という思いだった。それでもDVDに収録されただけ良いと思いつつ観始めたら、これがとんでもない秀作だった。『由美香』『愛しのAVギャル〜林由美香編』に続く、『由美香3』と言っても良い優れた短篇だった。

 視点は2006年現在からである。開巻は、帰還した平野と由美香を迎えに行く車中での会話から始まる。その助手席に座っているのは井口昇で、ここでは、ウンコのニオイのする所に井口ありという伝説が映像で示される。ロフトプラスワンでもこの箇所が流された時に爆笑だったのは、余りにも井口昇がウンコを連呼するからで、「由美香ちゃんがウンコ食ったらしい」と何度も口にする。それもかなり嬉々としながら。

 この後、井口ウンコ伝説として、本編にも使用されているV&Rでの由美香食糞計画会議の席で絶妙のタイミングで登場する井口の姿、居残り組のスタッフが現地で最後にあることが起こると話していると、そこへ絶妙のタイミングで現れる井口といった姿が示されて、爆笑させられる。

 既にこの段階で、平野勝之の自由奔放にして繊細な編集、テロップ、止め画の堂に入った使用に魅了され、単に未使用シーンを羅列しただけではなく、これは平野勝之の新作だという思いに身を起こしていた。

 港へ迎えに到着した井口らは、石段に座る由美香を捉える。どうだったという問いに、由美香は「大変だったよ」と答える。

 そして、本編でのクライマックスとなった、ウンコシーンへと移る。この構成には驚き、てっきりロフトで上映された時同様、本編以降の描写、つまりは帰還時の映像を見せる程度と思っていたので、本編では流れの関係でかなり早く処理された食糞シーンを丁寧に見せるとは思いもしなかった。因みに自分は飯を食いながら眺めていたので、この段階でまさかと思い青ざめた表情で箸を止めた。そして止めて正解だった。

 10年前、『由美香』を初めて観た後、自分と友人はあまりの面白さに興奮のあまり、大阪の環状線に揺られながら、ウンコ食ってウンコ食ってとデカイ声で連呼し過ぎて、近くに座っていた小さい子連れの母親にすんごい形相で睨まれたことがあったが、その時、あのウンコは本糞であろうかという論議があった。スカトロビデオでは、見て直ぐ分かる贋糞を使用することがよくあるが、本作でも排泄の瞬間がはっきり見えなかったり、カットを割ってあったし、何より、余りにも絵に描いたような巻きババウンコだったので、本糞かどうか微妙なのではないかと。

 そういう意味で、『おやすみ由美香』で、排泄に到る過程を丁寧に見せたのは良かった(ウンコ姿をじっくり見れて良かったと書くなんてどう考えても可笑しいが)。

 由美香がテント内で網戸を閉めた向こうで排泄を始めるも、カメラからは網が邪魔でよく見えない。イラついた平野が、見えない見えないと網戸を開けて、由美香が、エーっと言いつつ排泄する。今回も、カットが割ってあったので、排泄の瞬間というのが無い為、本当に本糞なのかどうかというハナシになるのだが、まあ、色艶からして本糞であろうと(私は一体誰なのか)。

 面白いのは、排泄から食糞に到る過程が直ぐではなく、間が空いていることで、平野は由美香をテントに残したまま小便に立ってしまうのだ。時間が空けば細菌の発生率が高まるのではないかと不安になるぐらいだったが(不謹慎なことを今から言うが、林由美香が亡くなった時、友人はスグサマ、「あ、ウンコ食ってたから?」と、まるで常時食ってるかのような言い様をしていた)、ここでカメラを回しっぱなしにしていたことにより、素晴らしい光景が捉えられている。

 平野が席を立っている間、由美香はラーメンの準備をしている。その際に独り言を漏らす。正確ではないが、「何でこんな時にオシッコ行くのよ」とか「こんなの食べるもんじゃないんだからね」とか呟いている。しかし、「これが終われば宿に泊まっていっぱい食べて、帰れるんだから頑張んなきゃ」といったようなことを口にしたのを見ていたら、涙が溢れた。これまで見ることのなかった林由美香の一面やプロであることの徹底した姿勢の一端を見ることができたような気がした。

 以降、食糞シーンを丁寧に見せる。本編では、口に入れているだけ程度に見えなくもないだけに、ここまでしっかり飲み込んでたんだと感心して眺めていた。

 映像は、再び埠頭へ戻り、帰還した由美香の一言の後、また食糞後の報告を平野が電話で方々へする描写へと戻る。電話BOXで、「由美香がウンコ食いました!」と嬉しそうに報告する平野に、「声が大きい!!」と注意する由美香が笑わせる。

 ここでまた埠頭へ戻り、平野が登場する。配送の不手際で自転車が傷んでいたことを怒りながら登場して直ぐにハケてしまい、迎えに来た人々を、旅を経ても何にも変わってないと呆れさせる。

 幸福な映像はここで終わる。以降テロップで、“その後”が示される。平野の10年後は変わらず自転車で北海道への旅を続けている。そして由美香は9年後に逝去した。その葬儀では、「かつての恋人達が共に彼女の棺を担いだ」という一文に泣いた。

 映像は出発前の母と話す由美香へと飛ぶ。そして、旅の途中で疲労の限界に達した由美香が母親へ電話するシークエンスを見せる。泣きながら疲労を口にする由美香だが、突然、「メロン食べた?」と会話が転調するのが可笑しい。この電話する由美香をあおり気味に捉えたショットは本当に可愛い。このラブリーなショットを見せて、この作品は終わる。

 2006年現在から観た『由美香』でありながら、この作品が本編のテンションと同じなのが凄い。10年という歳月、由美香の死という大きな変化を伴いながら、『由美香』のテンションがそのまま続いている。カンパニー松尾の『YUMIKA 1989-1990 REMIX』と並び、平野勝之による林由美香への別れを映像化した素晴らしい傑作だった。